「齟齬」の類似表現
齟齬に似た表現は、「不一致(ふいっち)」「行き違い(いきちがい)」「軋轢(あつれき)」「不協和音(ふきょうわおん)」などです。それぞれの意味や例文を解説します。
■不一致(ふいっち)
不一致は「ふいっち」と読み、一致しないことやぴったり合わないことを意味する言葉です。物事がうまく噛み合わないという意味を持つ、齟齬の類似表現といえるでしょう。
【例文】
・マーケティング戦略の方向性について、現場で意見の不一致が起きている
・認識の不一致が原因で、プロジェクトの進行が遅れた
・重要報告書データに不一致が見つかったため、原因を究明している
参考:デジタル大辞泉
■行き違い(いきちがい)
行き違いとは、すれ違いになって出会えないことや、意思疎通がうまくいかずに食い違いや誤解が生じることをあらわす言葉です。行き違いは、齟齬が生じている状況と同様に、ビジネスシーンや日常生活のトラブル要因となりかねません。
たとえば、締め切りギリギリになってセミナーへの参加の返事をした後に、返事をしたことを知らない主催者から返事の催促の連絡をすることなどが該当します。このような物理的な行き違い以外にも、考え方や認識のすれ違いをあらわす場合もあります。
【例文】
・取引先と行き違いがあったようで、正式な決定は来週行われることになった
・行き違いの場合はご容赦ください
・商品の納期について行き違いが生じ、お客様にご迷惑をおかけしてしまった
参考:デジタル大辞泉
■軋轢(あつれき)
軋轢とは「あつれき」と読み、人間関係の悪化やいざこざなどを意味する言葉です。もともと軋轢は、車輪がきしむ音をあらわす言葉でした。車輪がきしむと、耳障りで不快感を与える音が出ます。そこから転じて、人間関係が悪化することを意味するようになりました。
「軋轢が生まれる」というように使い、「軋轢が作られる」や「軋轢となる」といった使い方はしない点に注意しましょう。
【例文】
・チームリーダーの軽率な発言により、チーム内に軋轢が生まれつつある
・取引先との価格交渉が難航し、関係に軋轢が生じた
・シェア争いが激化し、業界内での軋轢が増大している
■不協和音(ふきょうわおん)
不協和音は「ふきょうわおん」と読み、同時に響く2つ以上の音が調和しないことや、不調和な関係をたとえる言葉です。調和の取れていない音を表現するだけでなく、人間関係がよくない状態もあらわします。
ビジネスにおいて、人間関係に不協和音が生じていると、目線合わせや情報共有がしにくくなり、チームとして目標を達成することが困難になるでしょう。そのため、早急に改善を目指す必要があります。
【例文】
・経営層と現場との間で、コミュニケーションの不協和音が発生している
・プロジェクトの方向性について、チーム内で不協和音が生まれている
・スタートしたばかりの体制において、早くも不協和音が生じている
参考:デジタル大辞泉
「齟齬」の反対表現
物事がうまく噛み合わないことや、食い違いなどを意味する齟齬の反対語としては、「合致(がっち)」や「符合(ふごう)」、「疎通(そつう)」などが挙げられます。それぞれの意味や例文を確認しましょう。
■合致(がっち)
合致とは「がっち」と読み、ぴったり合うことや一致することを意味する言葉です。物事が噛み合っていない状態をあらわす、齟齬の反対の意味を持つ言葉といえます。
たとえば、「目的に合致する」と使う場合、行動や選択が特定の目的に完全に適合する状態を示しています。
【例文】
・分析結果は、予測と完全に合致するものだった
・社長と部長の認識が合致した
・このデザイン案は、クライアントの要求に合致している
参考:デジタル大辞泉
■符合(ふごう)
符合は「ふごう」と読み、2つ以上の事柄がぴったりと合うことを意味する言葉です。
符合は中世の日本において、「割符(わりふ)」が合うことをあらわす言葉でした。割符とは、遠隔地の商品購入などの決済に用いられた証書を指します。具体的には、文字を記した木片などを2つに割って別々に所持し、両者をぴったりと合わせることで信用の証とし、現地で商品と交換する際に使いました。
このように割符が寸分違わずに合致することから、物事がぴったりと合うという意味が生まれたと考えられています。
【例文】
・新しい取り組みが、従業員の期待に符合しているか確認するべきだ
・部門ごとの売上データが、全体の目標と符合している
・市場調査の結果は、我々の予測と完全に符合していた
参考:デジタル大辞泉
■疎通(そつう)
疎通は「そつう」と読み、ふさがっていたものが滞りなく通じることや、筋道がよく通ることを意味する言葉です。「意思疎通」には、送信者がクリアなメッセージを形成し、受信者がそれを滞りなくキャッチし解釈するプロセスが含まれます。物事がうまく噛み合わないことをあらわす齟齬とは、反対の意味合いで使われる言葉の1つです。
【例文】
・クライアントとの意思疎通の不足が原因で、取引が終了した
・定期的なミーティングの開催によって、チームメンバー間の意思疎通が改善された
・英語ができないと、現地スタッフとの意思疎通が図れない
参考:デジタル大辞泉
「齟齬」が起きないようにする方法
ビジネスの場面で齟齬が起きると、業務の進行や取引先との関係性に悪影響を及ぼしてしまうでしょう。そのため、できるだけ齟齬が起きないよう意識する必要があります。齟齬を防ぐためには、以下の3点の方法が効果的です。
・具体的に伝える
・伝えた内容を記録しておく
・やり取りした内容を都度確認する
それぞれの方法を解説します。
■具体的に伝える
齟齬を防ぐためには、要件や指示を具体的に伝えることが重要です。たとえば報告書の提出期日を「今日中」と伝えた場合、伝える側は「終業時刻の17時まで」をイメージしていたとしても、人によっては「日付が変わるまで」と捉えてしまうことも考えられます。
受け取る相手によって解釈にバラつきが出てしまうことを防ぐために、「17時まで」というように、時間を明確に伝える必要があります。
■伝えた内容を記録しておく
伝えた内容や打ち合わせ内容を記録しておくことも、齟齬を防止するための有効な方法です。口頭でのやり取りを記録しておかないと、伝えた側も伝えられた側も「たしかこうだったはず」というように思い込み、いつのまにか情報の歪曲をしてしまうためです。
伝えたことを記録に残しておくことで、口頭でのやり取りによくみられる「言った言わない問題」の発生を防げるでしょう。
■やり取りした内容を都度確認する
齟齬が起きないようにするために、やり取りを行った内容をその都度確認することも効果的です。言葉の解釈は、人によって異なります。それにより、同じ言葉を使っていたとしても、伝えた側と伝えられた側でその解釈が異なっていると、必然的に認識の齟齬が起きてしまいます。そのため、やり取りした際に言葉の定義を確認することで、齟齬を防ぎましょう。
たとえば、報告書を今日中に提出するように指示された場合、「17時を目安にすればよいでしょうか?」と事前に確認すれば、齟齬を避けられるでしょう。
「齟齬」を防いで円滑にコミュニケーションを図ろう
齟齬とは、物事がうまく噛み合わないことや、食い違いなどを意味する言葉です。齟齬には、少なからず相手にも認識のズレがあることを指摘するニュアンスが含まれていることから、目上の相手に対して使ったり、自分に非があるときに使ったりすることは避けましょう。
ビジネスシーンで齟齬が生じてしまうと、業務の進行に支障をきたすだけでなく、取引先との関係性の維持が困難になるなど深刻な影響を及ぼします。そのため齟齬が生じないように、指示や要件は具体的に伝える、伝えた内容を記録しておく、やり取りした内容を都度確認するといったことが大切です。齟齬を防いで、円滑にコミュニケーションを図りましょう。
構成/橘 真咲