リスキリングが必要な時代――といっても、50代になって仕事のスキルを上げるのは並大抵のことではない。それでも大学院に行って、自分に足りなかったものを得た新田美砂子さん(61才)。学びが成功して仕事が新たに展開できるようになったいきさつを聞きました。
大学院に行った理由の「ウイークポイント」
大学卒業後、普通のOLとして働いたあと、30代から料理研究家をしていた新田さん。料理やレシピを作るだけでなく、もっと食材のことを知りたくなって、野菜ソムリエの資格を取り、農家で畑仕事の手伝いなどもしていたといいます。
「そのうちに、マルシェの立ち上げや、地域の生産者の商品開発、ホテルが開催するフェアのサポートといった仕事をするようになりました」
料理研究家の仕事をメインにしていたのは、下のお子さんが中学生だった45才ぐらいまで。それ以降、地域活性化のコンサルティングの仕事が増えていきます。三宅島や新島で首折れさばを使った地域おこしのプロジェクト・福島県で蒸し野菜のセットの売り出し・茨城県のアンテナショップのプロデュースなどに取り組みました。
「こういう仕事をしているのは、コンサルティングの手法を身に着けた人が多い。だけど私は、成り行きで元々の料理とは違う仕事をするようになっていっていました。感覚や感性で進めているだけでは、相手にうまく伝えることができない。自分のウイークポイントが見えてきたところでした」
その頃、たまたま出会いがあって、新田さんは、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科に入学。
「他のコンサルタントや中小企業診断士の人たちは、私にない仕事の仕方をしている。それはなんだろうと思っていたんです。
大学院に行って、私になかったものだとわかったのは、物事をロジカルに考えて、ロジカルに伝えることでした。私はそういう訓練をまったくしてなかった。大学の専攻は児童教育だったし、卒業して働いたのは経団連で、秘書業務などをしていましたから」
女性同士だったら〝わかるわかる〟の感覚で通じていたが
「それまでは、例えばトマトを使って商品開発をするとなると、私の中ではすぐ答えが出て、こうするのがいいですと伝えていました。トマトの性質とか開発条件によって、おのずと方向性が決まってくるから。
新島の明日葉だったらピザがいいと、私の中ではすぐ答えが出る。でもコンサルティングでは、それだけでは通用しないんですよね。
どうしてそういうふうに考えるのか、それをきちんと相手に分かるように理由付けをして見える化をする。そしてロジカルに人に伝えなくてはならない。
明日葉は消費者が親しんでいる食材ではないし、個性が強い。だから、そのまま売るのではなく、地元で採れるイカなどと一緒にピザにすればいい。加工コストはこのぐらいで、観光客は年間これだけいる。シーズンによって変動があるが、冷凍しておけば食べてもらえてこれだけの売り上げが見込めるなどなど。
女性同士だったら、こんなふうに順序立てて理由を挙げていかなくても〝わかるわかる〟って通じる。だけど、ビジネスの場ではそうはいかないんですよね」