かつてクロモジの名産地だった下田。この地でものづくりの狼煙を上げる
渡邉:先生が間伐を進めていくと、植林されたスギやヒノキに覆われていた山に木漏れ日が差すようになりました。そこに低木の落葉樹が生え始めた。その一部がクロモジの木だったそうです。クロモジの持つ抗菌作用は、ヒノキをはじめとした他の樹木の健全な成長も助けます。強い樹木が育てば土壌も良くなる。ソウルスト土が貯めた豊富なミネラルなどの栄養分が川から海へと流れてくるようになり、海の豊さも戻ってきます。この話を聞いて、こんなチャンスはないと思いました。
MICHIRU:ウカさんのビジネスとしてのチャンスが下田の山にあったということですか?
渡邉:そう、美容メーカーとして画期的なことができると思ったんです。僕たちが下田のクロモジを使用することでクロモジの必要性が増せば、それだけ山がきれいになり、海が豊かになる可能性を高められるじゃないですか。安定的に下田のクロモジを生産し、購入するサイクルを構築できたら、お客様の頭皮と毛髪が良くなるだけでなく地球の回復にもつながっていく。これは僕がやるしかない、そう思いました。
MICHIRU:日本固有のクロモジは日本固有の植物ですよね。特に新商品に配合されている精油は希少性も高く、安定的な生産が難しいのかと思っていました。
渡邉:調べていくと下田は植林が始まる以前、明治時代の頃はクロモジの宝庫だったことがわかりました。当時は蒸留所が7つもあり、フランスに和香水として輸出していたこともあったそうです。クロモジの量産化に向けて、採取を持続可能なものにするためのルールづくりや、行政との話も進めているところです。
また蒸留所も立ち上げました。植林活動から脱却し、次のステージに行くために。ゆくゆくは県の特産品に、そして世界に向けて日本の原料として出していけたらと考えています。モロッコのアルガンオイルのような立ち位置にすることも夢ではありません。この活動はものづくりの一つの狼煙になれると感じています。
次回、中編では、クロモジ以外のこだわりの成分と、シリーズ名でもある「リジェネラティブ グッド」に込めた思いを伺っていく。
<プロフィール>
渡邉弘幸(わたなべ・ひろゆき)
ウカ代表取締役CEO/大学卒業後、博報堂に入社。2009年、夫人でありネイリストとして活躍する渡邉季穂(わたなべ・きほ)の祖父が創業した向原(現・ウカ)に取締役副社長として入社。美容室「エクセル」から「ウカ」へのリブランディングのほか、教育機関「ウカデミー」、オリジナルプロダクトの開発、「ウカフェ」の立ち上げなどに携わる。
MICHIRU(みちる)
メイクアップアーティスト・ビューティーディレクター/渡仏、渡米を経て、国内外のファッション誌や広告、ファッションショーやメイクアイテムのディレクション、女優やアーティストのメイクなどを数多く手がける。また体の内側からきれいになれるインナービューティを提唱するなど幅広く活躍中。本連載ではナビゲーターを務める。
取材・構成/福田真木子 撮影/黒石あみ