停滞期を脱するきっかけとなった500円ランチ
マクドナルドの2023年12月末時点の店舗数は2982。全店売上高は7777億円で、1店舗当たり2億6000万円の売上がある計算です。
ケンタッキーは2024年3月末時点の店舗数が1232、全店売上高は1760億円でした。1店舗当たりの売上高は1億4000万円。
マクドナルドの店舗数はケンタッキーの2.4倍、1店舗当たりの売上高はおよそ1.9倍もの差が生じています。
※資料:ケンタッキーはチェーン売上高をもとに計算しています。
この違いはケンタッキーが歩んできた道のりと、競争優位性が大いに関係しているでしょう。
ケンタッキーは一時業績が停滞していました。クリスマスや誕生日などハレの日需要に対応する食べ物としてのフライドチキン。その枠組みから脱却しきることができず、利用シーンが限られていたことが主要因でした。
そこで500円ランチを投入。ファストフード要素を強く押し出したことと、コロナ禍によるテイクアウト需要の急増が重なり、V字回復を成し遂げたのです。
店舗数はコロナ禍を機に急増しています。長らく停滞期を迎えていたため、店舗数を伸ばすことができなかったのです。
※決算説明資料より
そして、ケンタッキーの競争優位性はチキンに特化していることにあります。経営資源を一部の食材に集中することができるため、効率化を図ることができます。マクドナルドとの明確な差別化もでき、顧客の奪い合いが起こりにくくもなります。
しかし、この競争優位性が仇にもなってきたのです。
市場調査などを行うマイボイスコムは、「ファストフードの利用に関するアンケート調査」を定期的に実施しています。
その調査において、消費者のファストフード店の重視点は「食べ物がおいしい」というもので、これは長い間変わっていません。
ハンバーガーには牛肉、鶏肉、魚肉などが使われています。牛肉や魚肉が好きな人は、ケンタッキーは選択肢に入りません。
メニューがチキンに限られていることに加え、値上げによる価格優位性を失って集客に苦戦するようになったのでしょう。
マクドナルドとガチ競合もあり得るか?
ケンタッキーフライドチキンを運営するKFCホールディングスは、投資ファンドのカーライルに買収され、9月中に上場廃止となる見込みです。
カーライルは買収する目的と背景について、「出店戦略の見直しやメニューの多様化、店舗オペレーションの更なる改善等による利用率の向上を通じて当社の事業成長が見込まれる」としています。
見逃せないのは、「メニューの多様化」という表現。カーライルもチキンという軛から脱することにより、企業価値向上を図ることができると踏んでいるのではないでしょうか。
カーライルは4000億ドル以上の資産を運用する投資ファンド。ケンタッキーが豊富な資金力をバックに、出店攻勢に出ることは可能でしょう。しかし、消費者のニーズとマッチする商品を展開しなければ、不採算店舗を増やすだけになってしまいます。
チキン以外のハンバーガーを扱って、マクドナルド化する未来が見えてくるのです。
なお、中国のケンタッキーでは和牛ハンバーガーを扱い、日本でも2015年に牛肉7割、豚肉3割の肉を使った「ビストロ風ハンバーグサンド」を販売しました。このことから、アメリカのフランチャイズ本部との契約上、チキンしか扱うことができないということはないものと考えられます。
非上場化された後のケンタッキーの動向は、非常に興味深いもの。豊富なメニューを取り揃え、マクドナルドと正面から激突することもありえるのです。そうなると、両社の商品開発やマーケティングが活発になるのは必至。消費者としては恩恵の多いものになるかもしれません。
文/不破聡