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倒産後の事業存続率は過去10年間で平均33.6%に「老人福祉」と「旅館」は7割前後が存続し地域・雇用を支える

2024.08.17

帝国データバンクでは、2014年度から2023年度の10年間で発生した負債5億円以上の倒産(法的整理)を分析。下記に該当する企業倒産事例を「事業存続型倒産」と定義して、集計を行なった。なお、同様の調査は今回が初めてとなる。

「事業存続型倒産」:倒産企業(法的整理)のうち、倒産前後や手続き内での事業譲渡や自主再建等によって、法的整理後も当該企業の「事業」が存続したもの。

本稿では同社リリースを元に、その概要をお伝えする。

「事業存続型倒産」は過去10年間で1549件、事業存続率は33.6%

倒産前後や手続き内での事業譲渡や自主再建等によって、法的整理後も当該企業の「事業」が存続した「事業存続型倒産」(負債5億円以上が対象)は、2014年度以降の10年間で1549件が確認できた。

最も多かったのは2014年度の199件、次いで2020年度の177件となった。2023年度は157件となり、2年連続で増加した。

この10年間で発生した負債5億円以上の全倒産(法的整理)4611件に占める「事業存続型倒産」の割合(事業存続率)は33.6%となり、倒産企業の3社に1社は事業が存続したことがわかった。

事業存続率が最も高かったのは2020年度の41.8%(423件中177件)。コロナ禍での短期的ダメージを理由に倒産したものの、中長期的には事業価値が評価された例が多かった。

■業種別:「サービス業」の事業存続率が44.4%と突出、「旅館」の事業存続型倒産が最多

業種別に分析すると、過去10年間の累計で最多となったのは「サービス業」の462件。次いで「製造業」348件、「卸売業」256件と続く。

一方で、少ない業種は「運輸・通信業」70件、「不動産業」72件、「建設業」86件となっている。

事業存続率でみても「サービス業」が44.4%(1041件中462件)と高く、「小売業」38.2%(511件中195件)や「製造業」37.3%(934件中348件)が続く。

ただ、「卸売業」は件数こそ多いものの、事業存続率は28.8%(888件中256件)と全体(33.6%)を下回っている。最も事業存続率が低いのは「建設業」の17.3%(496件中86件)で、「サービス業」と比べると27.1ptもの差がある。

“事業”そのもので差別化が図りづらく、特段の設備等を持たない「建設業」や「不動産業」、「卸売業」は、事業が存続されにくい傾向が見られる。

業種細分類で見ると、過去10年間の累計で件数が最も多かったのは「旅館」の150件。2番目の「ゴルフ場」67件や、続く「貸事務所業」37件と比べても突出している。

また、「旅館」は負債5億円以上の全倒産で見ても最多(229件)であり、過大な債務を抱えやすい業種である半面、宿泊施設やブランドには一定の価値が認められ、事業存続しやすいものと考えられる。

事業存続率で見ると、「ゴルフ場」が最も高く、76.1%(88件中67件)。次いで、「老人福祉事業」71.8%、「養鶏業」71.4%、「一般病院」67.7%が続く。

上位の業種は、いずれも代替のきかない(資産価値の高い)施設・設備やブランドを有しており、法的整理によって金融債務等の負担が軽減されれば相応の事業価値が認められ、事業が存続しやすい。

■地域別:事業存続率「北陸」が唯一の4割超、「福井県」の存続率が55.6%で最高

地域別に分析すると、過去10年間の累計件数では「関東」575件、「近畿」261件、「中部」227件と大都市圏が多くなっている。他方、事業存続率で見るとこれらの地域は下位に位置する。

地方圏の方が事業存続率が高く、特に「北陸」の42.8%(180件中77件)が目立つ。地方圏では、負債が5億円を超える倒産企業は、地域経済の牽引や雇用創出において重要な役割を担っていることも多いため、事業存続への意識が高くなる傾向があると見られる。

都道府県別に見ると、過去10年間の累計件数では「東京都」(331件)、「大阪府」(137件)が多いが、いずれも事業存続率は低い。

事業存続率で見ると、最も高いのは「福井県」55.6%(27件中15件)。以下、「滋賀県」51.3%(39件中20件)、「福島県」51.0%(51件中26件)が続く。

■態様別:「民事再生」の事業存続率は近年90%台に上昇、「破産」も10%強は事業存続

態様別に分析すると、過去10年間の累計で最も多かったのは「特別清算」の621件となった。事業譲渡を前提とした第二会社方式による再生・再編スキームの一環として、積極的に活用されているものとみられる。

次いで多いのは、文字通り事業存続を前提とした「民事再生法」の538件。会社が消滅する「破産」でも、何らかの形で事業が存続したケースが366件確認された。

事業存続率では、「会社更生法」が96.0%(25件中24件)と高く、過去10年間で事業が存続できなかったのは1件にとどまる。「民事再生法」も83.2%と高水準で、過去10年間の事業存続率は概ね上昇基調であり、2022、2023年度はいずれも90%台を上回っている。

近年、金融機関主導あるいは再生ファンドが積極的に関わるプレパッケージ型・民事再生の積極的な活用が背景にあると考えられる。

■従業員規模別:従業員300人以上では77.4%が事業存続、存続率は雇用規模に比例

従業員規模別に分析すると、過去10年間の累計で最も多かったのは「10-50人未満」の628件。次いで「10人未満」の552件となったが、いずれも事業存続率は全体(33.6%)を下回った。

事業存続率で見ると、従業員規模が大きいほど高くなる傾向にあり、「300人以上」では77.4%と高い割合で事業が存続している。事業とともに雇用も相応に引き継がれている可能性もある。一方で、小規模事業者の事業存続・再生は課題と言えよう。

調査結果まとめ

初めて実施した今回の調査で、負債5億円以上で倒産(法的整理)した企業のうち3社に1社が、事業譲渡などの手法で“事業”が存続していることがわかった。

同時に、“雇用”の一部も守られた可能性があり、一概に「倒産」といっても、スキームによっては地域経済への影響を極力抑える手法が採られているケースもあることが判明している。

また、近年は私的整理の制度も拡充されてきており、業況が悪化している企業の“事業”や“雇用”を切り出す、事業存続型の会社清算・再生の動きが活発化している。

地域の雇用の受け皿や、代替のきかない産業の消失を回避するなど、地域経済にもたらす効果は大きい。

リーマン・ショック以降、政策的に抑制されてきた倒産がここに来て急増しているが、その一方で、こうした手法が活用されることで企業の新陳代謝を促し、国内経済の再生・成長が進むことも期待される。

関連情報
https://www.tdb.co.jp/report/index.html

構成/清水眞希

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