自覚が少ない睡眠負債
枝川教授は睡眠不足が重なって起きる、睡眠時間の借金のような状態を『睡眠負債』であるとして、注意を促している。睡眠負債は自覚している人が少なく、健康な人でも、睡眠負債はたまってしまい、日常的に負債が習慣になっている可能性があると指摘している。
「前の日に徹夜したり、睡眠不足だと自覚した多くの人は、次の日は早く帰って寝ようと考えますが、睡眠負債は本人の自覚がないので、どんどん積み重なってしまいます。
その結果、物忘れが多くなったり、集中力の低下、判断力の低下、応答時間の延長、単純ミスが多くなる、怒りっぽくなる、刹那的になるといった症状が現れるようになります。刹那的になるというのは、例えばスマホで記事を読んだら、読み続けて止められなかったり、ゲームをしていても終わりにできなかったり、いちどネットサーフィンをしたらやめられない、といった状態です。
こうした状態が続くと血圧が高めになり、風邪をひきやすくなったり、高血圧症になります。免疫力が低下することで、ガンなどの重篤な病気に繋がる可能性が高くなり、肥満に繋がる人もいます」と健康に大きなダメージを与えると警告してくれた。
快適な快眠を実現できる6つのヒント
では具体的に睡眠負債を防ぐために、また、質の高い睡眠をとるためにどうすればよいのだろう。イケアでは「いい明日は、いい寝心地から」をテーマに、SLEEP CAMPを開催し、実際の店舗で一夜を過ごすお泊りイベントなどを実施した。今回は枝川教授の解説と共に、イケアが提案する6つのよい眠りのヒントを紹介しよう。
2025年度のイケアのテーマは「眠り」と言うイケア・ジャパンのニコラス・ジョンソンさんはパジャマ姿で登壇。
(1)心地よさ
「睡眠では、実は寝ている時の姿勢が重要です。立っている状態のそのままの姿で寝ているのが、人にとって自然な姿です」(枝川教授)。立っている姿が実現するようなマットレスや枕の利用を奨励していた。
(2)光
「人は明るいと活動しなきゃいけないと、脳が覚醒してしまいます。眠ろうとしたら、できるだけ照度は下げた方が良いでしょう」(枝川教授)。寝室では間接照明を利用するなど、直接、光を目に入れない工夫をしたい。
(3)温度
真夏の寝苦しさを体験した今だからこそ納得できる、睡眠と温度の重要性。最近の研究ではうつ病の人は夜の深部体温が高いことが明らかになっている。枝川教授によると、寝ている時の温度と同時に、布団の中の温度も重要とのこと。
(4)音
「実は人は寝ていても、音は聞こえています。よく、テレビをつけっぱなしで寝てしまう人がいますが、質の良い眠りにすることができません」(枝川教授)。睡眠中の騒音は、日中に働くはずの交感神経を刺激してしまうため、睡眠障害となって健康に影響を与えてしまう。
(5)空気の質
意外と見落とされがちな空気の質が、睡眠に大きく影響している。「匂いや、部屋の乾燥状態も眠りの質に大きく関わります。寝ている間も嗅覚は働いているので、ラベンダーなどの副交感神経の活動を活発化させるアロマなどは、より深い眠りを実現させることが可能です」(枝川教授)。
(6)ホームファニッシング・整理整頓
「眠る環境を整えることが大切です」(枝川教授)。安心・安全に眠ることができる環境をつくることで、リラックスして眠りに就くことができると言う。整理整頓された寝室になっているか、もう一度、寝室の状態を見直してみたい。
イベント会場となったイケア新三郷が店舗で提案している「よい眠り」のための寝室インテリア事例のひとつ
イケアではこの「6つの眠りのヒント」に関連する商品の提案を行っている。「いい明日は、いい寝心地から」をテーマにしたSLEEP CAMPでは、実際の店舗で一夜を過ごすお泊りイベントも実施。参加者が実際にこれらの商品を体感し、「家より眠れた」といった声があがっていた。
また、世界で活躍するアスリートにとっての睡眠の重要性と良質な睡眠について、体操の萱和磨選手とプロフリークライマー野口啓代さんが、枝川教授と語り合った。
「健康の三本柱は食事、運動、睡眠と言われています。食事と運動はすぐに思いつきますが、睡眠は忘れられがち。そして、睡眠はコントロールし難いものでもあります。イケアが提案する6つの眠りの要素を整えることで、より良い睡眠が可能になるでしょう」と教えてくれた。
文/柿川鮎子