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「70歳を過ぎてから農業を仲間と楽しんでいます」ジェロントロジー(老年学)研究のパイオニア・秋山弘子東大名誉教授インタビュー【後編】

2024.09.01

ジェロントロジー(老年学)研究のパイオニア、東京大学名誉教授の秋山弘子先生が選んだセカンドライフは、農業。それも、異なる世界で生きてきた人々を巻き込んだ農業事業です。充実した毎日をイキイキと楽しむ秋山先生に、セカンドライフを生きるヒントと知恵を伺いました。

前編はこちら

70歳を過ぎてセカンドライフに突入

――秋山先生のファーストライフでの仕事は、ジェロントロジー(老年学:高齢者の雇用や福祉、健康維持、長寿社会のための体制づくりなどを考える学問)の研究者でした。セカンドライフに選ばれたのは?

秋山弘子(以下、秋山) 農業にはまったく関係のない家に育ちましたが、昔から農業には関心がありました。母が97歳で往生するまでは、週末は母の介護がありましたから、真の意味でセカンドライフに入ったのは、70歳を過ぎてから。ずっとやりたかった農業をやってみようと決めたのです。

――確かに、シニア世代には、田舎暮らしをしたり、家庭菜園や市民農園などで野菜作りをしたり、自然に触れたいと考える人もいますね。

秋山 私が考えたのは、もっと大きな規模の農業です。せっかくやるなら、とことんやってみようと思い、考えを同じくする3人の仲間と一緒に1800坪の休耕地を借りました。

――いきなり、1800坪ですか!?

秋山 株式会社も設立しました。自然農法で野菜作りをする会社です。

――数畝を耕す家庭農園とは違い、壮大なスケールですね。

秋山 会社では、CSA(Community Supported Agriculture:地域支援型農業)の方式を取り入れました。

――CSAとは?

秋山 1980年ごろから、欧米で広まりを見せている手法で、生産者と消費者が天候などのリスクを共有するというものです。具体的には、消費者があらかじめ年会費として資金を提供します。そのおかげで生産者は、天候によって収穫量が左右されるリスク、つまり収入減のリスクを軽減できます。生産者は、毎週、採れたての野菜を消費者に届けます。

――生産者とリスクをシェアする消費者をどのように探したのですか?

秋山 首都圏のタワーマンションに住む人々に呼びかけ、会員を集めるのです。

――なるほど、都心のマンションに住む人々にとって、毎週、新鮮な野菜が届くのは魅力ですね。

秋山 ともかく、仲間と一緒に、それぞれの知恵や人脈、スキルなどファーストライフで得たものをフル活用して、次々に問題をクリアしていきました。

1800坪の草むしり問題

――順調な滑り出しだったのですね。

秋山 とんでもない! お金集めて、生産計画を立てて、いざ作物を育ててみたら、予想外の困難なことが次々起こったのです。

――というと?

秋山 枝豆の種を植えたら半分近くをカラスに食べられ、収穫直前の作物をシカに食べられてしまったり、高気温で作物がダメになって野菜を届けられなかったり……。苦い経験も多々ありました。農業は自然相手ですから、思い通りにはいかないものだとつくづく実感しました。

――会社組織とはいえ、1800坪もの農地は管理が大変そうです。草取りにも、かなりの労力が必要では?

秋山 草取りは、大問題ですね。畑は埼玉県にあり、私たちは自宅のある神奈川県から通っているので、毎日草取りをするのは不可能です。特に、夏場は太陽が昇るとすぐに暑くなりますから、早朝に草取りをしなければなりません。

――この難題はどう解決を?

秋山 畑の近くには団地があって、それこそ時間に余裕のある高齢者が大勢住んでいます。高齢者ですから、朝早く起きる人が多いので、その人々に賃金を払って草取りを依頼します。早朝5時~8時くらいまでの「仕事」です。

――朝型生活のシニアにとっては、近所で無理なく、短時間の仕事ができるのはうれしいですね。現金収入も魅力でしょう。

秋山 農業分野の高齢化が指摘されていますが、実際にやってみて、農業は手間がかかるし、天候によって収入が左右されるし、若い人々が敬遠しがちなのがよく分かりました。CSAを始め、農業が魅力的な仕事として確立されるような仕組みは、今後、絶対に必要だと思いますし、そのモデルをつくりたいと考えています。

――社会に変化を促す取り組みは、まるでファーストライフ(現役時代)のようですね。なんとも精力的なセカンドライフです。

秋山 ずっと農業がやりたかったから、今、充実しています。仲間の車に乗せてもらって畑に向かうときに、雑談したり情報交換したりするもの楽しんでいます。

2足のわらじも、失敗もOK。

――先生のように充実したセカンドライフを送るコツは?

秋山 まず、自分が「やりたいな」と思うことをやってみることです。どの分野であろうと、ファーストライフでは皆さん十分に頑張ってきたのだから、セカンドライフでは好きなことをすればいいのです。

――夢中になれるものがないときは?

秋山 子どもの頃に好きだったことをもう一度やってみるとか、ちょっと興味をひかれた活動に気軽に参加してみるとか、入り口は何でもいいのです。それに、1つのことに集中しなくても、2つでも3つでも掛け持ちして、無理のない範囲で楽しめばいいと思います。もっと言えば、失敗したっていいんです。

――失敗してもいい?

秋山 ええ、セカンドライフですから。責任や結果が求められるファーストライフとは違うのです。「これは自分に向かなかったな」と思えば、さっさと方向転換すればいい。誰も気にしないし、失敗を笑ったり、けなしたりもしませんよ。

――人生100年時代、長いセカンドライフを過ごす人も増えそうです。

秋山 「働く」「休む」「学ぶ」「遊ぶ」の4つをうまく組み合わせることが大事です。たとえば、体力のある60代なら「働く」に時間を割いてもいいし、旅行やスポーツなどの比重が大きくてもいいのです。逆に、80代になったら「働く」を減らして、「休む」時間を増やすとか…。年代に応じて、4つのバランスを自分なりに自由に変えていくのがおすすめです。

――ファーストライフでは、仕事とプライベートのバランスが指摘されていますが、セカンドライフは4つなのですね。

秋山 仕事とプライベートの二項対立ではありませんし、セカンドライフにおける「働く」「学ぶ」「遊ぶ」は、別々のものではなく、融合するものだと思います。たとえば、「遊ぶ=趣味の活動」を通じて新しく知り合った人は、自分とは違うバッググラウンドを持っているでしょう。そういう人と話すことは「学ぶ」ことにつながります。そういう情報のやりとりを通して、未経験だけどやってみたい仕事が見つかるかもしれません。

英語で「労働」はlabor(レイバー)。この言葉には、「陣痛」という意味もあります。つまり、労働は辛く苦しいものなので、欧米の人は早くこれから逃れたいと思っているわけです。いわゆる早期退職(early retirement:アーリーリタイアメント)したいと思っています。でも、本当に望ましい生き方とは、「働く」ことが喜びとなり、楽しみであり、学びにもなること。融合されて、出入り自由の形が望ましいと思います。

――定年の延長や再雇用制など、今の60代は「働く」ことがセカンドライフでも必要かもしれません。

秋山 人口縮小は避けられませんし、これから先は、75歳とか80歳くらいまで働くのが当たり前になるかもしれません。働くことも念頭にいれておきつつ、うまくいかないときは、その都度軌道修正して、フレキシブルに生きていけばよいと思います。

――最後に、読者にエールをお願いします。

秋山 何歳になっても社会と繋がり、役割をもって生きる、生涯現役で貢献寿命を延ばせられれば良いですね。何らかの活動や行動によって、他人から「ありがとう」と言われる期間を延ばすことは、幸福につながるでしょう。50代~60代の皆さんの、これからの「老い方」に期待しています。

秋山弘子 東京大学高齢社会総合研究機構客員教授。専門は老年学。高齢者の心身の健康や経済、人間関係の加齢に伴う変化を30年にわたる全国高齢者調査で追跡研究。近年は首都圏と地方の2都市で長寿社会のまちづくりや産官学民協働のリビングラボにも取り組む。日本の老年学(ジェロントロジー)の確立の功績をたたえて贈られる日本老年医学会・尼子賞を2024年度受賞。

***

東大名誉教授・秋山弘子先生からの助言に勇気と希望をもらいつつ、セカンドライフへの助走を始めましょう。

取材・文/ひだいますみ 撮影/横田紋子(小学館)

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