2023年10月に誕生し、関東甲信越のファミリーマートで販売されている古谷乳業の『ミルクの束縛ミルクコーヒー』。生乳を75%使用したおいしさはもちろん、ネーミング、パッケージデザインの独創性も話題を呼んでいる。
今回、同製品の開発に携わった古谷乳業株式会社 事業開発部部長 金谷敏さん、面白法人カヤック コピーライター 合田ピエール陽太郎さん、アートディレクター 原元光章さんに、ネーミングとパッケージデザインが決まるまでにあった試行錯誤、ヒット商品になった要因についてお話を聞いた。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
良い商品は作れても、その魅力を伝えられないジレンマ
はじめに、古谷乳業の金谷さんは、『ミルクの束縛』の特徴について次のように説明する。
「500mlの紙パック商品で、ファミリーマートで販売されています。この商品の特徴は、生乳・コーヒー・砂糖のみで作っていること。自然のものしか使っていないんです。他社さんでよく売れている商品は、生乳を加工してパウダー化したものを原料としています。いわゆる脱脂粉乳ですね。我々は牛乳メーカーですから、なるべく生乳を多く使い、そのおいしさをお客さまにお届けしたいと思い、企画をしました」(金谷さん)
実は、製品自体はすでに完成していたものの、地方の乳業メーカーならではの課題があり、それらを解決するために面白法人カヤックとタッグを組んだ。
「古谷乳業だけではなく、地方の乳業メーカーさんもそうなんですが、ものを作っても、その価値をどう伝えたらいいか考える部門がないんです。そこで、マーケティングを担ってくれる会社を探し、数ある中からカヤックさんにお願いをしました。カヤックさんは『まず企業を知る』という方針で、弊社の成田工場に来ていただき、古谷乳業の強み・弱みは何か、将来どうなりたいかをブレストするところからスタートしたんです」(金谷さん)。
ピエールさんは、最初の印象について次のように振り返る。
「お話をいただいてから、アートディレクターの原元、社内プロデューサーの3人で打ち合わせをした時に、結構甘く感じるので『こんな甘い商品をいつ飲むのだろうか』と話をしました。商品のことを、製造している人は、我が子のように愛しているのですが、僕は商品に対してものすごくいじわるなお客さんになれます。『こんな商品を買う人いないんじゃないか』と、嫌いになることから始めるんです。すると完璧な商品はないのですが、『この部分だけは他にはない魅力だな』とか、ちょっと好きに思えるポイントもあるわけです。いじわるなお客さん目線で感じたことを製造側に伝えることで、消費者に好かれる商品が作れるのではないかという考えがありました。飲んでいるうちに、『牛乳好きの人は買うかもしれない』と、濃厚な味について話をしていたんです。そこを引き出していきたいなと思っていました」(ピエールさん)
ネーミングとデザインの部分では、最初の案が通らず、試行錯誤を繰り返したという。
「名前とデザインで、かなり悩んだ部分がありました。名前は最初『純ミルクコーヒー』としていたんです。さらに広告に予算を割くことができなかったので、パッケージの面にいっぱい言葉を書いて、店内POPのような、広告媒体として使えるパッケージにしましょうとご提案したんです。最初はOKをいただいたんですが、乳業業界の団体ルールに合わせる必要があり、そこで何度もお戻しをいただきました」(ピエールさん)
「パッケージの中にも『乳飲料という言葉は商品名の3分の2の大きさで表示してください』『商品名の一番近い位置に乳飲料という言葉を入れてください』など、決まり事があったんです。そうした決まり事をクリアしつつ、一番良い収まりを考えていく部分で、デザイン面でもかなり試行錯誤がありました」(原元さん)
妥協しない姿勢が作り出した唯一無二のネーミング
金谷さんは、商品に自信はあったものの、ネーミングとデザインについて、ピエールさんや原元さんと入念に意見を交わした。
「コミュニケーションの頻度は、通常よりもかなり多かったと思います。乳業メーカーは『生乳の価値』を大切にしています。『生乳は絶対においしい』と。75%の生乳が入っているので、消費者もその価値を認めて買ってくれると思っていたんです。でも、カヤックさんは『そこは違う』と言ってくださいました」(金谷さん)
「『純ミルクコーヒー』が駄目になって、しばらく『頂』『極』などの一文字シリーズがいくつか候補に上がりましたが、どれもNGでした。そこで、金谷さんからは『生乳75%ミルクコーヒー』ならOKになります。もしほかの案がなければ、それで決定させてください 』と言われたんですが、僕はその名前が嫌で。なぜかと言うと、生乳75%が多いのか少ないのか判断軸がないので 『 それってどんな味なの? 』となってしまうと思ったんです。入稿ギリギリのタイミングで『どうしても名前を変えたいので』と朝一で金谷さんをお呼びして 、『ミルクの束縛』にしてもらいました」(ピエールさん)
「ネーミングやデザインをしている中で、私たちのミルクコーヒーの新基準が、生乳75%の『ミルクの束縛』に変わりました。例えば、『果汁100%』の表現はわかりやすく、ブランド化されています。それと同じように生乳が広まったら良いよねとお話をさせてもらって、いろいろな積み重ねで『ミルクの束縛』に決まりました」(原元さん)