帝国データバンクの調査によれば、2024年9月時点で、業歴100年以上を有する老舗企業は4万5284社にのぼる。関東大震災が発災した翌年となった1924年に創業してから長く事業を続け、今年老舗企業の仲間入りを果たした企業は、全国で約2000社を数えた。
また、全国における老舗企業の割合を指す「老舗出現率」は2.75%だった。現時点では、2025年も同水準の企業が100周年を迎えると見込まれる。
そこで帝国データバンクでは、同社が保有する企業概要ファイル「COSMOS2」(2024年9月時点、約147万社収録)に加え、独自で収集し営業の実体が確認できた企業を基に、創業・設立から100年を超えている企業を「老舗企業」と定義し、分析を実施。結果をグラフと図表にまとめて発表した。
本稿では、同社リリースを元に、その概要をお伝えする。
老舗企業は4万5284社、「業歴1000年企業」は11社に
全国の老舗企業数は4万5284社だった。200年以上の企業は1813社、300年以上の企業は889社、500年以上の企業は47社と続いている。さらに、江戸時代の創業は3474社で、江戸開府(1603年)より前の創業は178社だった。合わせて、明治維新以前に創業した企業は3652社を数えた。
また、「1000年以上」の業歴を誇る企業は11社にのぼる。世界最古の老舗企業である金剛組(大阪市天王寺区、578年創業)や、世界最古の宿としてギネスブックに登録されている西山温泉慶雲館(山梨県早川町、705年創業)などに加えて、1024年創業の朱宮神仏具店(甲府市)が新たに1000年企業の仲間入りを果たした。なお、次に1000年企業に近い高半ホテル(新潟県湯沢町)は、1075年の創業である。
元号別の社数は以下の通り。前述の金剛組は578年創業で、元号が制定された645年(大化元年)以前であるため、唯一「元号なし」としている。現代に近く、元号あたりの期間が長い場合に社数が増えるなかで、「一世一元の制」が導入された以降の明治・大正に9割近くが集中した。
■都道府県別では京都府が5.35%で1位、京都市内では東山区が16.22%で顕著
全企業数に占める老舗企業の割合を指す「老舗出現率」を都道府県別でみると、京都府が5.35%で最も高かった。商業の中心地ではなかったものの、倹約・勤勉などの精神が根付く京都府における老舗の存在感は今でも強い。なお、府内で最も多かった業種は呉服文化が色濃く残る織物卸売業で、旅館、造園、製茶業など和物系の業種が上位だった。なお、社数としては東京都が5301社で最も多かったものの、老舗出現率においては2.24%で38位だった。
また、山形県(5.34%)もトップの京都府に肉薄し、新潟県は前年から上昇し5%を上回った。他にも福井県(4.62%)、滋賀県(4.57%)など、江戸時代中期の北前船によって栄えた日本海側エリアの府県が上位だった。他方、中四国・九州エリアや多くの企業が集積する大都市圏では低水準だった。なかでも、沖縄県は0.17%で社数(33社)とともに全国で最も低かった。なお、そのうち11社は泡盛製造を手がける酒造メーカーである。
老舗出現率が最も高い京都府内で、より老舗が集中している京都市内を細かくみると、料亭を中心に食品関連が多い東山区(16.22%)が群を抜いたトップで、4区が10%を上回った。また、社数として最も多い東京都の23区別では、墨田区(5.40%)が最も高かった。中央区では設立5年未満企業の割合も高いことから、新興・老舗企業がそれぞれ多く集まっている特色がみられる。
■業種別、社数では建設・小売業、出現率では醸造系の業種が上位
業種別でみると、老舗企業数は貸事務所業がトップだった。1216社を数えたが、このうち半数超の企業は従業や過去の主業として別の事業があり、本来の主業があるなかでもテナント収入など不動産収入が売上高のメインとなっていた。その他、建設業や小売業が上位にランクインした。
業種別に老舗企業の割合(出現率)をみると、規制によって新規参入が制限されている清酒製造業は80.5%と多くを占めた。その他にも、煙火(花火)、砂糖、食酢など昔ながらの業種に加えて、醸造系の業種が上位に並んだ。また、近年は毎年多くの金融機関が創業・設立から100周年を迎えており、老舗企業の割合が高くなっている。
■売上高別では42.7%が「1億円未満」、「1000億円以上」は1.0%が該当
売上高別でみると、「1億円未満」が42.7%と半数近くにのぼった。売上高が判明している老舗企業の約4万社のうち、多くが小規模事業者であることが明らかとなった。
また、売上高10億円以上の割合は、合計で20.5%にとどまった。一方で、老舗企業のうち「1000億円以上」の割合は1.0%と小さいものの、全国にある売上高1000億円以上の企業のうち老舗企業が占める割合は20.8%にのぼり、売上規模の大きさで存在感を示している。
■老舗企業は「営業外収益」に支えられ、高い「売上高経常利益率」が強み
長い業歴を誇る老舗企業は安泰のイメージを持たれることから、財務基盤も盤石という見られ方をされることも多い。そこで、収益性・安定性・効率性の観点から、2023年度決算における全業種(約30万社)と老舗企業(約1万社)それぞれで、財務比率指標の平均を比較した。
<収益性>
売上高における営業利益率と経常利益率をみると、いずれも全業種平均より老舗企業の方が高く、特に経常利益率で大きく差が開いている。老舗企業は長年有する土地・建物などの不動産や株式などの金融資産を多く持ち、本業以外の稼ぎ(営業外収益)が多いことが背景にあるとみられる。実際に、営業外収益率は老舗企業の方が高い数値を示している。
<安定性>
総資産における純資産の割合を示す自己資本比率は、老舗企業では平均38.76%となり、全業種(同28.33%)より10ポイント以上高かった。そうしたなか、短期的な支払い能力を指す流動比率は老舗企業の方が低いことから、資産の流動性は良好ではないことがわかる。一方で、長期的な支払い能力を指す固定比率においては、老舗企業の方が優位な結果となった。
<効率性>
資産運用効率を示す総資本回転率は、老舗企業では1.21回で全業種より低かった。また、固定資産回転期間や棚卸資産回転期間など、資産の効率性を示す指標では、総じて老舗企業の方が全業種より劣る傾向が強かった。
まとめ:倒産相次ぐ「ニッポンの老舗」、今後は「本業の質」に厳しい見方が強まるか
世界で業歴100年を上回る企業のうち半数以上を日本が占めているとの調査結果もあるなど、国内約4万5000社を数える「ニッポンの老舗」は、世界に誇る日本の魅力として語られることが多い。実際に、清酒製造など醸造系や呉服関連を代表とした日本の伝統文化を彩る産業が、数多く老舗として今なお事業を継続している。
財務指標分析では老舗企業特有の結果がみられ、長年にわたって蓄積された資産による財務の収益性・安定性が老舗企業の強みとして確認された。
しかし、2024年9月時点における老舗企業の倒産は110件を数え、既に過去10年間でも最も多かった2019年に並び高水準で推移している。
そのうち、相次ぐ値上げの波に追いつけなかった物価高倒産(22件)や後継者不在による倒産(16件)、金融機関から返済条件の変更(リスケジュール)を受けながらも経営改善が図れなかった返済猶予後倒産(16件)など、近年高まっている倒産要因も多く含まれていることがわかる。さらに円安、コンプライアンス違反、公租公課滞納などを要因とする倒産も複数確認された。
こうした状況を踏まえて、金融機関からは「老舗だから大丈夫だろうというイメージに捉われることなく、これまで以上に本業の事業性評価を細かくチェックする必要がある」といった声も聞かれ、今後は老舗企業に対して厳しい見方が強まるとみられる。
老舗企業には一定のブランド力が見られるものの、固定観念に捉われない攻めの経営が一層求められるだろう。
関連情報
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20241024_shinise2024/
構成/清水眞希