セカンドライフは、夢を育みながら、フレキシブルに考える
――セカンドライフの魅力は何ですか?
秋山 なんと言っても「自由」であることですね。自由に使える時間がたっぷりありますからね。多少なりとも収入(年金)や蓄えがあり、健康であれば、自分がどう過ごしたいか、思い通りに決められます。まったく新しいことに挑戦するのもよし、楽器や絵画など昔の趣味をもう一度楽しむもよし、これまでに培ったスキルやネットワークを活かして活動するのも楽しいでしょう。
――セカンドライフをデザインするための秘訣は?
秋山 早めに準備するとよいでしょう。50~60代は、ちょうどその時期ですね。新たな仕事に向けて資格を取ったり、語学を学び直したり、具体的な準備をするのもよいのですが、「これをやってみたいな」と夢を育むだけもよいと思います。
――夢を育むだけもよいのですか?
秋山 実は、一口に「セカンドライフ」といっても、ある年齢でスッパリ線引きできるものではありません。セカンドライフに入るタイミングは人それぞれなのです。現実には、自分の健康状態や資金面での都合もあるし、介護など家族の事情もあるでしょうから。夢を育みながら、フレキシブル(柔軟)に考えることが大切です。実は、セカンドライフにスムーズに移行するのは、もともと女性のほうが男性より得意だったと思います。
――それはなぜ?
秋山 これまで、女性は、仕事を持つ/持たないに関わらず、地域に根差した生活者として生きてきた人が多いからでしょう。つまり、ご近所づきあいや子育てなどを軸にした地域のネットワークがあり、情報を得やすいのです。公民館や地域センターでの催しもの、趣味の講座探し、仲間づくりなど、皆さん上手に情報を得ていると思います。
――これから男女雇用均等法以降の世代が続々とセカンドライフに入ります。仕事中心の生き方をしてきた女性も、前の世代に比べてグンと増えています。男女問わず、セカンドライフをデザインする意識を高める必要がありますね。
ところで、先生ご自身のセカンドライフは?
秋山 私、農業をやっているんですよ。
――農家のご出身ですか?
秋山 ファーストライフは農業にはまったく縁のない人生だったのですが、なぜか昔から農業に興味があって、いつかやってみたいな……と思っていました。97歳で往生した母を見送ってから、念願だった農業を始めました。70歳を過ぎて、ようやく私のセカンドライフの始まりです。
――東大の名誉教授が、70歳過ぎてから農業!
秋山 ふふふ、異なる経歴をもつ人を巻き込んで大掛かりに取り組んだせいか、本当におもしろくて……。
秋山弘子 東京大学高齢社会総合研究機構客員教授。専門は老年学。高齢者の心身の健康や経済、人間関係の加齢に伴う変化を30年にわたる全国高齢者調査で追跡研究。近年は首都圏と地方の2都市で長寿社会のまちづくりや産官学民協働のリビングラボにも取り組む。日本の老年学(ジェロントロジー)の確立の功績をたたえて贈られる日本老年医学会・尼子賞を2024年度受賞。
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ジェロントロジー研究のパイオニア秋山弘子先生がセカンドライフの楽しみとして選んだのは、なんと農業。多くの人を巻き込んだ大掛かりな農業とは!? 後編は、秋山先生の精力的なセカンドライフに迫ります。
取材・文/ひだいますみ 撮影/横田紋子(小学館)