大量採用、青田買い、インターンシップ、紹介予定派遣、ダイレクトリクルーティング…。雇用に関してはこれまで様々な手法が講じられて来ました。この背景にはどの組織においても『優秀な社員を確保したい』というニーズがあるからではないでしょうか?しかし一方で、『優秀な社員になるための育成』に関しては議論が少ないように見受けます。本稿では新入社員の育成に関し解説を進めます。
(1)新卒採用と中途採用の違い
新卒採用と中途採用の違いをまずは整理をして行きます。
新卒採用:採用期間が長いが、ポテンシャルが高い白地の人材を採用することが出来る。
業務経験や業務知識は無い(少ない)。
中途採用:採用期間は短く、即戦力採用も期待が出来る。ただし、良くも悪くも社会人経験者となる。
ある程度の業務経験や業務知識を期待できる。
また一人当たり採用予算においても、中途採用の方がやや高くなっている相場感があるようです。
中途採用の方は即戦力として期待が出来る可能性は高いですが、市場に該当者が居ない可能性も高くあります。新卒採用に関しては即戦力としての期待は難しいですが、その分、自社で1から育てられるという魅力があります。育成という観点では特に経験・知識の有無が大きなポイントとなってきます。特に中途採用の場合では採用単価が高いことも相まって、『即戦力として採用したのだから、早く活躍してくれないと』と焦ってしまう経営者の方も少なくないですが、これは誤解です。いくら業界経験が有ったとしても、それは『他社での経験』となるため、どのような人材でもある程度の育成は必ず必要となります。
(2)育成の前に採用段階での注意点
育成は何のために必要でしょうか?答えは組織の生産性を高めるためではないでしょうか。
では、何のために組織の生産性を高めなくてはならないのでしょうか?それは組織の目標を達成させるためであるはずです。組織の目標達成から育成が繋がっていることは分かりやすいと思いますが、これは採用場面にもしっかりと繋がっているでしょうか?私もコンサルティング先より採用に関する相談は度々受けておりますが、『採用したい人物像を教えてください』とお聞きした時に、『今後の事業展開に応じて、このポジションの採用が必要となり、この役割を担える人を採用したい』と一気通貫してお答え頂いたことは多くありません。採用に関しては、まず組織図を確認し、どのような人材が必要なのかを確認しなければなりません。『良い人だから採用しよう』ではなく、『役割を果たせる人を採用する』、つまり『適所適材』の採用活動が重要となります。
(3)育成の実践編~中途社員~
『適所適材』の採用活動を行っていくと、育成を論じる前に『求める役割』が明確となった状態になっています。組織図に応じた役割設定の方法に関しては直接識学コンサルタントにお問い合わせ頂けると幸いです。求める役割を果たせるように育成をスタートさせるのですが、中途社員に関しては先述の通り、ある程度の業務経験や業務知識を持った人となります。ただし、いくら経験や知識を持っていたとしても『即戦力として即活躍』は非常に困難です。なぜなら、そもそも論として、全く同じビジネススキームはほぼ存在しないはずだからです。
識学には思考変化という理論があります。これは『人の意識下において、知識と経験が結びつくことにより、新たな発想が生まれ、行動変容が起きる』という考え方です。この思考変化の理論を応用すると、中途入社者にはまずは『知識』を集中的に注ぎ込むことが必要となります。営業手法や業務マニュアル、トークスクリプトなどを事前に準備し、第一線に投入する前にまずは自社に関して勉強をしてもらうことが重要となるのです。ここを怠ってしまうと、『前職の癖のまま』業務に当たることになり、思うように成果が出なかったり、思わぬトラブルを発生させてしまったりしてしまうのです。識学社においても中途入社者はまずは理論勉強をし、所定のテストに合格をすることでコンサルタントとしてのキャリアをスタートさせます。詳細は割愛をしますが、研修に関しては『ボリューム』や『期間』のみを設定するのではなく、『合格制』にしておくことが非常に効果的となります。
(4)育成の実践編~新卒社員~
新卒社員の育成を考えていきましょう。新卒社員に関しては業務経験も業務知識も無い状態からのスタートになります。このタイプの方々は知識注入だけではなく、経験を積ませることも必要となります。この経験というものが非常に曖昧であり、新卒社員の成長実感を得難くさせている元凶となります。ここで重要になってくるのは『一人前になるまでのステップの明確化』です。誰しも最初からエースとして活躍が出来る訳ではありません。エースになるまでのステップを細分化し、そのステップを何段階まで進んでいるのかを可視化出来るようにするのです。
≪例:営業会社≫
入社→(1)社会人基礎知識・自社基礎知識の理解(3か月)→(2)自社商品知識の理解(6か月)→(3)同行営業の回数(6か月)→(4)同行営業での契約(9か月)→(5)単独営業での契約(1年)
実際には、よりステップを細分化する必要がありますが、イメージとしては上記のようになります。
また、これは中途入社者も同様なのですが、要所要所での理解度のチェックに関しては直上の上司ではなく、出来れば育成部門の責任者や品質管理責任者がテストを行うことが理想です。決められたマニュアルによって育成が行われ、それに基づきテストが行われる。その結果が上司と新人双方にフィードバックされることによって、育成内容を客観的にチェックをしたり、マニュアルに対する社内理解の標準化を進めることも可能になってきます。繰り返せば繰り返すほど、育成の精度は向上するでしょう。
まとめ
本稿では育成システムの構築に関し論述をしました。
• 新卒採用と中途採用の性質の整理
• 育成の前に組織に問題が無いかをチェック
• 中途採用(経験者採用)の育成では『知識注入』が重要
• 新卒採用(未経験者採用)の育成では『経験の可視化』が重要
以上がポイントとなります。育成の速度を上げ、組織の成長速度を上げていきましょう。