発売からわずか1か月で、過去15年間で最大のヒット商品に!
こうして誕生した『キリンビール 晴れ風』は、向井さんの想像を超えるヒット商品となる。
「2024年4月2日の発売から約1か月間の売上は、過去15年のビール類新商品の中で最大となりました。直近もずっと売上を伸ばしており、発売約3か月で1億本を突破。年間の目標数を当初の予定から1.3倍に増やして550万ケースに上方修正しました。これだけの早さでこの売上を達成できたことは想像以上で、とてもうれしく思っています」(向井さん)
今回、ビールが苦手な若年層へのアプローチとして、広告にも工夫を凝らしたという。
「ビールが苦手な方は、『あまりビールに関心がない方』『ビールへの情報感度があまり高くない方』だと思うんです。そんなお客様にも、17年ぶりにキリンビールが力の入った商品を出すという話題をお届けしないと、手に取っていただけないと考えていました。そこで取り組んだのか、発売2週間前からのティーザー広告です。過去にもティーザー広告の取り組みは行なってきましたが、2週間という長い期間にわたり、テレビ・電車内の広告など、大々的に行なうのは、あまり例がなかったと思います。最初の1週間は名前やパッケージを一切出さずに、缶の前でタレントさんが名前を隠して『名前はまだ内緒』というコピーと一緒に出しました。お客様にとってちょっと気になる存在になる、名前を当てたくなるようなコミュニケーションを展開したんです」
新たな価値として、『キリンビール 晴れ風』の売上の一部が日本の風物詩を支援する活動に寄付される「晴れ風アクション」も、同社にとって新たな取り組みだった。
「おいしさを大前提としながら『プラスアルファの新しい価値を作れないか』と、開発の途中で議題になりました。他にも案はありましたが、お客様から『ビールを飲むお花見や花火大会といったシーンを思い出せる日本の風物詩への寄付が良い』とのお声もいただき、それを採用したんです。4月2日からは第1弾として、『桜への支援活動』をスタート。目標金額を4000万円に設定していましたが、5月中旬〜下旬でそれを突破しました。かなり前倒しでご支持をいただいているのは定量でわかりますし、定性でもSNSで『こういった取り組みがとても素敵だから、このビールも応援しています』『地元の桜に寄付をしました』と、ポジティブな声たくさんいただいています」
ヒットした要因は「味へのこだわり+コンセプトに合ったCM+新たな価値」
向井さんは『キリンビール 晴れ風』のヒットの要因について、「味」「コミュニケーション」「晴れ風アクション」の3つが大きな要因だと分析する。
「飲みごたえがありながらも、飲みやすい。その難しいバランスを両立できたところは、評価いただけたと思っています。若年層や、過去1年間にビールを飲んでいなかったお客様の購入が、他のブランドと比較しても多く、狙ったお客様にしっかりとお届けできていると感じています。普段からビールを飲んでいる方からも『おいしい』とコメントをいただいたので、中味をしっかりと作り込んで本当に良かったと思っています。4名のタレントさんを起用させていただいた、明るく爽やかなCMも好評です。そして、味だけではなく『晴れ風アクション』にも、多くの方から共感をいただいていると思います」
新ブランド『キリンビール 晴れ風』の開発を経て、向井さんとチームメンバーは改めて「お客様視点の大切さ」に気づいたという。
「17年ぶりの『一番搾り』に次ぐブランドというところで、社内はもちろんお得意先からもかなりのご期待をいただいていました。絶対に失敗ができない中で、最終のアウトプットのクオリティをどれだけ上げられるか。本当に細かいところまでこだわり、発売に至りました。細部までこだわって、一生活者としてお客様の視点でしっかりと価値が届けられるという部分は、チーム全員が意識を高く持ってできたと思っています。そういった経験ができたことは、本当にチームの資産です。上長に『全体のコミュニケーションをこれでいきます』という時に、『もうこれで売れなかったら無理です』と言い切れるくらいやり切ったので、自信が持てるものに仕上がったんだと思います」
最後に、今後の展望について向井さんはこう話してくれた。
「発売だけではなく、年間を通した施策もブラッシュアップをしながら育成していきたいと思っているところです。今後もまた違った施策を検討しているので、まだまだ『キリンビール 晴れ風』を知らない方、まだ飲んでいないお客様にも、価値をお届けして、もっと大きなブランドにしていきたいと思っています」
取材/DIME編集部 文/久我裕紀