映画のヒットで「スーパーマリオ」関連のソフトは販売数が1.4倍に
資料館のオープンは、任天堂にとっても重要な意味を持ちます。会社は現在、基本戦略に「任天堂IPに触れる人口の拡大」を掲げています。これは、主力となるゲーム機とソフトはもちろん、映像や物販、テーマパークなどへと影響力を拡大。IPを通してユーザーとのタッチポイントを広げる取り組みです。
任天堂の最大弱点として、ゲーム機のライフサイクルに業績が連動してしまうことが挙げられます。2017年3月に発売したNintendo Switchが大ヒットする前の任天堂は、3期連続の営業赤字に陥っていました。2025年3月期は2割の減収、営業減益を予想しています。これもNintendo Switchが広く行き渡って製品ライフサイクルの終盤を迎えているため。後継機の発売を控えていますが、どうしても業績の山と谷を形成してしまうという課題がありました。ゲーム機を取り扱う会社の宿命とも呼べるものでしょう。
そこで、任天堂はIPをゲーム以外に拡大し、製品ライフサイクルを長期化させ、長期的に安定した成長を目指しているのです。
製品サイクルの長期化という視点で大成功したのが、映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」。この映画は全世界の興行収入が1900億円を突破する大ヒットを記録しています。しかし、2024年3月期の映像コンテンツ収入などを含む、モバイル・IP関連収入は前期の1.8倍に拡大したものの、927億円で売上全体の5.5%を占めているに過ぎません。
任天堂は映画に出資をしていますが、大ヒットしたことによる業績へのインパクトは決して大きいものではありませんでした。
しかし、映画が公開された後の、4-9月の「スーパーマリオ」関連のゲーム5タイトルの販売本数は前年同期間の1.3倍に拡大。モバイルゲームのユニークユーザー数も1.4倍に増加しました。ゲーム以外で任天堂IPに触れることにより、影響力を拡大する効果が数字に跳ね返ったのです。
立て続けに映画とテーマパークを世に送り出す
任天堂は実写映画「ゼルダの伝説」の公開を控えています。
このシリーズは2023年5月に発売した「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」が193万本を販売して、2023年のソフトランキングトップに立ちました。世界的に支持されるIPに育った中での映画公開が決まったのです。
また、スーパーマリオの新たなアニメ映画も制作中。2026年4月の公開が決定しました。
2024年後半にはユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「スーパー・ニンテンドー・ワールド」の拡張エリアである「ドンキーコング・カントリー」もオープンします。
2025年にはアメリカ・フロリダ州のユニバーサル・オーランド・リゾートで、アメリカで2つ目となるテーマパーク「スーパー・ニンテンドー・ワールド」の新規開業も控えています。
任天堂は今や総合エンタメ企業となりました。新たにオープンする「ニンテンドーミュージアム」も、国内外の観光客に対してIPのタッチポイントを増やす取り組みの一つだと捉えると、その狙いが見えてきます。
文/不破聡