長年、TBSラジオの昼を彩るラジオパーソナリティでコラムニストのジェーン・スーさんとフリーアナウンサーの堀井美香さんを魅了した若手農家をご存知だろうか?
和歌山県の30代若手果樹農家2人組が深夜ラジオのノリで農家のホンネを語りまくるポッドキャスト番組「よるののうか」が話題だ。
パーソナリティを務めるのが、桃や温州みかんをこだわりの肥料で栽培する1991年生まれの山本康平さんと、温州みかん、さつき八朔などを自家製の堆肥で育て上げる1987年生まれの伊藤貴章さん。
第5回JAPAN PODCAST AWARDSにもノミネート!
素人とは思えない軽快なトークと農業を知らなくても楽しめる企画は一躍話題になり、「第5回JAPAN PODCAST AWARDS」では「コメディ・お笑い部門」にノミネートされたほど。
”農家による農家のための農業系ラジオ”と言われるものの、ラジオ好きな筆者にとっては農業の枠をはみ出すほどのエンタメ要素とAMラジオに漂う、いい意味で雑でやりたい放題のトークバラエティと感じた。一言で言えば「フツーにおもしろい」のだ。
なぜ、地方の若手農家が突然ポッドキャストを始めたのか?今回、パーソナリティを務める山本さんと「永遠の準レギュラー」伊藤さんを直撃。若手農家のホンネ、日本の農業のホントのところを伺った。
――ポッドキャストを始めたきっかけを教えてください
山本さん
「始めようと思ったのは私です。きっかけは、『糖度30度超の最高の桃ができたのに世界が何も変わらなかったから』なんです」
――そうでしたか…(なんか切ない)
山本さん
「もともと自分が果樹栽培をしている地域が特定のブランドも無く、少し下に見られている雰囲気がありました。それを払拭しようと糖度という絶対的な指標で、せめて県下ではどこにも負けないものを育てようと思い、育てたのが『糖度30度超の桃』だったんです」
一般的な桃の糖度は約11度と言われている。30度超はまさに脅威。数字からも甘みが伝わるほどの革命だったはず…
山本さん
「なのに、何も変わらなかった笑。商売繁盛になるかと思ったらそうでもない。ただ甘い桃が出来ただけ。ならば、自ら動いて発信し、果物の魅力を伝えなければならないと思い、大好きだったポッドキャストをやろうと思ったんです」
「配信は2019年秋に始めたんですが、それまで音声メディアの知識が全くなかったので、福岡県で先に取り組んでいた農家さんの元で研修させていただきました。その頃に考えていた番組の方向より、今はかなりぶっ飛んだものになってしまいましたけどね笑」
若手農家が作るポッドキャスト番組の裏側とは?
番組スタートから早や5年。ポッドキャスト総合ランキングでも度々上位にランクインするほどの人気を誇る「よるののうか」。
最近の配信タイトルを見ると、「農薬ゆるキャラアワード」、「トラクターの盗まれ事情」、「除草剤の豆知識で打順組んでみた」…とぶっ飛び度合いも上り調子のご様子だが、一体どのようにして番組は作られているのか?
山本さん
「収録場所はだいたい私の農園の農業用倉庫の中です。日中は仕事があるので、いつも夜の収録で企画はほぼ100%私が考えています」
――伊藤さんは…?
伊藤さん
「ぼくはほとんど制作に携わっていないですし、内容もその場で知らされることが多いです。現場に着いたらすぐに収録スタート。でも、何か企画を考えろと言われるとそこまで責任が持てなくなると思うので、これでいいのかなと笑」
――企画を考えるのも大変ですよね?
山本さん
「そもそも番組初期は自分がしゃべりたい農業の話をしていたのですが、今では世間の農家が、『そこをつくか!』と思ってもらえそうな企画且つ、農家ではない『一般の方でも楽しめる』ラインのものを意識して企画化しています」
「ネタ出しは毎回しんどいですが、案外いろんなところに企画案は転がっているんですよね。たとえば農作業をしている際に「草刈りで一本できないか?」と思ったり、バラエティ番組や漫才を見ていて「このテーマは農業に変換できないか?」と思ったり。本や会話の中にヒントがあることもあります」
「あと、『伊藤さんが楽しいか』の視点もありますね。世間的には有意義なものと思っても、伊藤さんがノッていないとその回はボツです笑。その「面白そう」という視点は私と伊藤さんは似ているのでかなり助かっています」
伊藤さん
「ありがとうございます笑。ぼく自身は自分が楽しむことが一番、そこはマストだと思っています。一般の方も楽しめるように専門用語や背景が分かりにくいと思ったときは説明するようにしています」
ここで山本さんの企画術・発想術の一つを教えていただいた。
題して…
【よるののうかのつくりかた】
山本さん
「以前、『農家の使う道具』に焦点を当てて一本録りたいと思っていました。しかし、農家といっても果樹農家や野菜農家、さらに品目、品種それぞれに使う道具が異なり、多くの農家にとっての「そこをつくか!」を生み出すのが難しかったんです」
「そこで発想を変え、農家が農業関連業者から無料でもらえる『農業粗品』に焦点を当てました。粗品は各農家の農具として最大公約数に当てはめやすく、また多くの農家から共感を得やすい題材です。さらにその農業粗品に対し、農家がありがたさ目線で「点数化」する、というのを加えると「一般の方でも楽しめる」が満たしやすいと思いました。「農家はそういう価値観で農具をみているんだ」という観点は一般の方にとって新鮮だと思いますし、農業関連業者の思う粗品戦略と農家の価値観のズレもでてきたりして、面白くなると思ったんですよね」