クライアントがクリエイターに寄り添う重要性
チャレンジングなパッケージデザイン、ネーミングを採用してもらえたのは、金谷さんのクリエイターに対する理解があったことが大きいと原元さんは話す。
「組ませていただいてよかったなと思うのは、金谷さんがクリエイティブに対してポジティブで、クリエイターの目線に立って推し進めていただける方だったのが大きいと思います。そこが一番じゃないですかね」(原元さん)
「保守的な業界ではありますが、原元さんがおっしゃったように『クリエイターの意向をいかに実現させるか』が私の役目だと思っていました。それが結果的に良かったと思いますね」(金谷さん)
『ミルクの束縛』のパッケージには、表面だけではなく、側面などの細部にもこだわりが詰まっている。紙パックを開くと「もう普通のミルクコーヒーに戻れないかもしれない」「生まれ変わってもまた会えるね」などのメッセージが現れるのも、ピエールさんが考えた仕掛けの一つだ。
「『ミルクの束縛』という名前ができた後、急にこのパッケージが束縛するキャラクターに見えてきて、『生まれ変わってもまた会えるね』と入れたくなったんです。キャラクター性が出るのはいいなと思って。カヤックではさまざまなWebコンテンツをつくっており、 ボタンをクリックしたら音が返ってくるなどインタラクティブな体験 ができますが、それに近しい感じで パッケージもユーザーがアクションをしたら返事が返ってくるようにしたいと思っていたんです。開けた時に『もう普通のミルクコーヒーに戻れないかもしれない』と出てきて、そこで気になった人が裏面も開けて見てくれる。ちょっと束縛感のある言葉も入れておくことで、ユーザーが飲んでいる時に『なんだよ~(笑)』みたいな感じになったらいいなと思って」(ピエールさん)
こうして試行錯誤を経て完成した『ミルクの束縛』は、2023年10月に千葉県のファミリーマートで先行販売が開始され、現在では関東甲信越と静岡県にまで拡大している。金谷さんは、販売後の反響についてこう話す。
「この手のパッケージデザインの商品は、中身で裏切られることも多いんです。『買ってみたけど、そんなおいしくないな』『イメージが違うな』と。でも、『ミルクの束縛』はそうではなくて『味がパッケージの表現そのものだ』といった声が多かったんです。コピーで書いてありますが『一口目はゆっくり味わってください』とあり、それを読みながら飲んでいる方も多いと思います。じっくりと味わって、おいしいと思っていただける方が多いのはうれしいことですね」