4.円安・円高の影響を受ける企業の業績の仕組み
ここで、円安と円高がどのように企業業績に影響を与えるかを具体的なデータで見ていきましょう。まず、円安時に恩恵を受ける企業の一例として、トヨタ自動車の海外販売比率が約85%に達しており、円安の影響を大きく受ける企業の代表的なケースです。
例えばトヨタの場合、円安が1円進むと営業利益は500億円上振れすると言われます。
またソニーグループの場合、円安が急激に進行すると、特に北米市場での売上が円換算で増加するので、ドルベースでの売上が円安の影響で高く評価されます。
一方、円高時に恩恵を受ける企業の一例として、ニトリホールディングスを見てみましょう。
ニトリは多くの家具やインテリア製品を中国などのアジア諸国から輸入しています。円高が進行した年には、輸入コストが大幅に減少し、利益率が向上します。
また、セリアもニトリと同じような仕組みです。セリアは100円ショップを運営しており、多くの商品を海外から輸入しています。円高が進行することで、輸入コストが削減され、結果的に販売価格を据え置いたまま利益率を向上させることができるのです。
5.円安・円高局面における投資家の投資戦略
ここまで見てきたように、円安・円高が企業の業績に与える影響は非常に大きく、これをうまく利用することが投資家にとっての投資戦略の鍵となります。
円安が進行する局面では、輸出比率が高く、海外市場に依存している企業を中心にポートフォリオを構築することが有効です。例えば、自動車メーカーやエレクトロニクスメーカー、大手海運会社などが円安局面での有望な投資先となります。
一方で、円高が進行する局面では、輸入比率が高い企業や国内市場に依存している企業を選ぶことが推奨できるでしょう。具体的には、家具メーカーや小売業者、100円ショップの運営企業などが挙げられます。また、円高によるコスト削減効果を最大限に享受できる企業を選ぶことで、リスクを最小限に抑えつつ、安定したリターンを得ることができます。
とはいえ、急激な円安や円高にほとんどの人は適切な対応を取ることは困難です。
つまり、投資をしている限り、急な暴落は避けて通れないのです。
だからこそ、事前にどのような局面でも冷静でいられるように、円高・円安の恩恵を受けやすい銘柄を分散させることが重要です。
加えて、為替リスクをヘッジするための手段として、金などのコモディティ投資も検討すべきでしょう。これにより、為替変動によるリスクを分散させ、ポートフォリオ全体の安定性を高めることが可能となるのです。
6.為替動向は専門家でも予測が難しい
為替市場の動向は、多くの要因が複雑に絡み合うため、専門家であっても予測が非常に難しく、筆者自身の経験上、正確に予測し続けることはほぼ不可能です。
なぜなら、中央銀行の金融政策、地政学的リスク、国際貿易の動向など、様々な不測の要素が為替レートに影響を与え続けるからです。
特に最近では、コロナウイルスのパンデミックや世界的なサプライチェーンの混乱、さらにはウクライナ危機など、予測が困難な事象が頻発しており、これが為替市場の変動を一層難しくしています。
実際に、多くの投資家や企業は、こうした不確実性に対してどのように対応するかを常に模索しています。いいかえれば、予測できないからこそ、不測の事態に対応する準備を事前にしているのです。
おわりに
今回は、円安・円高が企業に与える影響について解説させて頂きました。
為替レートの変動は、企業の業績に直結するため、投資家にとって非常に重要な要素です。
円安・円高のメカニズムを理解し、それぞれの局面で恩恵を受ける企業を見極めることができれば、より柔軟な投資戦略を考えることにつながるはずです。
文/鈴木林太郎