職場での世代間ギャップはいつの時代にもあったが、現在の年長者世代と、「Z世代」の仕事に対する価値観には大きな乖離がある。Z世代にとって「はたらく」とは何か。アメリカ在住のZ世代が記す仕事と働き方についての時事エッセイ。
【Z世代の〈はたらく〉再定義】会議の増加により低下する職場の生産性。今こそ「ミーティングインフレ」を見直すべき?
「ホワイトカラーワークは今やミーティングばかり」というタイトルの記事※1がThe Atlanticから7月に公開され、大きな話題を呼んだ。2020年2月以降、週に行なわれるMicrosoft Teamsのミーティングや通話は92%増加しているというデータ※2があるほど、コロナウイルスのパンデミック以前と比べてミーティングの時間は大幅に増えている。このことが職場環境そのものだけではなく、効率性やクリエイティビティにまで悪影響を与えているとして、社会問題だと徐々に話題になっている。
リモートワークが広く普及したパンデミックのロックダウン中は、社員の生産性を担保し士気を保つため、また単に物理的に1つの会議室に集まるよりもZoomやTeamsなどに自宅からアクセスしたほうが容易だから、といった様々な理由でミーティングの頻度が上がった。その結果、業務の大多数をミーティングの時間が占めることが「普通」なこととして受け入れられていった。特に2020年以降に卒業したZ世代の多くにとっては、リモートワークやリモートからの会議への参加は仕事の中心的業務であり、むしろオフィスに出社することがネガティブな要素としてさえ感じられているのだ。
しかしミーティングをオンラインで設定し、オンラインで参加することの「お手軽さ」によって、いわゆる「ミーティングのインフレ」が起きてしまっている。先述のデータ※2では、平均的な社員は仕事時間の約37%を会議やその調整に費やし、会議やその管理に費やす時間に雇用主は年間平均29,000ドル以上のコストをかけているとも言われている。1日のうちに何回もミーティングが散りばめられていると、いわゆる「ミーティング疲れ」が発生するだけではなく、元々着手していた作業(パワーポイント作成、プログラミングなど)からいったん離れなければならず、その「スイッチ」の作業によって大きな時間と思考エネルギーのロスが発生する。さらには、ミーティング時間が60分間に設定されていたとしても、例えば最初の10分は全員が集合するまで待って雑談する時間、次の10分は前回のミーティングの復習と議題のまとめなど、実際にミーティング内で「生産的」な議論を行なえる時間は実はそれほど多くない。
他にも、ロックダウン以前はお昼休みには仕事から離れてしっかり食事や休憩を取っていたのに、リモートワークが定着して以降は「お昼休み」の時間中にもミーティングを設定されるなど、明らかに必要以上のミーティングがブッキングされやすくなってしまったことに頭を抱える社員も増えている。この「ミーティングインフレ」の原因は、例えばマネージャーレベルの上司が他の社員の時間を勝手に圧迫してしまっていたり、本来は善意からくる「全員の意見を聞こう」という働き方の風潮がミーティング時間の膨張を後押ししてしまっていたりと様々。しかし、根本的には「社員それぞれが何を優先したいのか」ということへの配慮が欠けていることが問題なのだ。
これらの課題を解決するためには、ミーティングを設定・開催する前には明確な目的と議題を設定し、非同期コミュニケーションを行なえるようなインフラ整備の重要性が提唱されている。そうすれば社員の集中力が切れてしまう、参加できない人がいて何回もリスケジューリングを行なわなければならない、といった問題を避ける手助けになる。さらに、会議の頻度を減らすだけでなく、自由な時間内でインスピレーションが浮かんだ時にプロジェクトなどに貢献することが可能になるはずだ。より心地よく、効率的な職場環境を形成するには、まずは「会議をしすぎではないだろうか」と疑うことが必要となるだろう。
文/竹田ダニエル
※1:The Atlantic「White-Collar Work Is Just Meetings Now」
※2:worklife「The true cost of meetings, by the numbers」
●竹田ダニエル|1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行ない、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』(講談社)を上梓。そのほか、多くのメディアで執筆している。