発売後はわずか1か月で完売!「可処分時間」の多い層に人気
技術面での試行錯誤を繰り返しながらも、マーケティング部門としても難しさを感じたと鸙野さんは振り返る。
「マーケティング部門では、ワクワクしながらも『手にとってもらうのは簡単ではないだろうな』という部分が正直ありました。生活の必需品ではないので、いかに欲しいと思っていただけるかを考えましたね。非日常感のある炉端焼きをフックに見せながら、重たく見えないようにコンパクトにして、日々の使いやすさにも目を向けていただけるようなコミュニケーションをどうやって作ろうか、検討を繰り返しました」(鸙野さん)
こうしてさまざまな苦労を乗り越え完成した『おうちいろり』は、販売後すぐに大きな反響を呼んだ。
「シロカクラブというファンクラブのお客さまが最初に買ってくださったんですが、『炉端焼きの非日常感がうれしいし、楽しい』というお声をいただけたんです。発売をしたのが冬だったこともあり、土鍋付きのほうが大人気で、生産したものが1か月目で完売をしました。いろいろなメディアからもお声掛けいただき、約半年で300件ほど、テレビも含めて取り上げていただき発展してきました。炉端焼きだけでなく土鍋も使えるようにしたことで、みんなで食卓を囲み、熱々なものを食べられると、ご購入者さまへの口説き文句になったんじゃないかと考えています」(鸙野さん)
『おうちいろり』の主要な購入者は、ゆったりと丁寧に時間を過ごしたいと考える「可処分時間」の多い層だという。
「コンセプトがある商品なので、ご自宅でゆっくりとしたお時間を過ごしたい、時間を丁寧に過ごしたい、おいしいものをじっくり焼けていく様を見ながら、パートナーと楽しく過ごしたいなど、子育て卒業世代で『可処分時間』が長めの方、時間がある中で食を楽しみたい方々からのお声が多かったですね」(鸙野さん)
今回の開発を通じて学んだことについて、高知尾さんと鸙野さんは次のように話す。
「今回、改めて『商品にはいろいろなものを使えるんだな』という気づきがありました。トライアンドエラーでここまで頑張ってきましたが、土鍋とアルミのプレートをセットで作れることも学びの一つでした。それ以外にも、今回チームや部署の垣根を越えて、さまざまなメンバーと会話をし、コミュニケーションを取りながら良い製品を作り上げることができたことも大きな学びでした」(高知尾さん)
「これまで当社では、圧力鍋やコーヒーメーカーなど『便利な家電』を中心に作ってきました。今回は打って変わって『時間を楽しむ、おいしいものに時間をかける』というテーマだったので、ターゲットとするお客様の時間の使い方、どのシーンを提案する家電なのか、お客さまの生活を妄想しながら、どういったご提案をするかを考えました。1回あたりの利便性という満足度よりも『時間の満足度が上がること』を考えた、学びのいいきっかけになりましたね」(鸙野さん)
今後アップデートにも期待!?
最後に、今後の展望についてお二人はこう語ってくれた。
「『おうちいろり』の発展で、上のプレート部分にまだまだ可能性があると思っています。この熱源をもとにした楽しみ方の提案をしていくことも、当初から計画していた部分の一つです。『おうちいろり』に限らず、当社として大切にしていることは『家電品を購入した時点が、お客さまの体験価値のスタート地点』ということ。日々使っていく中で、利便性を感じてもらい、時間の満足度が上がることが、私たちが最終的に提案したいことだと考えています。買っていただいた後も、コミュニケーションで繋がりながら、満足度を上げていくようなサポートをしていきたいです。ライフタイムバリューの中での価値が上がっていくような提案ができればと思っています」(鸙野さん)
「当社の商品はこだわりを持って作っているところが強いので、エンジニアとしても細かい部分まで『どこまでできるか』を今後、新しい商品に向けて挑戦していきたいです。『おうちいろり』に関しても、企画段階で土鍋以外の上物(プレート)がアイデアとして出ていた部分があるので、今後アップデートしていけるよう検討中です」(高知尾さん)
取材/DIME編集部 文/久我裕紀