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人財採用におけるブランディングを支援するコンサルティングチーム「採用ブランディングエキスパート」は、2024年・2025年の大学・大学院卒の就活生を対象に「Z世代就活生 まるわかり調査2024」(以下、本調査)を実施しました(リリースは、こちら)。
その結果と追加で実施したウェブ調査をもとに、都市企業(都市部に本社を置く企業)と地方企業(※)、それぞれに就職する学生について、入社の決め手を深掘りしながら、地方企業の人財獲得の活路を探ります。
※都市・地方:東京・名古屋・大阪圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県、京都府)を都市、それ以外の県を地方と定義。
渡邉 里奈さん
株式会社 電通
第2マーケティング局 コネクション・プランニング2部 統合マーケティング・プランナー
マーケティング・コミュニケーションを基軸とし、メディアプランニングを中心にプロモーション設計・KPI設定・効果検証・PDCAスキーム開発まで、幅広い業務を担当。電通「採用ブランディングエキスパート」にも参画。
都市企業への入社の決め手は、「給料の高さ」と「市場価値」
初めに、就職先エリアを尋ねた設問において、「地方企業に就職する」と回答したのは、都市大学に通う学生の5.6%、地方大学に通う学生の31.9%でした。地方企業に就職する割合は顕著に低くなっています。
この結果は、若年層の都市への流出を示唆しています。2024年1月に総務省が発表した「住民基本台帳人口移動報告」によると、転入超過となったのは、東京など7都府県のみで、特に東京一極集中は依然として続いています。その要因の一つとして、国土交通省が発表した「東京一極集中の是正方策について」では、修学・就職などのために10代後半、20代の若者が東京に流入することが挙げられています。
次に、都市企業と地方企業それぞれの入社の決め手を見てみましょう。どちらも決め手には、「業績安定性」「夢ややりたいことに近い業界」「知名度」が挙がっています。これらは、都市企業、地方企業問わず、就職において学生たちが重視している要素であることが分かります。
一方で、都市企業、地方企業それぞれの入社の決め手の差分を見たときに、都市企業の入社の決め手として高い項目を見てみましょう。
全就活生が共通して重要視する観点もあれば、給与面や市場価値といった都市企業に就職する学生ならではの重視する観点もあるようです。両者の差分が最も大きいのは、「給料が良い」(25.7%)で、都市企業に就職する学生の重要な決め手になっています。その他、「社員がハイレベルで刺激を受けられる」「転職で有利になる」など、地方企業に就職する学生よりも自身の市場価値の向上やスキルアップにつながるといった観点で企業を選んでいることが分かります。
地方企業への入社のネックになる3つの要素
学生は、地方企業への就職をどのように捉えているのか?学生への追加ウェブ調査(※)の結果を踏まえながら考察します。
※ 調査対象:全国の大学生/大学院生、調査人数:計316人(地方就職を検討していたが都市企業に就職する学生=147人、地方就職は検討せずに都市企業に就職する学生=169人、対象者条件:キャリア支援NPO法人「エンカレッジ」登録の2024年または25年卒業予定大学生・大学院生。パネルの母体は本調査同様ですが、新たに招集してご回答いただいたため、回答者は同一とは限りません。調査時期:2024年7月19日~7月22日
「地方企業への就職も選択肢に入れていたが、都市企業に就職する」と回答した学生の見解を紹介します。地方企業への就職を選択肢に入れていた理由を尋ねたところ、「人が少なく、静かで落ち着く」「生活費や家賃が安い」を挙げた学生がほぼ同率トップでした。他にも、「やりたい仕事ができそうで魅力的」「自然が豊かでアウトドアやアクティビティを楽しみやすい」が上位の結果になりました。
しかし、結果的に地方企業への入社を選ばなかった理由を尋ねたところ、「生活の利便性が都市の方がいい」が35.4%と群を抜いて高い結果になりました。他には、「都市企業の方が将来的にも安泰だと感じた」「恋人や親しい友人と離れたくなかった」「都市企業の方が娯楽やカルチャーが充実していると思った」が上位という結果になりました。これらの項目の多くは、「地方企業への就職は最初から検討に入れずに、都市企業に就職する学生」の回答にも見られます。
ここまでの調査結果を見ると、「静かで落ち着く」「自然が豊か」といった地方ならではの資源に魅力を感じ、地方企業への就職を視野に入れている学生が多いことは印象的です。しかし、その先の検討段階で、「生活の利便性」「給与」「娯楽やカルチャーの充実度」がネックとなり、地方企業は最終的に入社先候補から外される傾向にあるようです。単に地方の魅力を若者に伝えるだけでは、地方企業の採用における課題解決には結びつかないでしょう。
コミュニケーションの工夫が、採用活動見直しの第一歩
地方企業への就職の大きなネックになっている「生活の利便性」については、解決策の一つとして、利便性の高いエリアに住みながら地方企業で働くことができる柔軟な勤務形態の導入が考えられます。しかし、本調査で「希望する入社後の働き方」を聴取したところ、都市企業に就職する就活生の多く(65.6%)が、「出社中心」の働き方を希望していることが分かりました。リモートワークの導入が、地方企業への就職の大きな決め手にならない可能性があることも頭に入れておくべきです。
「給料の高さ」については、景気後退の波を受けた学生のシビアな将来設計の一端がうかがえます。地方企業に就職するメリットとして「生活費や家賃が安い」ことを挙げる学生は多いものの、それでも都市企業を選ぶ理由として、「生活コストが安いことよりも、賃金というベネフィットが少ないこと」の方が、心理に作用する様子が見受けられます。とはいうものの、先行投資としてノーリスクで賃上げの判断を行うことは容易ではないでしょう。地方企業への就職のネックとなっている「娯楽やカルチャーの充実度」も、同様に解決のハードルが高い要素です。
このように解決しづらい要因がある一方、コミュニケーションを工夫することで、地方企業への学生の流入を増やせる可能性もあります。前述した、都市企業と地方企業で差分の大きい入社の決め手を再掲します。
「給与」については、一朝一夕には解決しづらい面があります。しかし、その他の上位項目にある「社員のレベルの高さ」「仕事や課題解決の幅の広さ」「自分の能力・専門性を生かせる」などのポイントをより訴求することで、すでに地方企業の魅力として認識されているポイントに加えて新たな魅力として就活生に印象的に映ると、入社の後押しにつながるのではないでしょうか。
特に、「仕事や課題解決の幅の広さ」「自分の能力・専門性を生かせる」という点については、自治体の農業土木職に就いた筆者の知人は、入社先を選んだ決め手について「大学OBによる説明会において、実際に大学での知識や経験が生かされた場面を聞いたり、職務内容を自主的に調べたりしていく中で、過去に研究や大学の授業で触れた内容を見かけたとき」であると話していました。その他にも、もともと観光や宿泊業に関心があり、先に就職した友人の誘いで離島の地域振興NPOへの就職を決めた知人もいます。
なるべく地方や自社だからこそできることを定義し、それに対して就活生自身の大学時代の経験や専攻・強みがどのように生かせるか解像度高く訴求することで、活躍のイメージが膨らみ、入社の決め手につながるのではないでしょうか。
そのためには、メッセージ開発に加え、就活生との接点の持ち方を工夫することも重要です。採用ブランディングエキスパートでは、就活生が企業を知ってから入社先決定に至るまで、各フェーズで影響を受けた人やイベントなどをまとめた「就活ジャーニー」を紹介しています。
都市企業に就職する学生に、就活の各フェーズで影響を受けた人やイベントについて聞いたところ、企業の認知、理解、エントリーまでは「説明会やインターンシップ」「身近な人との会話」が上位を占めています。そして、入社先決定の段階では、「親・家族・親戚」がトップになっており、企業との直接の関わりや周囲の評判など、自分が見聞きするリアルに強く影響を受けていることが推察されます。
※認知~エントリーは「(入社先決定有無を問わず)就職活動中・就職活動終了者」双方に聴取、入社先決定は「入社先決定かつ就職活動終了者」のみに聴取
特に、地方大学出身の知人にヒアリングした際、地方大学の学生ほど就職活動の情報源が限られ、上記の傾向がより強く出やすいと感じました。地方では中長期のインターン先が圧倒的に少なく、長期インターン先として学生を囲い込み、そのまま即戦力としてリクルーティングに成功している地方ベンチャー企業が印象に残っているというエピソードを聞くことができました。就活生との接点を、より早期から濃密に構築していくことは採用における大きなアドバンテージになりそうです。
また、「とある地方企業に入社を決めた人は、ゼミの教授のお墨付きが入社先決定の要因だったらしい」「コロナ禍のときに新卒の内定を取り消したと話題になり、敬遠されるようになった地元企業があった」との話もありました。採用ターゲットを幅広く捉えずに、あえて絞って採用注力大学を設定し、ゼミや先輩経由で当該大学内での認知を集中的に形成していく戦略も、地方大学の学生を採用するうえで効果的ではないでしょうか。
電通の採用ブランディングエキスパートは、地方企業への就職の決め手になりうるメッセージ・コンタクトポイント開発を進めるとともに、各地域の電通グループとのネットワークも生かして、地方企業の採用活動を精力的にサポートしていきます。
就活生基点で考える、新しい採用のあり方
電通では、2024年2月にZ世代の採用を対象としたコンサルティングチーム 「採用ブランディングエキスパート」を発足しました。マーケティングメソッドを活用した電通オリジナルの考え方である「就活ジャーニーマップ」や、自社の強み・競合との差別化・就活生への寄り添いを同時に達成する「3Cフレーム」など、独自メソッドによって企業の採用ブランディングを支援しています。多様な価値観を持つZ世代に対する有効な採用活動を検討する際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
電通 採用ブランディングエキスパート 事務局(西井、岩邊)
Email:recruit-branding-expert@dentsu.co.jp
【「Z世代就活生まるわかり調査2024」概要】
・目的:Z世代の就活に関する意識やトレンドを確認する
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:キャリア支援NPO法人「エンカレッジ」登録の2024年または2025年卒業予定大学生・大学院生
・有効回答数:818人
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2024年2月9日~2月15日
・調査機関:株式会社RECCOO(リクー)
・都市・地方:東京・名古屋・大阪圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県、京都府)を都市、それ以外の道県を地方と定義
※こちらの記事はウェブ電通報からの転載記事になります