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巨大半導体プロジェクト「ラピダス」で問われる地方自治体のリーダーシップと市民の意識改革

2024.11.03

■連載「Kazuquoママの銀座の夜話」

 みなさんご無沙汰しております。ゴルフシーズンに焦点を当てて運営している私の千歳のお店も2シーズ目が終わり、冬眠期間に入りました。銀座と千歳を行き来する2拠点生活です。今年は、家を建築したりと、千歳活動もさらに本格化してまいりました。暮らせば暮らすほど、千歳市の豊かな環境にどハマりしている今日この頃です。

 気まぐれに書かせていただいているこの連載、昨年の今頃は半導体事業ラピダスに沸く千歳市について書いてみましたが、あれから1年経って千歳市はどうなったのか、私が日々感じていることをお伝えしたいと思います。

 千歳での生活も2年目ともなると、千歳市や近隣市町村に暮らす人々、地域政治家との交流も活発になり、この地域に対する見識もだいぶ深くなってきました。新千歳空港から東の方角を眺めると、ラピダスの工場の建設現場が目に入ります。建屋もずいぶん形になってきました。ラピダスって本当に巨大な事業なんだなと実感しています。

あれから1年。地元で感じる空気感は

 ラピダスの小池社長が提唱したのが「北海道バレー構想」で、地元の議員たちも二言目にはこの「北海道バレー構想」という言葉を口にするようになっています。しかし、この北海道バレー構想について語る議員たちの演説を聞いていると、私には正直薄っぺらく聞こえてなりません。

 確かに、これまで核となる産業がなかった北海道にとって、ラピダスは国に依存しない北海道独自の産業を構築する千載一遇のビジネスチャンスであることは間違いありません。投資総額が5兆円という事業規模に度肝を抜かれ、地域の新聞や地元テレビのニュースでは、ラピダスや半導体産業に関する特集の嵐です。ラピダスこそ北海道の未来!と様々な切り口で持ち上げています。ゆえに、首長、議員、行政がこのチャンスをモノにすべく、熱く語り、奔走するというのも理解できます。

 しかし、ラピダスプロジェクトと千歳市を見ていると、旗振り先導している議員、経済界の一部の人間だけがザワついていて、自治体は常に後追いというスタンス。私にはどうもしっくりこないというか、鹿を追うもの兎を顧みずと言いますか、何だか全てが絵空事のように感じてならないのです。住民の間でも完全にお上まかせという空気が漂っています。

 最近の報道では、試作ラインの稼動まで半年を切り、資金面、技術面、営業面での不安要素が取り立たされ、千歳の夜のカウンター越しに聞こえてくる話によると「ラピダス、ヤバいんじゃないの?」というネガティブな声が増えているといった状況です。残念ながら「試作ラインの稼働が待ち遠しいわね!」というような、期待に溢れた空気を感じることはありません。

 なのに、首長や議員、行政はラピダスの失敗リスクや、成功のためにこれから努力すべき課題を明示したり、市民への広報・教育などといった活動が行なわれることはなく、成功を前提とした話ばかりしています。満面の笑みで意気揚々と北海道バレー構想を語り続ける議員を見ていると、ハーメルンの笛吹き男に思えたりもします。

 ただ、笛吹き男が奏でる笛の音は、教会で真剣に祈りを捧げている大人には聞こえず、外で無邪気に遊んでいる子供たちには聞こえて、その笛の音に呼び寄せられた子供たちは山の洞窟に幽閉されて二度と帰ってこなかった・・・ここで言う「幽閉される子供たち」は、何も疑問や意見を持たず暮らしている市民のことを指します。千歳市役所や市議会議員の間でも物議の的となった、前回のコラムもぜひご一読いただければと思います。

「ラピダス」プロジェクトで盛り上がる千歳市のリアル

【Kazuquoママの銀座の夜話】「ラピダス」プロジェクトで盛り上がる千歳市のリアル

 令和5年も残りわずか。年の瀬が近づき、銀座の街もコロナ禍以前のような賑わいを取り戻しつつあります。  前回のコラムで書かせていただいた私の千歳活動。5月にオー...

 ここでも書かせていただいた「住民自治」の精神がおざなりになっているこの街では、ラピダスのプロジェクトや北海道バレー構想がお金と組織だけの話に終始し、肝心の千歳市民が置いてきぼりになっていると感じずにはいられません。

北海道新幹線延期にみる「お上だのみ」の風潮

 巨大なラピダスプロジェクトと自治体のあり方を考えた時、3つの自衛隊基地や大きな空港があるからなのか、お上におんぶに抱っこをいう状況が長く続き、相変わらず、こういったことに行政が住民を巻き込んでいこうという姿勢が足りないように感じます。市民が参画する余地がないと言うより、何が問題なのかというと、そういった中で市民が主体的に課題に気づき、論議する姿勢や努力を忘れてしまったままでいるということです。

 例えば、最近次々と問題が明らかになっている「北海道新幹線の札幌延伸工事」。延伸決定が発表された時は、2035年に開業ということだったと思いますが、札幌オリンピック構想をネタに2030年に前倒しして開業を目指すことになりました。新幹線の停車駅が設置される自治体の首長は皆、宝くじにあったかのように、北海道新幹線ありきの街づくりに夢中になり、浮き足立っていました。その様子を見て、私はモヤモヤした気持ちになっていました。

 しかし、北海道新幹線延伸計画が延期することが決まり、ハッピーなムードが一転。東京オリンピックの談合や汚職や開催経費の高騰などにより、札幌オリンピックの招致断念が決定しました。開業前倒しのための追加予算を引き出す秘密兵器が消えてしまったのです。さらに地域特有の地質が原因で工事が難航することが明らかになりました。しまいには、いつ開業するか見通しも立てられない状況であることが発表されてしまったのだから、そりゃもう大変!

 沿線にある自治体の首長たちは当然、ご立腹。八雲駅ができる予定だった八雲町長は「日本の土木技術もたいしたことない」などと、上から目線で発言してしまい、SNSで大炎上。北斗市長も「道民の期待を裏切った」というようなことを発言し話題になりました。国や鉄道・運輸機構が悪いんだ、と責任をなすりつける新幹線沿線自治体の幹部を見て、とても残念な気持ちになりました。

 オリンピックをネタに工事を無理やり前倒しして・・・完成が保証されていたわけではないのに、有頂天になっていた人たちに責任はなかったのでしょうか。新幹線という起爆剤に頼りきった街づくりに夢中だった首長や地方議員、自治体も問題ですが、彼らと議論をしたり、疑問を投げかける姿勢が住民側にあったといえるのでしょうか。

 こういった現状を俯瞰すると、自治体の未来を憂慮してしまうのです。本来なら新幹線がなくとも、常にそれぞれが自立して、地域を活性化する持続可能なアクションプランを考え、それを丁寧に着実に実現しなければならなかったはずなのに。

ラピダスによる変化を傍観する自治体

 千歳市にやってきた「ラピダス」についても同じことが言えるはずです。先にも書いた「北海道バレー構想」を声高らかに叫ぶ首長や議員たち。街の発展のためにも、住民の幸福度を上げるためにも、旗を挙げることは大切なことです。しかし、ラピダスも北海道新幹線のようなことにならないだろうかと気がかりでなりません。なぜなら、ラピダスに依存しない独自の戦略で千歳市が経済活性化や人口増加などに向けてアクションが動いている気配を感じることがないからです。

 ラピダスの影響で、人口増加が見込まれる千歳市の土地は今、昨年よりさらに高騰し、私の理解の域を超えた状況になっています。私が商売させてもらっている千歳市の繁華街・清水町は、ほとんどの建物が昭和から続くかなり古い建物ばかりです。ところがどこも例外なく値上がりしています。

 ラピダスの工事関係者なのか、夜の街の人口もわずかに増えた印象はありますが、ラピダスの誘致が決定した時、夜の街が工事関係者で溢れかえるよ!なんて言われていました。が、実際はそれほどでもありません。一方で、酔っ払い客どうしの喧嘩が多発し、警察が介入する機会も増えています。清水町がポジティブに進化しているといった印象は全くありません。

 私が懸念しているのは、この清水町の古い建物や猫の額ほど小さな土地でさえも高額で売買され、新たな建物の建築が始まっていること。「ラピダス景気に乗り遅れるな!」という風潮のせいか、小さく区画された土地でさえも、オーナーたちは建物を取り壊し、各々が思うように建物を建てています。私が言える立場ではありませんが「こんな場所に、こんなに小さなホテルが本当に必要なの!?」「こんな飲み屋街のど真ん中になぜ賃貸マンション!?」と驚くこともしばしば。素敵な街並みになるなんてことは絶対にないんだと太鼓判を押された気分です。

 ラピダスが、千歳市の新しい街づくりのきっかけになるだろうと思っていた私は、行政が用意した中心市街地開発のマスタープランに沿って、地形を整えたり、土地の接収、または民間の開発に行政支援と引き換えに相乗りし、街に必要な機能を整備したりするのだろうなと想像していたのだけど、実体は街の未来など無視した開発という印象が強いのです。

 なぜ、ラピダスの気配を感じた時に、自治体は街づくりの計画を見直さなかったのでしょうか?完全に出遅れたということは否めません。なぜなら、北海道バレー構想を提唱している本拠地の玄関JR千歳駅は本当にボロボロだし、せめて玄関口の駅ぐらい、きれいで立派にしよう!というくらいのアクションがあったら「ラピダス」で街が変わるんだな!なんて気分にもなったはずです。

 さらに、ラピダスによる急激な人口増加は交通渋滞、学校不足など、市民生活に影響を与えるはずです。そういったインフラの整備について、内閣府は交付金の支給を決めましたが、この交付金利用型の開発ではなく、ラピダスに翻弄されない独自の素敵な街づくりのマスタープランがあるのだろうと思い、図々しくも市役所の担当課に問い合わせをしてみました。

 すると、担当者の回答は、中心市街地の活性化計画として文言レベルではまとめられているが、アクションプランには何も落とし込まれていないということでした。言い換えれば、民間主導であちこち開発は進んでいるが、市としては傍観するしかないということ。思わず「えーっ!何もアクションプランがないんですか!」と言ってしまいました。

 これじゃ、外からやってくる人々はもちろん、千歳市民にとっても魅力的な街になるわけがない!まぁ、1人の担当者に聞いただけだから彼が話したことが全てではないと思いますが、自治体職員の誰もが語れるほどの計画が、役所の中で共有されていないのはまぎれもない事実です。市民に説明できる議員もどれくらいいるのかはなはだ疑問に感じます。

 ラピダスの工事は猛スピードで進んでいるのに、玄関口となるJR千歳駅前、繁華街、そして新しい街づくりをどう整備していくのか。千歳市の街づくりのスピードと、ラピダス建設のスピードの違いが大きすぎて、ラピダスと千歳市の動きがうまくリンクしていないことは誰の目にも明らかです。

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