クリエイティブに強い会社が陥りがちな罠とは
yutoriが連結子会社化した後も、heart relationの役員体制を変更する予定はないと発表しています。この会社のCCO(Chief Creative Officer)が小嶋陽菜さん。クリエイティブの統括責任者といったところでしょう。
そしてCEOを務めるのが安倉知弘氏です。
heart relationは2022年2月に経営体制を刷新しました。ここが今回のM&Aに繋がる転換点になっていたように見えます。
この会社はもともと、小嶋陽菜さんと戸高純氏が共同で立ち上げています。戸高氏はPR会社でZ世代向けのマーケティング支援などを行った実績の持ち主。小嶋陽菜さんが声をかけたといいます。マーケティング戦略が、自身のブランドを広めるために重要だと考えての人選だったでしょう。
「her lip to」は着実に女性ファンの開拓を進めますが、会社の方はスタートアップにありがちな罠に陥ります。小嶋さんはnoteでそれをこのように表現しています。
“そして会社に人が増えるにつれ、情報共有の漏れや、確認フローの複雑さが増し、社内でちょっとした混乱が起きていました。
当時はメンバーそれぞれの役割も曖昧で、みんながマルチタスクしながら全体でなんとか事業を支えていた、という状況だったので、責任の所在が曖昧なことによるミスも起きていました。“
※「【小嶋陽菜より皆様へ】heart relation代表取締役CCOに就任しました」より一部抜粋
組織管理や経営管理、バックオフィス業務に破綻が生じ始めたのでしょう。これは特にクリエイターなどの右脳派集団のスタートアップによくある事象。それがもとで空中分解する会社もあります。しかし、小嶋陽菜さんはその課題を解決する方法を見出します。
それが「すごい副業」でした。
人材を適材適所に振り分けた高い功績
「すごい副業」は、転職や副業のマッチングサービスを提供するYOUTRUSTが2020年に始めたもの。ディー・エヌ・エーの創業者である南場智子氏のウォーキングパートナーを募集するなど、ユニークな求人で注目を集めました。
第10弾企画として登場したのが「小嶋陽菜のD2Cブランド事業を成長させる仲間を募集」というものでした。そこに応募したのが後のCEOとなる安倉知弘氏。リクルートやディー・エヌ・エーを経て、Web広告事業を手掛けるフリークアウトに入社。インドネシアに赴任して海外展開の足掛かりを作るなど、事業を拡大させた実績を持っていました。2022年にheart relationに参画しています。
安倉氏が推進したのが、経営企画、組織開発など事業運営を円滑に進めるためのバックオフィス部門の構築。この活躍により、小嶋陽菜さんはクリエイティブに専念できるようになりました。それが更なるブランドの飛躍に繋がることになります。
今回、heart relationを連結子会社化したyutoriは2023年12月にグロース市場に上場しています。上場企業の場合、監査が厳しいために経営管理が行き届いていない会社は買収の対象になりません。30億円もの企業価値があると算出されていることからも、事業運営上の価値が高かったこともわかります。
小嶋陽菜さんは凄まじい熱量を持って仕事をすることで有名。それを会社として支える体制を築いた安倉氏の功績も大きいでしょう。そして、自身の会社の弱点を見抜き、その課題解決に相応しい人物を見抜いた小嶋陽菜さんの経営手腕の高さも際立ちます。
文/不破聡