かき揚げも単品の天ぷらも1つの生地でつくれるようにする
開発当初に営業から挙がった意見の1つが、「短い時間でできるようにしてほしい」であった。現在販売されているものは6分程度焼くとできるが、開発スタート時は焼き時間を20分で想定。しかしコロナ禍で時短、簡便というニーズが顕在化したことから、完成までの時間を短縮することにした。
調理時間を短縮するに当たってはつくり方も見直した。現在と大きく異なるのは具材のカット方法。現在は単品の天ぷらをつくるのと同じ要領でカットするが、開発スタート時は火の通りを良くするために冷凍のミックスベジタブルのように細かくカットしてもらう想定でいた。しかし面倒で簡便とはほど遠いものだったことから、普通にスライスすることにした。
ミックスベジタブルのように細かく切ってもらうことを想定していたのは、かき揚げをメインに考えていたこともあった。だが、かき揚げだけではなく単品の天ぷらもつくれることが要望された。
かき揚げと単品の天ぷらの両方をつくれるようにするのは、簡単ではなかった。かき揚げは焼いている間に生地が下にたまってきてしまうが、下にたまらないように生地の粘度を上げると単品の天ぷらでは衣がつきすぎてしまう。かき揚げでも単品の天ぷらでも衣のつき具合が適度になる配合が求められた。
ヒットにつながったSNSのバズり
「前例のない商品でしたので、完成するまで行ったり来たりを繰り返しました。自分としては納得いかないところも多々あったのですが、実際にグループ会社含めた社員に使ってもらうことを3回ほど実施したらだんだんいい評価をもらうことができたので、商品が良くなってきていることは実感できました」
開発全体をこう振り返る水島さんだが、受け入れてもらえるかどうかの不安はなかなか拭えなかった。自信を持って発売したとはいえ内心はヒヤヒヤ。発売直後は少しでも売れることを祈っていた。
そんな不安は取り越し苦労でしかなかった。メディアやSNSで取り上げられたことがきっかけで、発売直後から好調に売れ続けていったからだ。とくにSNSでは商品に関する投稿が相次ぎ、商品の認知が急速に拡大した。
同社ではとくに目立った販促は行なっていないが、井村さんによればヒットするきっかけの1つになったXへのユーザーの投稿がある。その投稿は「キャンプめしに使えるじゃん」。バズったことでメディアでも取り上げられ、天ぷら粉を買ったことがない若年層に広まっていった。
キャンプめしでの活用は水島さんにとって想定外のこと。「少ない油でつくれるのでホットプレートで焼くケースは想定していましたが、キャンプでも使えることについてはSNSの投稿で気づかされました」と振り返る。
少量の油で焼いてつくるのでホットプレートでの調理も可能。食卓でつくったできたてを食べることができる
カニバリは起きず
購買層の特徴は、天ぷら粉を使ったことがない人も購入していること。既存の天ぷら粉の売上が落ちていないという。「もともと販売している天ぷら粉とのカニバリ(自社商品が他の自社商品の売上を侵食すること。カニバリゼーション[共食い]の略)が起きることなく売れています」と井村さん。カニバリの懸念はまったくなかったわけではなかったが、結果的に天ぷら粉を買ったことのない人に注目され新たな天ぷら粉ユーザーを獲得することになった。
また、他の天ぷら粉と違い野菜売場に置いてもらえるケースが増えている。通常の天ぷら粉は野菜売場に置いてもらえることが少ないが、初めて天ぷらをつくる初心者に手に取ってもらいやすいことから野菜売場に置いてもらえるケースが増えつつある。
取材からわかった『もう揚げない!!焼き天ぷらの素』のヒット要因3
1.簡便性向上による不満解消
大さじ3杯程度の油で2~3人前の天ぷらができ、後片付けはキッチンペーパーで拭き取るだけ。天ぷらづくりを簡便にしたことで天ぷらづくりの不満を解消することができた。
2.再現度が高い
少量の油で焼いてつくる天ぷらながら揚げてつくる本来の天ぷら同様、衣がサクサクした仕上がりになる。特徴をよく捉えており、揚げたて同様のものができる。
3.天ぷらづくりのハードルを下げた
天ぷらのような揚げ物は普段料理をつくらない人や料理初心者にはハードルが高い。しかし大さじ3杯程度の油で焼いてつくるので、誰でも簡単につくれる。ホットプレートでつくれたりキャンプめしづくりにも使えたりするほど、天ぷらづくりのハードルを下げた。
ヒットの勢いを持続させるためにも同社はプロモーションを強化したい考え。影響力の大きさを実感したSNSも積極的に活用するほか、井村さん個人は体験を通して良さを実感してもらうイベントを実施したいという。
なお、SNSでは山菜を使った焼き天ぷらがよく紹介されているが、水島さんがオススメする具材はピーマンやさつまいも。焼くためか、甘みが増した味わいになるそうだ。使う油が少ないので普段は油が汚れて試しにくいチーズやバナナといったものもトライしやすいという。
製品情報
https://www.showa-sangyo.co.jp/products/list/items.html?pdid1=17
文/大沢裕司