グローバル企業深掘りシリーズ「TSMC」
現代のテクノロジー社会において、半導体は「デジタル社会の心臓」ともいえる存在です。スマートフォンやコンピュータ、自動車、そしてIoT(モノのインターネット)デバイスに至るまで、私たちの生活のあらゆる場面で半導体が重要な役割を果たしています。その半導体市場において、特に重要な役割を担っている企業が、台湾に本社を置くTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)です。
半導体産業は、今日のデジタル経済における最も重要な産業の一つであり、その2023年の半導体の世界売上は約5448億米ドルとされています。その中で、ファウンドリ市場は急成長を遂げており、TSMCはそのリーダーとして世界最大のファウンドリ企業です。2023年の売上高は2兆1600億台湾ドル(約10兆1081億円に達し、市場シェアは約6割を占めています。
ちなみにファウンドリとは、他社が設計した半導体を製造するサービスを提供する企業のことです。
そこで今回は、TSMCがどのようにして半導体業界で圧倒的な地位を築いたのか、その歴史、ビジネスモデル、技術的優位性、さらには今後の展望について深掘りしていきます。
TSMCの概要と歴史
TSMCは1987年、モリス・チャン氏によって設立されました。チャン氏は、MITでの博士号取得後、Texas Instrumentsでの長いキャリアを経て、台湾政府からの招請を受け、TSMCの創業を手がけました。当時、半導体業界では自社で設計から製造までを行うIDM(Integrated Device Manufacturer)モデルが主流でしたが、チャン氏は専業のファウンドリという新しいビジネスモデルを提唱しました。
TSMCの創業からまもなくして、そのビジョンは徐々に業界内で認識され、1994年に台湾に上場後、1996年にニューヨーク証券取引所に上場しました。設立直後のTSMCは、高性能な半導体製造に成功し、Intel、Motorola、Texas Instrumentsなどの大手企業が顧客として名を連ねるようになりました。
その後、TSMCは数々の技術革新を経て急成長を遂げました。
例えば、2004年に導入された65nmプロセス技術は業界標準を大きく引き上げ、その後の28nm技術はスマートフォンの高性能化に貢献しました。さらに、TSMCは2015年に16nm FinFETプロセス技術を導入し、これが次世代のスマートフォンや高性能コンピューティングデバイスに決定的な影響をもたらしました。
TSMCはこのような技術革新を続け、ファウンドリ業界のリーダーとしての地位を確立して現在に至ります。
ビジネスモデルと技術的優位性
TSMCのビジネスモデルは、他社が設計した半導体を受託製造することに特化しており、これにより世界中の顧客が自社のリソースを設計に集中させることができます。このモデルは、Appleのような巨大企業からスタートアップまで、幅広い顧客に支持されています。
TSMCの技術的優位性は、その最先端の製造技術にあります。例えば、TSMCの5nmプロセス技術は、AppleのA14 Bionicチップに組み込まれ、スマートフォン市場に大きなインパクトを与えました。このチップは、従来の7nm技術に比べて処理速度が15%向上し、消費電力が30%削減されており、これがiPhone 12シリーズの成功を支えています。
さらに、TSMCの3nmプロセス技術は、さらなる性能向上と省電力化を実現し、特にAIや5G関連のデバイスでの活用が期待されています。
技術的な強みとして、TSMCはEUV(極端紫外線)リソグラフィ技術を導入しており、これによりナノスケールの精密な半導体回路を作成することが可能になりました。この技術は、TSMCが業界の先端を走り続けるための鍵であり、同社のファウンドリとしての技術的優位性をさらに強固なものにしています。
TSMCの成功は、その技術的な優位性だけでなく、顧客との緊密なパートナーシップにも支えられています。Apple、NVIDIA、Qualcommなどの大手企業がTSMCの主要顧客であり、これらの企業との長期的なパートナーシップが、TSMCの収益基盤を支えています。
例えば、Appleとのパートナーシップは、iPhoneやiPadの主要なチップをTSMCが製造することで、Appleの製品が市場で競争力を持つための重要な要素となっているのです。