■連載/ヒット商品開発秘話
水色と黄色を基調とした缶に「JJ」の大きなロゴ。パッと見ただけでは中味の想像がつかないアルコール飲料が売れている。
正体はサントリーの『茉莉花(まつりか)〈ジャスミン茶割・JJ(ジェージェー)缶〉』(以下、JJ缶)。同社のジャスミン焼酎『茉莉花』をジャスミン茶で割ったRTD(開栓したらすぐ飲めるアルコール飲料。Ready to Drinkの略)で、JJはジャスミン焼酎のジャスミン茶割りに由来している。
『JJ缶』は2024年4月に全国販売を開始。発売から3か月で約40万ケースを販売した(1ケース:250ml缶24本換算)。50万ケースという年間販売計画の8割を早期に達成するほど売れ行き好調なことから、年間販売計画を60万ケースに上方修正している。
『JJ缶』こと『茉莉花〈ジャスミン茶割・JJ缶〉』。ジャスミン焼酎『茉莉花』をジャスミン茶で割った。2024年4月に全国販売を始めたが同年9月にパッケージデザインが写真のものにリニューアルされた
大阪と沖縄で親しまれていたJJ
『茉莉花』をジャスミン茶で割る飲み方は大阪や沖縄の料飲店で2019年頃から流行りだしたもので、現地でもJJの愛称で親しまれている。JJの人気もあって『茉莉花』は売上を拡大し、2023年の販売数量は2019年に比べて約10倍になっている。
「『茉莉花』は2004年9月の発売以来、細々と売り続けていましたが、2019年頃から瓶の売上が大阪や沖縄で右肩上がりに伸びていきました。マーケティング施策を実施したり広告宣伝を行なったりしていないのに売上が伸びた理由を調べたところ、ジャスミン茶で割る飲み方が流行っており、そういう飲み方がJJと呼ばれて親しまれていることがわかりました」
このように話すのは、『JJ缶』を企画したスピリッツ本部リキュール・スピリッツ1部の永尾真紀さん。大阪と沖縄という距離の離れた2か所で局地的に流行った明確な理由は不明で、どちらかでまず流行った後にもう一方で知られるところになったと推察されている。
ジャスミン茶は3種の茶葉をブレンドしたオリジナル
JJが好きでよく飲む人たちからも『JJ缶』の商品化を要望する声が聞かれたことから、同社は2022年秋に開発に着手する。RTDで売り出すことで、局地的な流行にとどまっていたJJを全国的に広く知ってもらうことを目指した。
『茉莉花』のブランドサイトではJJのつくり方が紹介されているが、これによると、茉莉花とジャスミン茶の配合比率は茉莉花1に対しジャスミン茶3。この配合比率は『JJ缶』にも採用されている。
「居酒屋でJJが広がっていましたので、開発に当たっては店の味を再現することを大事にしました」
こう話すのは開発を担当したスピリッツ・ワイン商品開発研究部の大内慎也さん。料飲店がJJをどのようにつくっているのかをリサーチしたところ、グラスに氷を一杯入れ茉莉花とジャスミン茶を1:3の割合で注ぐと店の味になることがわかった。
サントリー
スピリッツ本部リキュール・スピリッツ1部 永尾真紀さん
スピリッツ・ワイン商品開発研究部 大内慎也さん
氷の入っていないグラスに茉莉花とジャスミン茶を1:3の割合で注ぐとアルコール度数は5%程度になるが、氷を一杯入れた場合、溶けて飲み頃になるとだいたい4%になる。このため『JJ缶』のアルコール度数は飲み頃の4%にした。
「試作の段階ではアルコール度数は4%だけではなく5%や3%もつくり試飲を重ねました。4%はジャスミン茶と『茉莉花』のバランスが良く、一番気持ち良く飲めました」と大内さんは振り返る。
ジャスミン茶は既存品ではなく『JJ缶』をつくるために抽出したものを使用。3種の茶葉をブレンドして抽出した。大内さんはジャスミン茶の抽出について次のように話す。
「茶葉は半年以上かけてかなりの種類を検討し、爽やかな香りが特徴の茶葉、味わいや旨味がしっかり出る茶葉、爽やかで軽やかな余韻が感じられる茶葉の3つを選びブレンドすることにしました。抽出したジャスミン茶で『茉莉花』を割ったものを試飲し、両者を合わせた時の味わいや合わせた際のジャスミン茶の香りや味わいもチェックしています。その結果を踏まえて抽出時間や抽出温度を細かく変えて検証することを繰り返しました」
サントリー食品インターナショナルが『伊右衛門』でジャスミン茶を商品化していることから、ジャスミン茶の抽出温度・時間などについては『伊右衛門』での開発ノウハウも活用した。それでも、ジャスミン茶の香りや味わいと『茉莉花』とのバランスにこだわったことから、ジャスミン茶の抽出条件だけで50回以上検証。『JJ缶』自体の試作は100回を超え、試作検証に1年を費やした。
賛否が分かれたJJを前面に押し出したデザインワーク
『JJ缶』のパッケージデザインは『茉莉花』の特徴でもある水色と黄色を踏襲した。
名前のキャッチーさを最大限生かしてJJのロゴを大きくあしらったパッケージデザインは、ロゴのそばに[ジャスミン焼酎のジャスミン割]と表記。JJのロゴの下にブランド名の『茉莉花』を表記した。ブランド名より愛称を前面に押し出し、メーカーとしてのエゴは極力控えた形だ。
「JJはキャッチーな名前ですが商品に関する説明が含まれていません。この商品がなぜJJなのかを端的に伝えるのが難しかったです」と振り返る永尾さん。 社内ではブランド名よりJJを前面に押し出すデザインワークに賛否が割れた。
現在のようにブランド名よりJJを前面に押し出すことに決まったのは、『茉莉花』が売れているのはJJが飲まれているからという現実があること、JJが好きな大阪や沖縄の人の中には中味が『茉莉花』どころか焼酎であることを知らない人も多い、という2点からであった。焼酎や『茉莉花』ではなくJJという「飲み方」が親しまれていることを素直に表現することにした。