「ジョブ型雇用」に対する期待
■採用側が自社にジョブ型雇用を導入・検討する理由は?
自社にジョブ型雇用を既に導入、または導入を検討している採用側にその理由を聞いたところ、「より成果に即した評価をしたいから」(49.5%)、「従業員のスキルや専門力を高めたいから」(48.6%)、「戦略的に人材を採用したいから」(44.9%)などが上位に挙げられた[グラフ3]。
日本におけるジョブ型雇用の普及に「賛成」と答えた理由としても、採用側は「即戦力人材を採用しやすくなるから」(50.7%)、「より柔軟・戦略的な人材採用ができる」(43.2%)などを挙げている[グラフ4]。
いずれにおいても人材採用上の効果に期待しており、労働人口が減少し、人材不足が深刻となる中で、企業にとってジョブ型雇用が必要となっていくことがうかがわれる。
■人材側が日本でのジョブ型雇用普及に賛成する理由は、「専門性を高めるモチベーションになる」から
続いて人材側にジョブ型雇用の普及に「賛成」する理由を聞くと、「専門力アップやスキルアップを図るモチベーションになる」(39.3%)、「働く人が専門力やスキルを磨き、競争力を高めることのできる制度だから」(37.9%)などが上位に挙げられた。年代別では40代で「年齢等を問わず評価され、高い報酬を得る人が増えるから」など、多くの項目が理由となっている。
日本における「ジョブ型雇用」の普及への課題と展望
■採用側が日本でのジョブ型雇用の普及に反対する理由は?
日本におけるジョブ型雇用の普及に「反対」と答えた採用側は、その理由として「採用や評価の制度を構築するのが難しいから」(30.4%)、「日本に多い中小企業にとって不利だから」(24.1%)、「従業員のスキルや成果を正しく評価できるか疑わしいから」「ジョブがなくなった場合でも異動・減給・降格・解雇がしにくいから」(同率22.8%)などを挙げている。
「採用や評価の制度を構築するのが難しいから」「日本に多い中小企業にとって不利だから」は従業員規模が小さいほど高率だ[グラフ6]。
■人材側が日本でのジョブ型雇用普及に反対する理由は「正しく評価されるとは限らないから」
一方で人材側の「反対」の理由は、「正しく成果を評価してもらえるとは限らない」(29.6%)、「年齢が上がるとそれ以上のスキルアップが大変そう」(24.3%)、「実質上の給与削減策として利用されそう」(22.7%)が挙げられた。年代別では40代の「通用するスキルや専門力を身に付ける自信がないから」(31.4%)などが高率だ[グラフ7]。
■総括
採用側も人材側も日本でのジョブ型雇用の普及に「賛成」する人が多数派であるにもかかわらず、「号令だけで実態が伴っていない」と感じている背景には、採用側も人材側も共通して「採用や評価の制度を構築するのが難しい」「評価が難しい」ことへの懸念がある。ジョブ型雇用の普及には、ジョブ型雇用の採用や評価の制度の構築や実際の運用が課題であることがわかる。
また、終身雇用制度の下でゼネラリスト育成の方針がとられてきたことから、人材側には自らのスキルがジョブ型雇用に見合うかの不安もあり、これからは企業も人材側も、これらの課題へ向き合うことが必要であると推測される。
コンサルタントによる調査への見解
今回の調査結果について、ジェイ エイ シー リクルートメントのコンサルタントは下記のような見解を述べている。
■コーポレートサービス第2ディビジョン 部長 水上 悠一氏
人材側が日本でのジョブ型雇用の普及に「賛成」する理由は、年代別でみると全体的に40代のスコアが高く、特に「年齢等を問わず評価され、高い報酬を得る人が増えるから」が38.5%と他の年代と比べ高い数字となっています[グラフ5]。一方で、反対する理由は、「通用するスキルや専門力を身に付ける自信がないから」が40代で31.4%となり、他の年代と比べ高率です[グラフ7]。
私が日々転職のご相談を受けるなかでも、40代の転職者がジョブ型雇用の職場を評価しつつも、不安があることも多いと感じており、この結果は意外ではありませんでした。
40代で転職をする場合、その多くは即戦力を求める企業への応募となるため、スキルマッチを慎重に確認させていただいています。しかしながら、日本企業の多くが労働条件を限定しないメンバーシップ型雇用を採用しているため、初めて転職する際に、自身の専門分野を特定できない場合があります。
ちなみに今回の調査でも、「自分がジョブ型雇用の対象になるか」という質問に対しては、7割近くが「自分はジョブ型雇用の対象外」と回答しています[グラフ8]。
ところが、転職希望者の方々のお話を伺うと、実際は得意分野をお持ちでありながら、それを専門分野と言ってもいいのか自信を持てずにいるケースが多く見られます。
ジョブ型雇用に対する人材側の懸念として浮き彫りになった「通用するスキルや専門力を身につける自信がない」という点に対しては、まずは自分のスキルの棚卸しをしてみることをお勧めします。転職する場合に限らず、現在所属している企業でジョブ型雇用が導入されるケースもあると思います。その際にも自身の専門分野を把握していれば、不安なくスムーズに移行していくことができると考えます。
■IMSディビジョン マネージャー 重本 明宏氏
日本でのジョブ型雇用の普及に反対する理由の1位は、人材側は「正しく成果を評価してもらえるとは限らないから」[グラフ7]、採用側は「採用や評価の制度を構築するのが難しいから」[グラフ6]と、どちらも評価制度についての不安が挙がっています。
私はプロフェッショナル人材の業務委託サービス(IMS事業)を担当していますが、私のお客さまであるジョブ型雇用の導入検討企業からも、専門性の高い人材を確保・採用するための制度設計等に関するご相談を受けることがあります。
例えば、ある企業では、市場希少性の高い専門職種の人材について、旧来のメンバーシップ型雇用の評価制度では専門分野に関する内容を評価できないため、新たな人事制度の導入を検討されていました。
しかし、明確な評価指標の策定が難しく、昇進等の条件を従業員側と共有できない場合、モチベーションが低下し離職してしまうことが懸念されていました。
そこで、われわれJACグループが保有する業界内外の専門職種に関する処遇データを参照し、専門職種に限定した等級要件の定義や報酬テーブル、評価制度の構築を提案しました。また、市場の希少性が高い職種のため、等級要件の定義にはIMSに登録をされる各業界・職種の専門家の第三者観点、知見を取り入れ、導入に当たっては、専門家が面談して各人材のスキルアセスメントを行い、第三者観点で処遇の妥当性等の評価を実施しました。
これによって、これまでの人事制度での処遇より年収が上がる結果につながったり、次の昇格に必要な要件が明確化されたことで、不足するスキルを補うモチベーションアップにつながったり、リテンション(離職回避)につながる施策になったと評価をいただいています。
専門性の定義が明確化されることで、採用の際にも必要とされるスキルを持つ人材にたどり着きやすくなるといった効果も生まれています。
長年メンバーシップ型の人事制度を採用してきた日本企業において、ジョブ型雇用を導入・運用していくためには、従来の社内の基準だけではなく、マーケットでの当該ジョブのスキルの定義や報酬水準を勘案して、企業側も従業員側も納得できる制度設計を行っていくことが重要な要素の一つになると考えます。
<「ジョブ型雇用の今」調査概要>
実施時期:2024年5月30日(木)~5月31日(金)
調査方法:インターネット調査
調査対象:(1)会社員(人材側)…正社
員として働く20代~60代男女1,000人 (2)中途採用権者(採用側)…勤務先で中途採用を担当する男女600人
本調査は小数点第2位以下を四捨五入しているため、合計が100%にならない場合がある。
構成/こじへい