【勝手にブック・コンシェルジュ】斎藤元彦元兵庫県知事に読んでほしい『見果てぬ王道』

斎藤さん、あなたが歩んできたのは「覇道」ではありませんか？

兵庫県議会で全会一致の不信任決議を受け、ようやく失職を選択し、出直し選挙に出馬すると表明した斎藤さん。わたしは、あなたが県知事時代に何もしなかったとは思いません。「県立大学の授業料無償化」「幹部職員の天下り規制」「公用車センチュリーの廃止」「知事報酬のカット」「兵庫県新庁舎建て替え事業を白紙に戻し130億円まで予算を削減」などなど。立候補時の公約をひとつでも多く達成すべく尽力したことに関しては、一定の評価があっていいと思います。

でも、一方で、パワハラや贈答品の「おねだり」、阪神・オリックス優勝パレードをめぐる不正などの疑惑を訴える文書の告発者探しをし、“犯人”と特定した局長を「嘘八百」と罵倒し、職を解き、自死に追いやりましたね。最近になっては、受付時間外に自身の運転免許更新手続きをしたことまで明らかにされてしまいました。

斎藤さん、あなたはたしかに有能かもしれない。改革の理想に燃えていたかもしれない。でも、人徳がなさすぎた。職員のことを自分の言うことは何でも聞く召使いのような存在だと思っていたんじゃないですか？　どんな改革も痛みを伴うのだから拙速に事を運ぶのではなく、いろんな意見に耳を傾けながら慎重に進めるべきところを「鶴の一声」で実現させてしまったのではないですか？　それは「覇道」でしょう。

覇者には力がありますから、表向きは全員従っているようにふるまいます。実際、あなたにはそう見えたかもしれませんが、それはあまりにも人間という生き物を知らなさすぎというものです。改革は「王道」でなされるべき。それでこそ後世にまで残る豊かな実と種を残す。わたしはそう思うのですが。

出直し選挙の結果がどうであれ、あなたが今後どのような形で治政と関わっていくにせよ、『見果てぬ王道』を読んで、自身の来し方を振り返り、「覇道」と「王道」について考えを深めていってほしいと願うばかりでございます。

文／豊崎由美（書評家）

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