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人生は60歳からが楽しい!ジェロントロジー(老年学)のパイオニア・秋山弘子東大名誉教授インタビュー【前編】

2024.08.31

ジェロントロジー(老年学)という言葉を知っていますか? 加齢に伴って生じるさまざまな課題を扱い、生涯をより良く生きるための方法を追究する学問です。

日本でのパイオニアとして長年、ジェロントロジーを研究され、今も元気に堂々と楽しく「セカンドライフ」を生きる東京大学名誉教授・秋山弘子先生にお話を伺いました。これからの生き方の手本となるような、50~60代を生きる女性への珠玉のメッセージとアドバイスは必見です!

結婚、仕事、介護……女性の生き方とジェロントロジー

――まずは、「ジェロントロジー」という学問について。耳慣れない人も多くいるのでご説明いただけますか。

秋山弘子(以下、秋山)人間、皆、誰しも年を取りますよね。年を取れば、「どこそこが痛い」だの「認知機能があやふやになった」だの、さまざまな問題が出てきます。日本を始め先進国では高齢化が進み、そういう高齢者が増えることを考えれば、雇用や福祉などの政策、健康管理のシステムなど、さまざまな分野での影響も少なくありません。ジエントロジーとは、そういうことを考える学問です。

――ジェントロジーに関心を持たれたきっかけは?

秋山 2つあります。1つは、祖父母の初孫でかわいがられたこと。私は、当時の祖父母の年齢からすると、遅い孫だったのでとにかく可愛がられました。母が「娘を祖父母にとられちゃった」というぐらい(笑)。祖父母は、母屋とは別の「離れ」に住んでいたのですが、そこには、親戚はもちろん、近所の方など、高齢者がよく訪れていました。つまり私は、高齢者の中で育ったのです。

――その環境での育ちは、どのように影響したと思いますか?

秋山 高齢者は年を取ることや役割を失っていくことに対する不安もある一方で、世間のしがらみから解放され、のびのびとした生活を送っている人もいるなと感じて育ったと思います。高齢者の暮らしを肌感覚で自然に理解できる環境でしたね。 

――2つ目は?

秋山 1972年にアメリカの大学院に留学して、興味を持ちました。まだ、日本ではジェロントロジーを専門的に学ぶ大学や研究機関などない時代で、アメリカでも萌芽期でした。もともと、アメリカは若い国ですからね。とはいえ、すでに当時の大きな大学にはジェロントロジー研究所が設立されていました。

――当時の研究テーマは?

秋山 私は、青年期の疎外の問題を研究していました。しかし、ジェロントロジーを知って、これからの日本には必要な学問だろうと考え、初めから勉強しようと取り組みました。博士論文もこの分野で書きました。

――1972年といえば、有吉佐和子さんの『恍惚の人』という小説が注目されました。

秋山 『恍惚の人』は、夫の父親(舅)を懸命に介護する長男の妻を描き、これからやってくる少子高齢社会、認知症、介護、女性の生き方などの問題に光を当てた小説です。

――ベストセラー小説で、「恍惚」は流行語にもなりました。

秋山 それまでも、専門家によって日本は高齢化社会に突入すると指摘されていましたが、一般にはあまりピンと来ていないような、どこか他人事のような感じでした。しかし、この小説が発表され、多くの人々、特に女性が身近に高齢者問題を感じるようになりました。

――なぜ女性だったのでしょう?

秋山 その時代の女性は、結婚して「家」に入り、子どもを産み、家族を支えるというのが一般的な生き方でした。舅や姑のお世話も、嫁が担うのが当たり前。高齢化社会が女性の生き方に多大な影響を与えるのだと、気づかされたからでしょう。

――ジェロントロジーという言葉は知らなくても、見過ごしてはいけない問題、自分にも関わってくる問題だと感じたのですね。

秋山 そうです。実際、高齢者問題は、多くの女性の生き方に影響を与えました。結婚を機に仕事を辞めるのが一般的でしたが、中には、結婚後も仕事を続けている人もいました。しかし、介護の問題が立ち上がると、やはり仕事を辞めざるを得なかったのです。

――そんな中、先生ご自身は研究を続けられたのですね。まさに、仕事と家庭を両立させる女性としてのパイオニアですね。

秋山 私は、恵まれていました。夫も協力的でしたし、親も応援してくれましたから。しかし、苦しい生き方を強いられた女性は多かっただろうと思います。

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