組織開発・人材育成を支援するALL DIFFERENTとラーニングイノベーション総合研究所は、同社管理職向け研修の受講者を対象に「管理職意識調査」を実施。結果をグラフにまとめて発表した。
本レポートでは、課長クラス以上の管理職(以下「管理職」と記載)のうち、1~3年目の課長クラスを「新任管理職」、4年目以上の課長クラスを「ベテラン管理職」、部長クラスを「幹部候補」と三つのステージに分類して、ステージ別に比較を行なっている。
約8割の新任管理職は、課題を感じることが「とてもよくある」「よくある」と回答
初めに管理職としての役割を果たす中で、課題を感じることがどれほどあるか、実感度合いを質問した。
その結果、「とてもよくある」「よくある」と回答した割合は、新任管理職では79.1%、ベテラン管理職では64.7%、幹部候補では53.0%となった。ステージが低い管理職ほど、自身の役割に対して課題を感じやすいことがわかる(図1)。
■管理職の役割を果たすため、新任ほど「観察力」「聞く力」の強化に取り組む
管理職としての役割を果たすために努力していることを質問した。
新任管理職では「部下のことをよく観察する」「聞く力を強化する」と回答した人が最も多く、53.6%となった。次に「部下の強み・弱みを知る」が51.8%で続く。
ベテラン管理職では、「部下の強み・弱みを知る」が54.3%、「部下のことをよく観察する」が45.7%、「聞く力を強化する」が43.1%。幹部候補では、「部下の強み・弱みを知る」が47.0%、「部下のことをよく観察する」が43.9%、「経営の方針を深く理解する」が42.4%となった。
各ステージ共通して、部下への理解に関心が向いており、その割合は、ステージが低い管理職ほど高いことが判明した。また、管理職の経験を積むにつれて、経営方針や競合他社への理解を深めようという姿勢が高まる様子も見受けられる(図2)。
■自身の知識・スキルを伸ばす努力、新任「周囲へ助言を求める」、経営幹部「新たな取り組みへの挑戦」が突出
次に、自身の知識・スキルを伸ばすために努力していることを質問した。
新任管理職は「経営陣・上司・同僚に助言を求める」と回答した割合が54.5%となり、他ステージに24ポイント以上の差をつけ、突出する結果となった。
次に、「新しい知識・スキルを習得するためにセミナーを受講する」が36.4%、「社内の関係者と積極的に関係性を構築する」が31.8%と続いている。
ベテラン管理職は「新しい知識・スキルを習得するためにネットメディアを閲覧・視聴する」が37.9%、「新しい知識・スキルを習得するために書籍・雑誌・新聞を読む」「自身の現在の知識・スキルについて把握する」が同等の割合で33.6%の並びとなった。
幹部候補は「新しい仕事の取り組み方を積極的に試す」が40.9%となり、他ステージよりも19ポイント以上高い。次に、「新しい知識・スキルを習得するためにネットメディアを閲覧・視聴する」が37.9%、「新しい知識・スキルを習得するために書籍・雑誌・新聞を読む」が36.4%と続く(図3)。
■会社からの成長支援、「経営層・上司」とのコミュニケーション機会や「自己学習機会」を求める傾向に
最後に、成長に役に立った会社からの支援について質問した。
新任管理職は「上司とのコミュニケーションの機会」が40.0%、「eラーニング等、自己学習制度」が31.8%、「会社からの役割や期待の伝達」が27.3%となった。
ベテラン管理職は「上司とのコミュニケーションの機会」が33.6%、「eラーニング等、自己学習制度」が28.4%、「職場の雰囲気・文化」が23.3%。
幹部候補は「eラーニング等、自己学習制度」が40.9%、「経営層とのコミュニケーションの機会」が39.4%、「上司とのコミュニケーションの機会」「上司との定期面談」が同等の割合で34.8%という結果が得られた。
他ステージと比較すると、幹部候補では「eラーニング等、自己学習制度」「上司との定期面談」「経営層とのコミュニケーションの機会」「ジョブローテーション」「キャリア支援制度」が突出している(図4)。
調査結果まとめ
今回の調査結果より、ステージが低い管理職ほど、管理職としての役割を果たす中で課題をよく感じていることがわかった。
その課題を克服するために、新任管理職は部下をよく観察したり、相手の言葉をきちんと聞き取る力(聞く力)を伸ばす努力をしていることが判明。自身の知識・スキルを伸ばすためには、独学よりも、経営陣・上司・同僚など、周囲に助言を求めることを重視していることも明らかになった。
成長の役に立った会社からの支援についても「上司とのコミュニケーションの機会」と回答した人が多く、新任管理職では上位階層と交流を通じ、視座を高めて成長していきたい様子が見受けられた。
ベテラン管理職においては、管理職としての役割を果たすために、部下の強み・弱みを知る努力をしている傍ら、自身の知識・スキルを伸ばすために、ネットメディアや書籍・雑誌・新聞からの情報収集や、自身の知識・スキルを把握することで、俯瞰した視点を持つ努力をしている様子も見えてきた。
幹部候補は、他ステージよりも課題を感じる機会が少なく、部下を知ろうとする意識が薄いことが特徴だった。一方、自身の役割を果たすために、経営方針を深く理解することで視座を高めたり、新しい仕事の取り組み方を積極的に試すことで自ら変化に対応する環境に身を置く努力をしていることもわかった。
■CLM(最高育成責任者)の考察
ALL DIFFERENT株式会社 事業開発推進本部 シニアマネジャー
開発室 室⾧ CLM(最高育成責任者) 根本 博之氏
管理職の役割は、そのステージに関わらず「継続的に組織の成果を創出すること」です。成果を創出するためには、メンバーの課題に向き合うだけでなく、管理職も自身の課題を適時適切に把握し、成長に向けて努力する必要があります。
しかし、今回の調査結果から、管理職はステージが上がるにつれ、自身の課題への実感度が低くなることが明らかになりました。これは、ステージが高い管理職ほど課題を克服できているとも捉えられますが、周囲からのフィードバックを受ける機会が減り、自身の課題を認識しづらくなっているとも考えられます。管理職は、意識的に自身を客観視(メタ認知)し、課題と向き合わなければ、管理職自身、ひいては組織の成長を停滞させてしまいます。
企業側は、管理職本人の自助努力だけに頼るのではなく、組織として管理職の成長を促進するため、管理職が自身の課題と向き合う機会や、課題解決のために学ぶ場を提供する必要があります。例えば、管理職が経営層や上司と対話できる場を設ける取り組みは、管理職の視座を高めたり、自身の役割を改めて認識してもらうことにつながり、課題に気づく有効な解決策になり得ます。
一方、上記取り組みのみでは、変化するまでに時間を要します。中でも、幹部候補は特に変化への抵抗が強い傾向があります。これは、前述した自己認識の不足だけでなく、「既存の成功体験による固執」や「責任の重さによるリスク回避」、「同じ立場の仲間がいない、もしくは少ないことによる孤立感」などが原因であると推察します。
これらを克服するために、幹部候補が一堂に会し、継続的に交流する場を設けることを推奨します。例えば、会議の一部をメンタリングセッション(※)、あるいは学習セッションにするなどの取り組みも有効です。定期的に集う会議の場こそ、工夫次第で有用な組織開発の場になるでしょう。
※:メンタリングセッション:メンターとメンティが対話の中で一緒に課題を解決しようとする手法
調査概要
調査対象者/同社が提供する管理職向け研修の受講者
調査時期/2024年5月20日~7月17日
調査方法/Web・マークシート記入式でのアンケート調査
サンプル数/415名
関連情報
https://www.all-different.co.jp/corporate
構成/清水眞希