帝国データバンクは同社が保有する企業概要データベース「COSMOS2」(2024年8月時点、約147万社収録)、および信用調査報告書ファイル「CCR」(約200万社収録)、各社の公開情報などをベースに「中東地域」に進出する日本企業について調査・分析を実施。結果を図表とグラフにまとめて発表した。
<注>中東の定義について:バーレーン、イラン、イラク、イスラエル、ヨルダン、クウェート、レバノン、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦(UAE)、イエメンの13か国。パレスチナは集計対象から除いた。
本稿では同社リリースを元に、その概要をお伝えする。
中東に進出の日本企業は計443社、最多はUAEでイランにも20社超が進出
パレスチナを除く中東地域13か国に進出する日本企業は、2024年8月時点で計443社判明した。進出国別にみると、最も多く進出が判明した国は「アラブ首長国連邦(UAE)」で289社に上った。
特に構成国の「ドバイ」「アブダビ」両首長国で進出が多く、現地販売拠点のほか、石油・天然ガス資源の開発など資源関連企業で拠点進出が多くみられた。
次いで多いのは「イスラエル」(95社)で、テルアビブ市を中心に日本企業の進出が判明した。各種投資協定や経済連携協定などで日・イスラエル間の経済交流が活発化していることも背景に、先端半導体や製薬企業のR&D拠点、イスラエル国内のスタートアップへの出資・子会社化といった形での進出が目立った。
「サウジアラビア」(78社)は、大手商社や金融機関が中心で、石油関連産業のほか、風力発電など新エネルギーの開発を目的とした進出が他地域に比べて目立った。
上位3カ国以外では、イスラエルとの緊張が緊迫化している「イラン」で26社の進出が判明した。カタール(26社)と同水準だったほか、サウジアラビアに次いで中東13か国中4番目に日本企業の進出が多かった。
イランへの進出では特に卸売業の進出が6割超を占め、同国産の農産物や手工業製品を日本へ輸出するための拠点として進出した企業がみられた。また、金融機関や商社などで情報収集を目的とした拠点進出も目立った。
なお、内戦状態が続く「イエメン」への進出事例は、2024年8月時点で確認できなかった。
■中東進出企業の懸念、最多は「為替レート」と「政治・経済情勢」 カントリーリスクに警戒感
帝国データバンクが2023年に実施した調査では、中東に進出する日本企業で海外進出・取引について回答のあった17社のうち、最も多く挙げられた課題は「外国為替レートの変動」と「進出先の政治情勢に関する情報収集」だった。
「経済情勢」に関する情報収集が続き、人材の確保や、言語などカルチャー面での不安が上位だった回答全と比べると、中東進出企業では政治的、特にイラン・イスラエル両国の緊張をはじめ同地域のカントリーリスクに対する警戒感がみられた。
イラン・イスラエル両国間の情勢緊迫化の動きは中東全域へと波及しつつある。外務省は7月31日、「中東地域において事態が急速に悪化する可能性も排除されない」との注意喚起に続いて、8月5日にはレバノンのシーア派組織ヒズボラとイスラエル軍との間で戦闘が激化していることを背景にレバノン全土に「退避勧告」を発令した。
イラン・イスラエル両国の一部地域も危険レベルが引き上げられ、何らかの危険情報が発出された地域は中東13か国中10か国に上った。
中東へ進出している日本企業への影響は不透明感もあるものの、進出地域や形態によって対応が分かれるとみられる。サウジアラビアやUAEなど、現時点で治安情勢等が悪化していない国へ進出している企業では、情報収集の強化といった対応にとどまる可能性がある。
他方で、イランおよびイスラエル、隣国のヨルダンなどでビジネスを展開する企業では、治安情勢の急速な悪化を理由に駐在員の退避や無期限の出張延期といった対応を余儀なくされるとみられる。
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https://www.tdb.co.jp/report/index.html
構成/清水眞希