日本でのラジオ放送は1925年から始まり、まもなく100周年を迎える。電波からデジタル通信へと情報技術が進化した現代において見直されつつあるのが、ラジオ広告をはじめとした音声で伝える広告〝オーディオアド〟だ。その可能性や普及に向けた課題、そしてそれを解決する手がかりとは。電通のプロジェクト担当者に話を聞いた。
北弘樹さん
株式会社電通 第2マーケティング局
エグゼクティブ・プランニング・ディレクター
1995年電通入社。CR部門、営業部門を経て、現在は広告主のマーケティングおよびメディアプランニングのサポートの他、放送局や配信事業者等メディア企業のコンサルティングを担当する。ターゲット分析ツール「PeopleProfiler」、AIコピーライターツール「AICO2」の開発に参画。2020年より現職。
川田琢磨さん
株式会社電通 CXクリエーティブ・センター
クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
2011年電通入社。コピーライターとしてキャリアをスタートし、2013年TCC新人賞。2017年、電通デジタルへ出向。クリエイティブ表現からブランドリフトを予測する【Brand Lift Checker】を開発。2020年より現職。同年ACCゴールド/クラフト。2021年Spikes Asiaグランプリ。
入澤健太郎さん
株式会社電通 第2マーケティング局
シニア・マーケティング・ディレクター
2004年電通入社。デジタル・コミュニケーションプランナーを経て、2016年から統合メディアプランナーとして従事。デジタルとマスメディア、双方の知見を生かしながら、広告主のサポートだけでなく、デジタルプラットフォーマーやラジオ放送局のコンサルティングなども担当。
「記憶に残るワンフレーズ」がオーディオアドの強み
――オーディオアドとは、そもそもどういった広告形態なのでしょうか。
北:音声を中心としたメディアに付随する広告のことを指します。最も身近なものだとラジオ放送の広告ですね。
川田:他にもコンビニで流れる店内放送もオーディオアドにあたります。
入澤:現代では、Spotifyやradikoといったデジタル媒体のオーディオアドも増えてきましたね。
――実は歴史が長い上に身の回りにある広告なんですね。他の広告形態と比較して、どのような特徴があるのでしょうか。
北:映像広告は商品の見た目や利用シーンを具体的に映像で描くことで、視覚イメージをもたせられるのが強みです。一方で、オーディオアドは表現方法が音声のみであることを活かし、商品名や短いフレーズ、音楽で心に強く印象づけることを得意としています。
川田:実際に、ビデオリサーチが実施したパネル調査では、「印象に残る」「商品・企業を覚えやすい」など「記憶に残る」効果が高い媒体としてラジオ広告が高い評価を得ています(※)。
――広告といえば看板やテレビCMの印象が強いですが、オーディオアドはどの程度浸透しているのでしょうか。
入澤:ビデオリサーチの広告統計のデータをもとに弊社が確認したところ、テレビCMを出稿した上位300社のうち、ラジオ出稿しているのは6割程度に留まっています。
北:例えば、Spotifyなどの音声メディアサービスが急速にユーザー数や広告活用クライアントが拡大している一方、自社のサブスクリプションに誘導する広告を耳にしたことがあるかもしれません。これは、音声メディアサービス内の広告枠がまだまだ大きな活用可能性を秘めていることを示しています。
オーディオアドはストレスが少ない広告
――オーディオアドの普及が映像広告ほど進まないのは、どういった要因があるのでしょうか。
北:制作コスト自体はそこまでかからないのですが、要する時間や工数は決して少なくないんですよね。ナレーターをキャスティングして、スタジオで録音し編集するという流れは、テレビCMの制作フローの撮影後のプロダクションプロセスと近いものがあります。それであれば、より幅広い人にリーチできる動画広告を優先する会社が多い、というのが実情です。
入澤:動画広告の場合、テレビCMがあればその映像を編集しなおしたりして、活用するケースも多いですが、音声広告は映像に比べて、情報量が少ないため、完成品のイメージがしづらいという点も課題でした。
川田:ただ、オーディオアドはこれからの時代、より私たちにとって身近で訴求力のある広告の一つになりうると思っているんです。
――というと?
北:ながら作業との相性がいいのが音声広告の特徴です。デジタルサービスは若い世代にもリーチしやすく、今までにない広告訴求ができるポテンシャルを秘めています。
入澤:例えば、運転中やトレーニング中といった特定の状況下に限定した広告を流すように設定できるようになっているデジタルサービスもあります。実はオーディオアドは最新技術との相性もいいのです。
川田:海外の企業はすでにオーディオアドの持つ可能性に気付いていて、活用も一般的になっています。
入澤:加えて、ビデオリサーチが実施したパネル調査では、他メディアに比べ、ラジオ広告はストレスが少ないという結果も出ていました(※)。広告疲れが起こっている現代において、音声広告の拡大は生活者にも企業にも恩恵が大きいと考えています。
生成AI×オーディオアドで、広告参入ハードルが低くなる
川田:可能性は大きいのに、先ほども話した通り多くの企業が音声広告にまだまだ参入していません。
北:どうしたら企業がオーディオアドに興味を持ってもらえるかを考えていたときに、たまたま、生成AIを活用した広告コピー生成ツールの『AICO2』の開発メンバーで試しにラジオ広告ができないか議論してみたんです。
川田:AICO2で出力したコピーをつなげて読めば、テレビのナレーションを作れるという確信は元々ありました。コピーライターの仕事は、キャッチコピーを書くだけでなく、文字を使って表現するものだったら全て当てはまります。ラジオの広告も、もちろんコピーライターの仕事です。いいキャッチコピーをつなぐと、いいナレーションになるというのは、ラジオ広告の作り方のひとつとして先輩から教わった方法でもあります。だから北から相談があった時も、できて当然だろうと。実際、オーディオアド用に特別なプロンプトを用意することもなく、出てきたキャッチコピーをつなげて原稿にできました。
入澤:そして、作成した文章を音声読み上げソフトなどを使って音声ファイルとすることで、1台のPC上で制作フローが完成できます。
北:もちろん、制作した音声をそのまま広告として使ってもいいのですが、例えば会社が契約しているタレントにナレーションしてもらう、といった進め方でも我々としては対応可能です。これまでクライアント様の手が回らなかった素材制作におけるボトルネックを解消するための取り組みなので。オーディオアドの完成品がイメージしやすくなる結果、提案もスムーズに進められるようになると考えています。
――AICO2を活用できれば、制作フローが一元化され、短時間で良質なコピーを生成できることで、 広告主にとってより有効な選択肢になりそうです。一方で、生活者目線ではAICO2を活用したオーディオアドでどういったメリットがあるのでしょうか。
北:そもそも、広告の目的は商品やサービスに興味を持ってもらうことです。そのためには、心に響く何かがないといけない。僕も若い頃に聴いていたラジオで流れたワンフレーズのCMが妙に耳に残っていた原体験があって、その感覚をもっと色々な人に感じてほしいという思いがあります。
川田:AICO2は印象に残る一言を考えるのが得意なので、ハッとさせられたり、真似したくなったりする広告を増やせるかもしれない。それを聴いた人が、音声だけでできるコミュニケーションの奥深さを再認識してくれればうれしいです。
入澤:現状、現状の統合メディアプラニングでも、テレビCMや動画広告を認知目的の媒体として活用し、ラジオ広告などは、既に知っている層に向けて、よりファンになってもらったり、理解を高めたりするために使う提案も多いです。
AICO2をうまく役立てることで、その前段階の「認知してもらう」フェーズでも更に提案が可能になると考えています。今までにないオーディオアドとブランドとの出会いを産むことが、AICO2なら実現できるかもしれません。
北:可処分時間が少なくなっている上、趣味嗜好も多様化している現代にオーディオアドはフィットしています。これからの広告業界の未来を切り開く可能性を持つと思っています。AICO2をきっかけに、新しいオーディオアドの形が生まれ、その価値がアップデートされる――今回の取り組みがその一助となれば嬉しいです。
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技術が革新し、広告のあり方が多様化した現代、昔からある形態の一つでもあるオーディオアドの価値が見直されている。AICO2を活用したオーディオアドの新しい取り組みは、その流れを加速させる新しい一手となるかもしれない。
取材・文/桑元康平(すいのこ) 撮影/干川修