九州の宇宙産業の振興を目指すカンファレンスイベント「九州宇宙ビジネスキャラバン2024」が福岡県北九州市で8月22日に開催されました。九州宇宙ビジネスキャラバンの開催は、2023年の福岡県福岡市での開催に続く2回目。ホリエモンこと実業家の堀江貴文さんや宇宙飛行士の若田光一さんをはじめ、九州にゆかりのあるキーパーソンが会場に駆けつけ、現地およびオンラインでの参加者は750名以上に達しました。
宇宙産業の一大拠点、リアルスペースワールドを目指して
今回の開催地となった北九州市は、『銀河鉄道999』や『宇宙戦艦ヤマト』など、宇宙が舞台の大ヒット作を生み出した松本零士さんが育った街です。市内のあちらこちらに松本さんが生み出したキャラクターのモニュメントやデザインマンホール蓋があります。2017年末に閉園したテーマパーク・スペースワールドにあったスペースシャトルの実物大模型は北九州市のシンボルとして長年愛されてきました。スペースワールドの跡地には、西日本最大級のプラネタリウムが併設された科学館・スペースLABOがオープンしました。
そんな北九州市には宇宙好きのカルチャーが根付いており、市民は「未来を描くために必要なイメージをたくさん持っています」と北九州市長の武内和久さんはイベントのオープニングで語り、「日本の宇宙産業を牽引する一大拠点、リアルスペースワールドを目指します」と意気込みました。
北九州市は2030年代に宇宙関連ビジネスを1000億円規模にまで成長させることを目標に掲げ、宇宙産業に参入する事業者を支援する取り組みを始めました。2024年4月には、産業経済局内に宇宙専任の「宇宙産業推進室」を新設し、市内の企業の宇宙産業参入や宇宙スタートアップの輩出に向けた基盤づくりを進めています。
北九州市の特色は、産学官連携の土壌があることや、大学や地元企業が宇宙産業に欠かせない強みを持っていることです。北九州は日本の四大工業都市として発展しましたが、同時に大気汚染や水質汚濁などの公害にも苦しみました。公害を克服し、他地域に先駆けて温室効果ガスの排出量の大幅な削減に取り組むなど、環境先進都市へと生まれ変わるなかで、産学官が一緒になって物ごとを進める力を付けたと武内市長はいいます。
さらに、北九州市内にキャンパスがある九州工業大学は、世界の大学・学術機関による小型・超小型衛星の運用数ランキングで、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)やドイツのベルリン工科大学を抑えて7年連続1位を獲得し、理工系人材の輩出においても存在感を高めています。
ロケットは鉄が作れる国しか作れない
続いて基調講演を行ったのは、実業家の堀江貴文さんです。堀江さんはインターステラテクノロジズを創業し、ロケット開発を進める傍ら、北九州市に本社を構えるラジオ局・CROSS FMの代表取締役会長として経営を担い、北九州市アドバイザーも務めています。堀江さんの祖父は北九州市出身で、八幡製鉄所で働いていたこともあり、北九州市は縁がある都市だといいます。
近年は宇宙産業に参入する国が増えていますが、堀江さんは「『鉄は国家なり』という言葉があるように、鉄を作れる国じゃないとロケットは作れない」と話しました。なぜかというと、ロケットの部品を作る工作機械は、鉄や鋼から作られるからです。日本初の近代的な設備を持った製鉄所である八幡製鉄所(現・九州製鉄所八幡地区)があり、金属にまつわる製造業が根付いている北九州は、宇宙産業のサプライチェーンに入っていけるポテンシャルがあると語りました。サプライチェーンの重要性を、堀江さんはインターステラテクノロジズでのロケット開発の経験を例に挙げて説明しました。
堀江さんは宇宙事業を始めた当初、ロケットエンジンはロシアから購入しようと考えていたといいます。かつてのソ連は冷戦時代に米国との宇宙開発競争を通じて、宇宙開発技術を発展させました。山のように製造したロケットエンジンは、ソ連が崩壊しロシアが経済危機に陥ると一時的に売り出されることに。米国はそのガレージセールでロケットエンジンを購入。米国の主力ロケットのひとつ、アトラスⅤにはロシア製のロケットエンジンが使用されています。
しかし、2005年に福岡で開催されたカンファレンスのために来日していたSpaceXの創業者イーロン・マスクは「ロシアから買うのは無理だ」「ロケットエンジンは自分たちで作らないとダメだ」と反対。イーロン・マスクもロシアからロケットエンジンを購入しようとしたものの、門前払いにされたといいます。宇宙と軍事は切り離せない関係にあり、輸出に制限がされます。結局、イーロン・マスクは、アポロ計画で使われた月着陸船のロケットエンジンの開発会社のメンバーを引き抜いて、SpaceXのロケットエンジンを開発しました。
(2023年12月に行われたインターステラテクノロジズのロケットエンジンの試験の準備の様子)
インターステラテクノロジズもロケットエンジンを内製しています。エンジンに必要な部品のなかには、国内で製造できる会社がたった一社しかなかったものもありました。さすがに心許なく感じ、別の企業に試作品の製造を依頼したところ、同じ性能の部品ができたといいます。堀江さんは「日本のサプライチェーンの厚さを感じました」「日本も捨てたもんじゃない。航空宇宙で使えるクオリティの部品を作れる会社がたくさんある」と話しました。
民間による宇宙ビジネスが盛んになるに連れて、必要とされる部品の製造事業に変わり始めています。これまでの政府が主導する宇宙開発で必要とされる宇宙機の部品の多くは一点物でした。ロケットに使われる部品を製造していることは企業のアピールになるものの、堀江さんは工場の見学に行くと儲かっていないように見えるところばかりだったといいます。部品メーカーが買収されれば、製造が中止になる可能性もあります。
一方、民間による宇宙ビジネスの多くは、量産が求められます。堀江さんが率いるインターステラテクノロジズは、一回の打ち上げで同じロケットエンジンを10機使用します。ロケットを年間100回打ち上げることになれば、ロケットエンジンは1000機以上製造されることになり、部品は数千個から数万個単位でメーカーに発注がかかります。そうすれば、部品メーカーは量産ラインを立ち上げるため、製造コストが飛躍的に下がることに加えて、部品メーカーにとっての一大ビジネスになるというメリットがあります。堀江さんは「EVシフトで自動車産業が先細るなか、我々がしなければならならないことのひとつは強固な宇宙産業のサプライチェーンの構築です」と訴えました。