2024年に入ってから、飲食店の倒産が急増しています。物価高の影響が色濃く見られるほか、コロナ融資の返済負担なども影響しているようです。
通っていた飲食店が倒産すると店舗にはもう行けなくなってしまうのでしょうか?
本記事では、飲食店の倒産が急増している背景と、飲食店が倒産したらどうなるのかについて解説します。
1. 2024年の飲食店の倒産は、過去最多ペース
帝国データバンクの調査によると、2024年1月から9月までの飲食店の倒産件数は650件で、前年同期比16.5%増加となっています。
これは2020年の780件を上回り、通年で870件前後となる過去最多のペースです。
出典:倒産集計 2024年度上半期報(4月~9月)|帝国データバンク
2. 飲食店の倒産が増加している背景
飲食店の倒産の主要因としては、物価高などによる営業コストの上昇、価格転嫁の難しさ、コロナ融資の返済開始などが挙げられます。
2-1. 物価高などによる営業コストの上昇
近年では食材の仕入れ価格や水道光熱費、人件費などの上昇が顕著であり、飲食店の経営を大きく圧迫しています。
物価高の影響により、食材の仕入れ価格は引き続き高騰しています。
また、近年水道光熱費が大幅に上昇したことも、営業の性質上水道光熱費が嵩みがちな飲食店にとっては大きな負担となっています。
さらにここ数年は、最低賃金が毎年引き上げられています。アルバイトを雇用して営業するケースが多い飲食店では、最低賃金の引き上げによる人件費の上昇も、経営を圧迫する要因として無視できません。
参考:10月から改定された最低賃金、給料がこれを下回っている場合どうすればいい?|@DIME
2-2. 価格転嫁の難しさ
こうした事情による営業コストの上昇を、飲食店では客離れのリスクが高いことなどが原因で、十分に価格転嫁できない傾向にあります。
帝国データバンクが2024年7月に行った調査によると、全業種平均の価格転嫁率は44.9%であるのに対して、飲食店では36.0%と平均値を大幅に下回っている状況です。
出典:価格転嫁率、過去最高の 44.9% 4.3 ポイント上昇も業種間で格差広がる|帝国データバンク
2-3. コロナ融資の返済開始
2020年の新型コロナウイルス感染症の流行以降、その影響で売上が減少した個人事業者や中小企業に対して、実質無利子・無担保で資金を貸し付ける「民間ゼロゼロ融資」が行われていました。
飲食店においても、売上の急落を補填して営業を継続するため、ゼロゼロ融資を利用した店舗が多いと思われます。
中小企業庁によると、民間ゼロゼロ融資の返済開始時期は、2023年7月から2024年4月までに集中しています。
それまで据え置かれていた元本の返済が始まったことで営業資金が底をつき、倒産を決断する飲食店も少なくないと考えられます。
出典:民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための保証制度(コロナ借換保証)を開始します。|中小企業庁
3. 飲食店が倒産したら、店舗には行けなくなってしまうのか?
飲食店が倒産した後は、そのまま廃業するパターンと、営業を続けるパターンの2通りに分かれます。
収益性を回復できる見込みがない場合は、倒産後にそのまま廃業するケースが多いと考えられます。この場合、店舗自体が閉まってしまいます。
他方で、倒産した後も、飲食店として営業を継続することは可能です。
倒産事例の大半を占める破産手続きでは、財産を処分した上で債権者に配当し、残った債務を免除します。
破産をしても、飲食店としての営業を禁止されるわけではなく、営業に不可欠な財産などは処分されません。
店舗物件の賃貸人が同意すれば、同じ場所で営業を継続することもできます。賃料の未払いがあると退去を迫られるかもしれませんが、別の場所で物件を借りて営業を再開することは可能です。
通っていた飲食店が倒産しても、その店舗が閉まってしまうかどうかはケースバイケースです。
仮に一時的に閉店したとしても、間もなく営業を再開する可能性もあるので、気になる店舗については情報収集を試みましょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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