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「世界には知らないことがたくさん」60歳で初めて経験した海外一人渡航で湧いた自信と好奇心

2024.11.09

子育ての終了、役職定年、親の介護、健康不安……。自分の「これから」に向き合うきっかけは、人それぞれ。連載【セカステReal】では、自分らしい生き方を模索し、セカンドステージに歩を進めたワーキングウーマンたちの奮闘、葛藤、感動のリアルストーリーに迫ります。

【セカステReal #06】後編
60歳にして、人生初の「ひとり〇〇」に挑戦中(佐藤あつ子さん・61歳)

前編はこちら

50代で専業主婦からマンションコンシェルジュに。子どもが巣立って人生初の一人暮らしに挑戦

子育ての終了、役職定年、親の介護、健康不安……。自分の「これから」に向き合うきっかけは、人それぞれ。連載【セカステReal】では、自分らしい生き方を模索し、セカ...

Profile
神奈川県在住。短大卒業後、自動車販売会社に事務職で就職し、22歳で寿退社。2児の母として専業主婦をしていたが、50代に入った時にハローワークで見つけたマンションのコンシェルジュの仕事のパートを今も続けている。60代の今年、初のひとり暮らしをすることに。

学生時代の友人を訪ねて、不安だらけの海外個人旅行へ

60代で初めての一人暮らしを始めた佐藤あつ子さん。この夏は、これまでしたことのなかった、初の海外一人旅という「大冒険」に挑戦したそうです。

――初めて海外への一人旅に挑戦したとのことですが、きっかけは?

マレーシア在住の学生時代の友人の家を訪ねてきました。彼女の家に滞在したのと、現地ではリゾートの島に彼女が連れて行ってくれたので、一人だったのは日本からクアラルンプールの空港までの往復ではありますが、私にとっては大冒険でした。

彼女がマレーシアに住むようになって、以前から「おいで」と言われていたのですが、愛犬がいるときは長く家をあけられなかったし、家族と一緒に住んでいた時にはなかなか主婦の立場で一人で海外に行く気持ちになれなくて。どうしても、長年主婦をしてきたので、自分の楽しみのためだけにお金を使う感覚がないんですね。これまで海外旅行は家族とツアーで出かけたことがほとんどで、元夫が手配してくれていたので、私はやったことがなくて。一人で海外に、しかもツアーではない個人旅行の手配ができる気がしなかったのですが(笑)、一人暮らしになって身軽になったし、そろそろ自分のためにお金を使ってもいいかなという気持ちが芽生え、長年の課題であるマレーシアに行ってみようと思えたんです。

――はじめての海外個人旅行、手配などいかがでしたか?

今までそういうことは夫や旅行会社に任せきりだったので、どこから手をつけていいのかもわからなくて。今はエアーチケットもネットで手配できますが、アナログ人間なので、ネットでやること自体、とても大変だっし、チケットがとれているのか、本当に当日乗れるのかなど、不安で不安で。友人は日本とマレーシアの往復には、外資系のLCCを使って安く移動していると聞いていたので、私もそうしようと思ったのですが、長時間乗るので、ご飯の手配その他、いろいろオプションをつけると、普通の飛行機とそれほど値段が変わらなくなったのと、初めての海外一人旅なので、やはり日本の会社のほうが日本語が通じるので安心だと、ANAにしました。

また、マレーシアは入国時の書類、紙が廃止になり、事前にオンラインで申告しないといけないなど、そういうことを理解するのにも難しく、英語もよくわからないので、すごく時間がかかりました。

いろいろ手配に悩んだ時や、マレーシアの現地のことなど友人に聞きたかったのですが、ちょうど旅行前に彼女の娘さんの結婚式があって、彼女も忙しくてなかなか連絡がつかなくて。仕方なく一人で悩みながらチャレンジしたのですが、今考えると、一人でやってみたからこそ、できるようになったのでよかったと思います。

――何が一番不安でしたか?

何もかも不安でした。前述のとおり、本当に自分が飛行機に乗れるのか入国できるのか。入国審査の時にひっかかって、個人で個室に呼ばれて尋問されたら、英語がわからないし、どうしようとか。かばんに何か入れられて犯罪にまきこまれたらどうしようとか、妄想が膨らんで(笑)。また、最近はクレジットカードがスキミングされて、帰国後、少額から始まってどんどん抜き取られる手口があるとか、日本の中年女性は海外で出稼ぎと思われて空港で目をつけられるとか、余計な情報だけは多かったので、行く前はいろんなことにびびりまくって、周囲の友人や家族に心配しすぎ、と笑われていました。ツアーではない旅は一緒に行く人がいないので、何かあった時に聞けないのが、もっとも不安なところだったかもしれません。当日は夜の便でしたが、不安なので5時間ぐらい前に羽田空港に着くぐらい、早く家を出ました(笑)。

でも心配していたことは何もおこらず、マレーシアの空港に着いたら、ささっと一人旅の日本人の女子に「おひとりですか?」と話しかけ、不安な待ち時間などを一緒に過ごし、無事に空港に迎えにきてくれた友人とも会えて、心の底からほっとしました。

マレーシアは食事のデリバリーが発達。佐藤さんが暑さ負けしたときに、友人がとってくれた「バクテー」など。

異国での日々を重ね、見送りを断るほど自分に自信がついた

――マレーシアへの一人旅で変化したことは?

旅の手配だけでなく、なんとなく自分に自信がつきましたね。現地では彼女の家に滞在したり、世界で一、二を争う美しい海が評判の島のリゾートホテルを友人が予約してくれていたので、そこに泊まってゆっくりしたりと、いろんなことが新鮮で非日常の日々が本当に楽しかった。現地では、タクシー配車アプリのGrab(グラブ)が発達していて、政府に登録している業者の車が、ネットで呼ぶとすぐにきてくれて安全なシステムなのが本当に便利で。友人が自在に使っていたので、次は私もアプリを入れて、使いこなしたいです。

現地でもいろいろ自分で挑戦してみて、帰る頃にはすっかり、行きの恐怖心から脱却し、空港までひとりで行ってみる!と、友人の空港への見送りを断ったほどです。一人で切符を買って電車で空港に行き、無事帰国。

今考えると、自分でもなんであんなに行く前は不安だったのかと笑えますが、初めてづくしの挑戦がうまくいったことで、自分に自信がついた気がします。今度はLCCに乗って、空港に着いたら自分でグラブでタクシーを呼んで、一人で友人の家にいこうと思いますし、世界には知らないことがたくさんあるので、ほかのところにも行ってみたくなりました。

一人暮らしは気楽とさびしさとの両面。自分のご機嫌をとってあげることも大事

――最近はどんな風に過ごしていますか?

週末などに、息子がお嫁さんと孫を連れて、定期的に来てくれたり、娘も一人で帰ってきたり、パートナーと一緒に来てくれたりするので、そういう時はとてもにぎやかに過ごし、一人の時間とのめりはりがありますね。ひとり暮らしにはまだ慣れていませんが、ちょくちょく小さな冒険はしています。

一人暮らしの友人たちと出かけた高知旅行。念願の仁淀川の「仁淀ブルー」などを見て、感動!

以前から夜にひとりで「蕎麦屋で一杯」をしてみたかったので、その実現や、仕事帰りに映画に行くなど。そういえば、同年代の友人も、事情は違えど一軒家に一人暮らしになっていることがけっこう多いんです。この間も、そういう友人で集まって「私たちエコじゃないよね」と話して笑ってたんですが。「じゃぁ、どこかの家にまとまって住む?」というと、実際はなかなか難しい。

小泉今日子さんと小林聡美さんが出ている「団地のふたり」というドラマが大好きで、友人ともよく話しているんですが、あれぐらいの距離、一緒には住んでないけど、近くにいて、夜ごはんは得意な人が作って、そこで一緒に食べるというのは理想的ですね。この間集まったメンバーだと、私が一番料理をしているので、私がやることになっちゃうけど(笑)。

晩酌しながらの一人の夕食のある日のメニュー。基本的に手作り。

推し活も相変わらず、日々、SNSをチェックして、録画した番組を見て楽しんでいますが、実はコンサートのチケットが、数年間の応募で初めて当たったんです。遠征になりますが、娘と久しぶりに旅行することになり、とても楽しみです。

――60代で初の一人暮らし。同様の方にアドバイスするとしたら?

まだ、私は一人暮らしのペースに慣れていこうとしている最中ですが、一人暮らしは気楽とさびしさとの両面がある。「さびしいな」と思うことも時にありますが、それに気持ちがひっぱられると、孤独にとらわれてしまう気がするので、私はカラ元気かもしれないけど「自由で楽しい」と常に思うことにしています。人から「どう?」と聞かれると、「楽しいよ」といっていますし、実際毎日楽しいですよ。寂しいと思っていると、それこそ「空の巣症候群」をおこしてもいけないし、そこにフォーカスせず、気楽になったことや、自由に行動できることに気持ちを合わせて過ごすのがいいかなと思います。ちょっとしたことでも、自分のご機嫌をとってあげることも大事と思う。

近年はまっている文楽の幕間弁当

そして節約と防犯も大切ですね。今気になっているのが、古くなっている玄関のドアで、修理したいと相談しているところ。あと、玄関の中に、もしも自分が倒れて救急搬送の方が来てくれた時のために、家族の連絡先のメモをはっていたりしています。今後、せっかく自分の時間ができたので、何か始めるのもいいかもしれませんが、私はまだ何がしたいかもわからないので、そういったことを見つけるのも含めて、今はセカンドステージへの移行中ですね。 

取材・文/田中亜紀子

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