サザンオールスターズやBABYMETAL、NOAなどの人気アーティストが所属する、大手音楽事務所アミューズの業績が急回復しています。
今期の売上高に当たる売上収益は、コロナ前の2020年3月期を上回る見通し。ライブイベントが活発になりました。ただし、課題が多いのも事実。アミューズはコミックなどのオリジナルコンテンツでヒット作を世に送り出し、音楽以外の事業展開を急いでいます。
世界的なアーティストに育て上げて海外売上は3倍に
2024年3月期の売上収益は前期比4.4%増の548億円でした。2020年3月期は588億円。イベント自粛に追い込まれた2021年3月期の売上収益は400億円を下回りましたが、コロナ前と同等の水準にまですでに戻しています。
2025年3月期の売上収益は600億円を予想。第1四半期の売上収益は前年同期間の1.8倍となる176億円で、予想に対する進捗率は29.1%。好調なスタートを切りました。
※決算短信より筆者作成
第一四半期はSEKAI NO OWARIや福山雅治、BEGIN、BABYMETAL、桑田佳祐、Perfumeなどの主力アーティストのイベント収入が、増収に寄与しました。
BABYMETALは2023年から2024年にかけて最大規模のワールドツアー「BABYMETAL WORLD TOUR 2023-2024」を開催。日本を含む25か国を巡っています。
アミューズは海外展開にも積極的で、2024年3月期の海外関連事業の売上高は、前期の3倍となる38億5900万円でした。Perfumeやアニメ楽曲で親しまれているFLOWなど、海外でも渡り歩けるアーティストを輩出しています。
新人アーティストの発掘にも余念がありません。
4人組のロックバンド、神はサイコロを振らないは、SNSでじわじわと人気を獲得。ドラマ「愛しい嘘~優しい闇~」の劇中歌に起用された「夜永唄」は、LINE MUSIC邦楽ロックチャートにおいて5位を獲得。Official髭男dism、Mrs. GREEN APPLE、King Gnuなどの人気ロックバンドと肩を並べました。
NOAはアジアツアー、アリーナ公演などのビッグイベントをこなし、今年は全国ツアーが予定されています。
コロナ禍がもたらしたライブチケットの高騰
ただし、順風満帆かといえば、そうでもありません。利益率が高まらないのです。2024年3月期の営業利益率は2.5%。2025年3月期第1四半期は5.0%まで高まったものの、通期では2.8%を予想しています。2019年3月期は8.1%、2020年3月期も8.8%ありました。
2024年3月期におけるイベント関連事業は、1億3500万円の損失を出しています。2025年3月期は3億7200万円のセグメント利益を出していますが、営業原価は増加しています。
これはアミューズに限らず音楽業界全般に言えることですが、ライブなどのイベント設営費や運営費が嵩んでいるのです。
エネルギー高の影響で電気代は高騰。コロナ禍でイベントが軒並み中止に追い込まれたことによって、設営や音響、照明などのライブに必要不可欠な人材が大量に離反したため、人件費も上がっています。
チケット代の値上がりが続いていますが、ミュージシャンとファンの両方にとってライブ活動は必要不可欠。観客動員数に影響するほどの価格改定を行うわけにもいきません。値上げにも限界があるのです。
特にアミューズのように上場している音楽事務所の場合、事業規模を拡大して利益を出し続け、株主に還元することが運命づけられています。
アミューズは2028年3月期を最終年度とする中期経営計画において、利益率の向上をビジョンに掲げています。従来のようにライブイベントに依存した事業展開から脱し、新たな方向性を見出さなければなりません。その一つとして注力しているのが、オリジナルコンテンツの創造なのです。