ライターという商売をやっていると、「やはり新聞記者は新しい単語を作る天才だな」と思うことがある。
最近では日本経済新聞が10月15日に配信した“電話・現金で「アナログ・ライドシェア」 15地域が意欲”という記事の「アナログ・ライドシェア」という文言に筆者は感心してしまった。「アナログ・ライドシェア」とは、内容をたった一言でズバリ表現した素晴らしい単語である。この記事に携わった記者とデスクには最大限の敬意を払うべきだ。
同時に、@DIMEで交通関連ネタの記事を書いている筆者としては、このアナログ・ライドシェアの中身を詳しく検証・解説しなければならないだろう。国土交通省が推し進める日本版ライドシェアの事前料金確定制やダイナミックプライシング(変動料金制)とアナログ・ライドシェアをどう両立させるのか、気になっている読者は少なくないはずだからだ。
世界のライドシェアは「スマホアプリとキャッシュレス決済」が基本
まずは、ライドシェアの仕組みについておさらいしよう。ここで言う「ライドシェア」とは、日本以外の世界各国でオペレーションを展開している配車サービスである。
ライドシェアとは、黎明期のごく短期間・ごく一部のサービスを除いて原則としてスマホアプリで任意の場所に呼び出す仕組みだ。利用者のスマホはGPS等の位置情報と連携しているため、ライドシェアのドライバーも「利用者が今どこにいるのか?」ということを把握できる。
料金の支払いは、2010年代中葉まではキャッシュレスと現金の両方に対応している場合が多かった。しかし、特に東南アジア諸国のライドシェアは2015年あたりから独自のキャッシュレス決済サービスを構築するようになる。それに合わせて現金の取り扱いを縮小した。具体的には、キャッシュレス決済よりも現金決済のほうが料金が大きくなるよう設定したのだ。
2024年の今では、料金の事前確定とダイナミックプライシング、そしてキャッシュレス決済がライドシェアの「基本形」となっている。
アプリが普及していない地域での日本版ライドシェア
世界がそうした状況の中、日本版ライドシェアはスマホアプリではなく電話で車両を呼び出し、現金で決済できる仕組みを整えるようだ。
これは、国交省の言葉を借りれば「配車アプリが普及していない地域」でも日本版ライドシェアを利用できるようにするひとつの配慮である。実は今年2月に開催された令和5年度第1回自動車部会でも、「アプリが活用されていない地域ではどうするか?」ということが話し合われている。
この会議で用いられた“地域交通における「担い手」「移動の足」不足への対応方策について”というPDF資料の9ページに、「タクシー不足の客観指標化にはアプリだけではなくタクシー無線や関係者に対するヒヤリングも用いる」こと、そして「今後はアプリ導入を促す」ことが記載されている。配車方法に関してもこれと同様に、当初は電話での呼び出しを認めるが同時にアプリの導入・普及を国交省が促していくのではと思われていた。
しかし、10月に入ってからその模様が変わってきたようだ。
国交省が公開したガイドライン
国交省関東運輸局自動車交通部旅客第二課が10月2日に作成したPDF資料。この資料の15ページは「日本版ライドシェアの導入方法」という項目だが、そこにはこう書かれている。
・原則配車アプリを活用して、配車を依頼する際に、乗車地・降車地を指定し、運賃が事前確定される
・配車アプリが普及していない地域では、電話等当該アプリ以外の方法でも実施可能
・運賃はタクシーと同水準
そして同資料26ページ「配車アプリが普及していない地域での導入」には、こうある。
・配車アプリが普及していない地域でも、日本版ライドシェアを導入できるよう、ガイドラインを策定
そして、このガイドラインは別のPDF資料として公開されている。その中で、利用者がアプリではなく電話で利用した場合の配車の流れが説明されているのだ。
以下、それを改めて解説していこう。
利用者の代わりにオペレーターがプラットフォームを操作
まず、利用者はタクシー会社に電話をかける。通話先はタクシー会社のオペレーターで、そこで現在地と行き先を伝える。
資料にはオペレーターの「タクシーが出払っているので、日本版ライドシェアでもいいですか」という台詞が書かれているが、これは日本版ライドシェアがあくまでも「タクシーの補完的存在」だからだ。タクシーの台数に余裕があれば、ライドシェア車両ではなくタクシーを手配する。
その後、オペレーターは地図アプリで発着地を入力。ルートの確認(最短ルートにするか、どこかを経由するか)を行ない、利用者の希望ルートにかかる運賃を確定。手配した車両の情報と到着までの所要時間をオペレーターが利用者に伝える。
ライドシェアドライバーへの連絡もオペレーターが行なう。配車が可能かどうかの確認とルートの指示を行う。
この流れを一言で言い表せば、「利用者の代わりにオペレーターがプラットフォームを操作する」ということだ。
「つなぎ」ではなく「恒久的方法」に?
こうした利用の流れをガイドラインとして国交省が作成したことは、言い換えれば「今後はアプリ導入を促す」という当初の姿勢の後退ではないか。
電話連絡によるライドシェア車両の手配が、アプリが普及するまでの「つなぎ」ではなく恒久的な方法になる可能性がある。
そもそも、日本版ライドシェアはそれ単体でオペレーションできる仕組みにはなっていない。繰り返すが、日本版ライドシェアは「タクシーの補完」である。利用者がアプリを使って能動的にライドシェア車両を呼び出す(即ち、タクシーではなくライドシェアを指定して呼び出す)ことは一切できない。したがって、アプリを普及させるよりも「昔ながらの方法」を堅持したほうが日本版ライドシェアにとっては得策で、組み合わせとしての相性が良いということではないか。
そうした背景があるからこそ、国交省が提示した「電話と現金の日本版ライドシェア」に15地域が意欲を示したと考えられないだろうか。
【参考】
電話・現金で「アナログ・ライドシェア」 15地域が意欲”-日本経済新聞
日本版ライドシェア、公共ライドシェア等について-国土交通省
配車アプリを使わない日本版ライドシェアの導入ガイドライン-国土交通省
地域交通における「担い手」「移動の足」不足への対応方策について-国土交通省
文/澤田真一
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