シロカから2023年12月に発売された、卓上調理家電『おうちいろり』。自宅で簡単に炉ばた焼きが楽しめる商品だ。それだけではなく、炒め料理、煮込み料理、土鍋料理にも対応しており、話題を呼んでいる。
今回は、同社で『おうちいろり』の開発を担当した高知尾克徳さん、マーケティング担当 鸙野拓人さんに、ヒットに至るまでの道のり、困難とそれを乗り越えるために行なった工夫などについて話を聞いた。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
〝会話の場〟を提供することをテーマに開発がスタート
はじめに、鸙野さんは『おうちいろり』の特徴についてこう話す。
「『おうちいろり』は、昔ながらの囲炉裏をモチーフとした卓上調理家電で、炙り焼きが楽しめる『焼き網』、炒め物や煮込み料理もできる『深皿』、大玉のたこ焼きが作れる『ボールプレート』に加え、冬場にうれしい土鍋も使える商品です。ちょうどこの企画・開発がスタートしたのはコロナ禍でした。『個食』がテーマになっていた社会背景があったため、いつか家族以外ともテーブルを囲んでご飯が食べられる場を提供したいと思い、企画をスタートさせたんです。調理物を作っておいしく食べるだけではなく、『会話を楽しむ時間を創出しよう』をテーマにした商品です」(鸙野さん)
おいしい食事だけではなく、会話を楽しむことをテーマにした商品ならではの細部へのこだわりも詰まっているという。
「ガスコンロの上に土鍋を置くと高さが出て、隔たりがあるように感じてしまいます。そこで、『おうちいろり』は会話を妨げないよう、高さを抑えて設計をしました。食卓に馴染むシンプルなデザインも人気の特徴の一つです。焼き網は、焼き鳥、ホタテなどの海鮮など『何でも炙っちゃえ』という感じで、楽しみ方は無限大だと思っています。社員も使っているんですが、思い思いに好きなものを焼いて楽しんでいますね」(鸙野さん)
開発にあたり参考にしたのが、「水コンロ」だったと高知尾さんは話す。
「『おうちいろり』には、他社に比べて高出力のヒーターを採用しています。ムラがなく焼けるように、ヒーターの形状から反射の度合いを調整しました。モチーフとしたのは炭を使用して下に水を張った『水コンロ』です。その仕組みを採用することで、煙も抑制できるのではないかと考えました」(高知尾さん)
開発にあたっては、継続して使ってもらえるための工夫、おいしさに必要な高火力と安全性の両立に難しさがあったという。
「『おいしさの最高点を目指そう』というテーマと、『楽しかったね。次出すのはいつかな』とならず、日々使っていただけることをコンセプトに掲げていました。おいしい料理には高い火力が必要です。ただ、卓上で高い火力を出すと安全性も担保しなければなりませんし、お手入れのしやすさ、清掃性もしっかりと高めたいと考えていました。安全性を高めながら、いかにおいしく、日々使っていただけるかについての創意工夫が苦労した点でもありました」(鸙野さん)
ホットプレートではなく「卓上調理家電」を作る
今回の企画・開発は単に「ホットプレートを作る」ことではなく、「団欒の場を作る」ことに主眼を置いたと、鸙野さんは話す。
「ホットプレートの市場に参入するのではなく、会話の時間、団欒の時間を作るために、どんなものだったらそれをかなえられるかを考えました。私たちは『ホットプレート』とは呼ばずに、『卓上調理家電』と呼んでいます。例えば『1台~役』と謳ってしまうと、お客さまからできることの数で勝負していると思われてしまうため、情緒的価値の提案ができるよう工夫したんです。そもそも炉端焼きはホットプレートではできませんし、そこに分類されないよう、大切に商品をリリースしてきました」(鸙野さん)
技術的な困難もあり、発売までに3年ほどの期間を要したという。
「焼き網にフォーカスをしてしまうと、今度は土鍋が沸騰しない。そこはとても苦労した部分でしたね。最終的には『焼き網/土鍋』『深皿/ボールプレート』の組み合わせで、二つのモード設けるようにしました。『深皿/ボールプレート』に対して、土鍋の熱伝導率は倍近く違うんです。弊社のモデルでは、電子制御を採用しています。他社だと、機械的にサーモスタットで温度の制御をかけるものがほとんどですが、弊社はNTC(Negative Temperature Coefficient)で温度を読み取り、それに対して制御をかける動かし方をしています。温度がどうなっているかを読み取ってプログラムで変えていくイメージです」(高知尾さん)