子育ての終了、役職定年、親の介護、健康不安……。自分の「これから」に向き合うきっかけは、人それぞれ。連載【セカステReal】では、自分らしい生き方を模索し、セカンドステージに歩を進めたワーキングウーマンたちの奮闘、葛藤、感動のリアルストーリーに迫ります。
【セカステReal #06】前編
60歳にして、人生初の「ひとり〇〇」に挑戦中(佐藤あつ子さん・61歳)
Profile
神奈川県在住。短大卒業後、自動車販売会社に事務職で就職し、22歳で寿退社。2児の母として専業主婦をしていたが、50代に入った時にハローワークで見つけたマンションのコンシェルジュの仕事のパートを今も続けている。60代の今年、初のひとり暮らしをすることに。
離婚と子どもの独立で訪れた転機
専業主婦として2児を育てあげ、近年はマンションコンシェルジュの仕事をしている佐藤あつ子さんは、60歳になって人生初の一人暮らしをすることに。この年代は、様々な理由で一人暮らしになる機会がありますが、彼女の場合、これまで家族と住んでいた家での一人暮らしが始まりました。どんな風に過ごしているのか、またどんな心境の変化があったのかなど、お話を伺います。
――60歳で初めての一人暮らしをすることになった経緯は?
私の場合、短大も会社も、実家から通えたし、そのまま結婚したので独身時代に一人暮らしをする機会がなかったんですね。20代前半で寿退社し、ずっと専業主婦をして、今の家を建ててからは私と夫、息子と娘、そして愛犬と住んでいました。
近くに住む実家の父と母を見送り、50代になる頃、想定外の離婚をすることになり、まもなく、社会人だった息子が結婚して自立。その後何年か続いた娘と愛犬との暮らしは、とても気楽で楽しかったのですが、2年前に愛犬が14歳で突然病気で旅立ち、今年になって娘がパートナーと住むために引っ越し、一人暮らしになりました。
実は自分が一人暮らしするようになるとは思ってもみなかったんです。離婚も自分がするとは夢にも思わず、ずっと老後は夫と過ごす未来を描いていたし。また子供たちが親の目から見て結婚に向いていない気がしていたので、勝手にしないのではと思っていたところもありまして。なかなか結婚しない子供のことを「本当困っちゃう。いつまでも家にいて」と周囲にぶつぶついいながらも、にぎやかに暮らしていくような気がしていました。だから、寂しいところはありますが、同時に子供たちが自立してそれぞれ幸せなのは、すごくうれしいことです。
――先ほど、娘さんとワンちゃんとの暮らしがとても気楽だったとおっしゃっていましたが、当時は娘さんとどのような過ごし方をしていましたか?
離婚後は、娘は大学生になる時で、すでに子育ては卒業していて、女ともだちと暮らしているような感覚でしたね。特に社会人になってからはそう。一番日々のことを話していたのは、車の送迎の時間だった気がします。子供の時からそうなんです。二人とも前をむいているから、なんとなくしゃべりやすいんですかね。
コロナ禍のステイホームの時期は、娘もリモートで家にいる時間が増え、今考えると一緒に過ごす時間が多くて楽しかったです。台湾カステラを家で作ることにはまって、二人で食べたり。また、娘の影響で推し活を始めたのも、ステイホームの時期です。娘が好きなアイドルグループのテレビを一緒に見ていたら、私は彼女の推しとは違う子のファンになり、よくそのアイドルグループのDVDやYouTubeを居間で観ながらペンライトやうちわをふって、娘と盛り上がっていました。娘がコンサートのチケットがあたって、二人で遠征したこともあります(笑)。
娘が帰宅後に一緒に夕食をとる時は、主に「推し」の出ている番組の録画を二人でみながら、話をするのが日課でしたね。映画やドラマの嗜好も似ていたので、同じ番組を見ながら感想を言い合うのも楽しかったし、そういう気の合う女友だちが家からいなくなったのは、やはりちょっとさびしいですね。
子ども中心の生活を終え、自分の時間がたっぷりある状況に驚き
――初の一人暮らしになって、実感したことは?
正直なところ、孤独と不安は大きいです。一軒家なので、寝ている時に何か音がしたりすると、気になって眠れなくなるし。最近怖い犯罪も多いですしね。でも同時にすごく気楽で自由になった感もある。結婚する前は、私は一人っ子だったこともあり、一人で行動することが多く、好きでした。だから、忘れていた感覚が戻ってきたような感じです。
そしてもっとも感じるのは、自分の時間ってこんなにたくさんあるんだってこと。結婚して以来、専業主婦として子ども中心の生活をして、子供が社会人になっても、精神的に子ども中心の生活に慣れていたので、自分の時間がたっぷりある状況に驚いています。
また、私は50代からマンションのコンシェルジュのパートをしており、一人暮らしになってからは、お金がいただけることに加え、居場所があることがすごくありがたく感じます。一人だと生活が単調になりやすいので、通勤があるのも生活にリズムがついていいなと改めて思いますね。
――生活で変わったところは?
週に数回パートに出る日々は変わっていないし、家事の負担もそんなに変わりませんが、大きいのは娘の送迎がなくなったことです。うちは、電車の駅が遠くてバスも少ないため車の移動が中心で、娘の送迎も基本的にしていたんですね。学生時代の塾の送り迎えから続いて、社会人になってからは帰りが遅いとなおさらバスがないし、タクシーも少ない。なので夜遅い娘の帰宅に合わせて駅まで迎えにいっていました。特に大変とも思っていなかったのですが、運転がすむまでは、夜は呑めません(笑)。どうせなら、ごはんは娘と一緒にと思うので、夕食もかなり遅くなっていたのですが、今は、時間を気にせず、一人でテレビ番組の録画や「推し」の番組などを観ながら、晩酌しながらごはんを食べています。
晩酌しながらの、ある日の夕食。一人でもきちんと食べているか、娘が心配していたので、最初の頃は写真を撮ってLINEしていた。
娘は好き嫌いが多かったので、一人になってからは自分が好きなものを作って好きなように食べています。おいしさの観点から、お料理の作り置きはしなかったんですが、一人分の料理は材料が余ってしまうこともあり、作り置きにならざるをえないことも、実感しました。また、愛犬がいた時は、毎日必ず散歩に出て、歩く時間がありました。が、亡くなって以来歩く頻度が減ったので、天気がいい時に、海辺までひとりで散歩しながらウォーキングはするようにしています。
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一人暮らしの不安を抱えながらも、「推し」の存在や50代から始めたマンションコンシェルジュの仕事が生活にハリを与えてくれると語る、佐藤さん。後編では、子どもたちが自立し、一人暮らしになってからチャレンジした初めての一人旅についてお話を伺います。
取材・文/田中亜紀子