顛末書と始末書は何が違うのか?それぞれの書き方や法的効力をチェックし、不祥事やミスが発生したときに適切な対応を取ろう。
目次
業務上でミスや不祥事を起こしてしまったときは、始末書や顛末書を書く可能性がある。それぞれ書く内容は似ているものの、どのような役割があるのか、どのような影響があるのかが異なる。
今後のキャリアにも影響する可能性があるため、それぞれの違いを理解することは大切だ。今回は、始末書と顛末書の違いや法的効力の有無などを解説する。
始末書と顛末書の違いの「早見表」
始末書を顛末書の違いを表でまとめると、以下のようになる。詳細を確認する前に、全体像を把握しておこう。
始末書 |
顛末書 |
|
目的 |
不祥事やミスが発生したとき、反省を促しつつ今後に向けた再発防止策を考える |
不祥事やミスが発生したとき、客観的に原因を説明し、今後の再発防止策を提案する |
書く人 |
当事者 |
当事者または当事者の上司・責任者 |
提出するタイミング |
不祥事やミスが発生したとき直後が一般的 |
不祥事やミスがある程度収束したときが一般的 |
法的効力 |
あり |
なし |
なお、いずれの書類を書いた場合でも、人事評価への影響が出る可能性がある。特に、始末書は反省を促す性格があることから、より影響が出やすいといえる。
始末書の意味と法的効力、必要なシーン
まずは、始末書が持つ意味と法的効力、どのようなシーンで書く必要があるのかを見てみよう。
■始末書の意味とは
始末書とは、不祥事やミスを起こしてしまった当事者が、経緯や原因を報告するために書く書類だ。再び同じことを起こさないため、雇用主に対して反省や謝罪を示す意味合いもある。
問題行動や事故の詳細を記録し、何が起こったのかを明確にしたうえで、自身の行動を振り返り反省していることを書面に記載するのが一般的だ。
自分より立場が上の社内関係者に向けて書くケースが多いが、場合によっては社外の関係者に対して提出することもある。
■ビジネスシーンにおける始末書が必要なシーン
具体的に、ビジネスシーンにおいて始末書が必要となるのは以下のとおりだ。
- 社内に大きな損害を与える不祥事やミスをしたとき
- 遅刻や無断欠勤を繰り返したとき
- 業務上の重大なミスをしたとき
- 社内の就業規則に違反したとき
- ハラスメント行為をしたとき
- 取引先とトラブルを起こしたとき
社内外で関係者に迷惑をかけたときや、会社の信用を傷つけたときに始末書を書くケースが考えられる。
なお、問題の重大さや頻度、会社の方針によって口頭での厳重注意や警告書の発行で済む場合もある。始末書は比較的重い処分であるため、不祥事やミスを起こしたからといって、直ちに書くとは限らない。
■始末書の法的効力
始末書を書いたからといって、それだけで法的な義務や罰則が生じるわけではない。
ただし、労使間でトラブルが発生し裁判に発展したとき(解雇が代表的だ)、始末書は証拠として有効なものとして取り扱われる。裁判所からすると、従業員側に非がある客観的な証拠として扱うことがあるため、法的効力を有しているといえる。
例えば、重大な不祥事やミスを理由に解雇されたとき、「不当な解雇である」という申し立てをすることがあるかもしれない。このとき、不祥事やミスに関する始末書があると、正当な解雇であることが認められやすい。
このように、始末書は労使間の紛争や訴訟において重要な証拠として扱われる可能性があるため、従業員側からすると安易に書くべき書類ではない。
顛末書の意味と法的効力、必要なシーン
始末書と似ている書類に顛末書がある。続いて、顛末書の意味や法的効力などを見てみよう。
■顛末書の意味とは
顛末書とは、不祥事・ミスの経緯を客観的に評価し、報告する書類だ。始末書は当事者が書くものだが、顛末書は上司や責任者が書くケースも有り得る。
顛末書の特徴は、客観的かつ詳細に報告する点だ。始末書のように、当事者の反省を促すような意味合いはない。
事実関係を正確に記録したうえで、問題の原因究明や再発防止策の検討のための情報提供を目的として、顛末書を書くケースが一般的だ。
「なぜ不祥事やミスが発生したのか」「今後同じことが起こらないようにどのような対処が必要なのか」を分析するために用いられる。
■ビジネスシーンにおける顛末書が必要なシーン
ビジネスシーンにおいて、顛末書が必要となる場面として以下が挙げられる。
- 自社の商品やサービスに欠損があったとき
- 自社製品の品質に問題があったとき
- 情報セキュリティインシデントが発生したとき
- 安全衛生の面で問題が発生したとき
- 大規模なシステム障害が発生したとき
- 労働災害が発生したとき
- 重大なコンプライアンス違反が起きたとき
- 顧客とのトラブルが発生したとき
- 法的なトラブルが発生したとき
会社としての信頼を失ってしまう問題が起こると、速やかに再発防止を図る必要がある。「なぜ問題が発生したのか」「どの点に問題があったのか」「今後はどのように改善すべきか」を把握するために、顛末書は重要な役割を果たしている。
■顛末書の法的効力
顛末書は会社の中でのみ情報共有されるケースが一般的であり、法的効力は持たない。そもそも反省を促すための書類ではなく、不祥事やミスが発生した経過を客観的に報告している書類に過ぎないためだ。
ただし、顛末書の内容に基づいて、再発防止策の実施に関する業務命令を受ける可能性はある。組織として解決すべき問題に取り組むための指示なので、罰則のような意味合いはない。
基本的に、顛末書は内部統制や業務の改善に役立てる目的で用いられる、という点を押さえておくとよいだろう。
始末書と顛末書の書き方
初めて始末書や顛末書を書く際は、どのように書けばよいのか分からないこともあるだろう。
以下で、始末書と顛末書の書き方を解説する。
■始末書に必要な項目
始末書に書くべき主な項目は、以下のとおり。
- 宛先(通常、上司や会社の代表者宛)
- タイトル(「始末書」と明記)
- 日付
- 件名(「~に関する始末書」など問題の概要を簡潔に書く)
- 事実経過
- 問題の詳細
- 原因分析
- 反省
- 再発防止策
- 今後の具体的な改善策
- 謝罪
- 署名・捺印
- 所属部署
- 役職
以上の項目を含めて記載すれば、適切な始末書を作成できる。また、会社によってはフォーマットを用意しているケースもあるため、それを活用してもよい。
■始末書の書き方のポイント
始末書を書く際には、発生した不祥事やミスの事実を正確に記載する必要がある。何が起きたのかを時系列で説明し、日時・場所・関係者などをできるだけ詳細に記載しよう。
始末書には反省を促す意味合いがあるため、真摯な姿勢を示すことが欠かせない。自分の過失や判断ミスを率直に認め、責任転嫁と感じられる文言は避けるべきだ。
あわせて、なぜ問題が発生したのかを考察し、自分の行動や判断の背景を説明しよう。今後同じ問題を起こさないための具体的な対策を提示し、改善への強い意志を示すとよいだろう。
■始末書の記載例
始末書の例文を紹介しよう。まずは無断欠勤や遅刻を繰り返したケースの例文だ。
始末書 この度は、過去3ヶ月間に無断欠勤を〇回、遅刻を〇回重ねてしまいましたことを、心より深くお詫び申し上げます。私の勤務態度の悪さにより、会社業務に多大な支障をきたし、上司並びに同僚の皆様に多大なるご迷惑をおかけしましたことを、誠に申し訳なく思っております。 これらの行為は、私の仕事に対する責任感の欠如と、自己管理能力の不足によるものです。特に、以下の点において問題があったと認識しております。
・健康管理の怠慢による体調不良 ・私生活の乱れによる生活リズムの崩壊 ・仕事に対する姿勢の甘さ
今後は、以下の対策を徹底し、必ず改善いたします。
・規則正しい生活リズムを確立し、十分な睡眠時間を確保する ・健康管理に留意し、定期的な運動を心がける ・仕事の優先順位を見直し、責任を持って業務に取り組む ・常に時間に余裕を持って行動し、遅刻を防止する ・何らかの事情で遅刻や欠勤の可能性がある場合は、必ず事前に連絡する 二度とこのような事態を起こさぬよう、勤務態度を根本から改め、失った信頼の回復に全力を尽くす所存です。今回の件を深く反省し、今後は模範的な社員となるべく努力いたします。 |
続いて、業務上大きな過失があるミスを起こしてしまったときにおける始末書の例文だ。
始末書 私、経理部主任の○○は、令和○年○月○日に以下の業務上のミスを犯しましたので、ここに始末書を提出いたします。 ミスの内容:取引先への振込金額誤り(過少払い) 当日、A社への月次支払い200万円の振込処理を行う際、誤って2,000万円と入力してしまいました。この誤りに気づいたのは翌営業日のA社からの問い合わせ後でした。 このミスにより、A社との信頼関係を損ない、また修正作業のために追加の業務負担を部署全体に強いることとなりました。自身の不注意が招いた事態を深く反省し、以下の再発防止策を実施します。
・振込処理時のダブルチェック体制の徹底 ・大口支払いの際の上司への事前確認の実施 ・振込データ入力後の再確認時間の確保
今後はより一層の注意を払い、正確な業務遂行に努めます。二度とこのような事態を起こさぬよう、細心の注意を払って職務に当たることをここに誓約いたします。 |
以上の例は一般的な形式を示しているため、実際の始末書は会社の方針や状況に応じて調整が必要だ。一般的な始末書のイメージとして、参考にしてみてほしい。
■顛末書に必要な項目
顛末書を書く際の具体的な項目と内容については、以下のとおり。
- 宛先(通常、上司や会社の代表者宛)
- タイトル(「顛末書」と明記)
- 日付
- 件名(「~に関する顛末書」など問題の概要を簡潔に書く)
- 事実経過
- 問題の詳細
- 原因分析
- 再発防止策
- 今後の具体的な改善策
- 署名・捺印
- 所属部署
- 役職
始末書から反省や謝罪に関する項目が抜け、事実経過や問題の原因を詳細に説明するイメージだ。事態の全容を明確に説明し、客観的に記載するとよいだろう。
■顛末書の書き方のポイント
顛末書を作成する際には、不祥事やミスを正確に把握し、発生した事象を時系列に沿って書くとよい。問題の分析と課題の把握を行い、改善に向けて動くための書類となるため、推測・憶測を避けて確認できた事実のみを記載しよう。
客観的な記述を心がけ、抽象的な表現ではなく具体的な数字や事例を用いて説明すると、読み手に伝わりやすくなる。「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どのように」を明確にして、問題の原因を分析しよう。
示した問題を解決するために、実行可能で効果的な再発防止策を提示することも欠かせない。改善に向けた具体的な案を示せば、同じ不祥事やミスが発生するリスクを軽減できるだろう。
■顛末書の記載例
以下で、顛末書の記載例を紹介する。
顛末書
2024年10月15日、当社製品A型において、動作不良の報告が複数の顧客から寄せられた。
・10月15日 9:00 顧客サポート部門に最初の不具合報告が入る ・10月15日 11:00 類似の報告が5件に増加、品質管理部門に報告 ・10月15日 14:00 緊急対策会議を開催、原因究明チームを編成 ・10月16日 10:00 原因が製造工程での部品取り付けミスと判明 ・10月16日 15:00 対策案を決定、生産ラインの点検と修正を実施 ・10月17日 9:00 顧客への説明と製品交換プログラムの開始
製造ラインでの自動組立機の設定ミスにより、特定のロットで部品の取り付け位置がずれていた。
・該当ロットの製品全数の無償交換プログラムを実施 ・製造ラインの自動組立機の設定を修正し、点検頻度を増加 ・出荷前の品質チェック項目に取り付け位置の確認を追加
・製造工程の自動チェックシステムの導入 ・品質管理マニュアルの改訂と従業員への再教育の実施 ・定期的な製造ライン監査の頻度を増加 本件に関する詳細な記録は品質管理部門で保管し、今後の品質向上に活用する。 |
続けて、より重大なトラブルに対する顛末書だ。記載内容の違いに着目してほしい。
顛末書
2024年10月20日、当社の基幹システムが2時間にわたり完全停止する事態が発生した。
・10月20日 8:30 システム監視アラートが発報、IT部門が調査開始 ・10月20日 8:45 社内ユーザーからアクセス不能の報告が多数入る ・10月20日 9:00 経営陣に第一報、緊急対応チームを編成 ・10月20日 9:30 外部ベンダーに協力要請 ・10月20日 10:15 原因がデータベースのインデックス破損と判明 ・10月20日 10:45 復旧作業完了、システム再起動 ・10月20日 11:00 全機能の動作確認完了、正常稼働を確認
前日の定期メンテナンス時のインデックス再構築処理が不完全だったため、データベースのパフォーマンスが著しく低下し、最終的にシステムがダウンした。
・社内業務が2時間停止 ・顧客対応に遅延が発生 ・データ損失なし
・メンテナンス手順の見直しと自動化の拡充 ・システム監視の強化とアラートしきい値の調整 ・バックアップシステムの導入検討 ・IT部門スタッフの教育訓練の強化 今後、月次でシステム安定性レビューを実施し、継続的な改善を図る。 |
以上の例は一般的な形式なので、実際には発生した不祥事やミスなどに応じて調整しよう。また、例文は「だ・である調」で書いているが、実際には「ですます調」でも問題ない。