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黄金を生む現代の魔性の杖、AI関連株は今後波乱万丈の展開になる可能性

2024.08.14

「どうにもとまらない」AI開発競争

市場の急拡大が期待される生成AIだが、世界のハイテク業界をリードするGAFAM(グーグルの親会社アルファベット、アップル、フェイスブックを運営するメタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コム<アマゾン>、マイクロソフトの5社)はけた外れのAI開発投資に邁進している。

GAFAM5社の過去1年間の研究開発費(公表ベース)の合計は約2290億米ドル(図表2、8月2日の為替レート1ドル146円換算で約33兆円)だが、そのかなりの部分がAI開発投資だとされている。

ちなみに、TOPIX採用企業2135社の昨年度の研究開発費が総額で約14.2兆円ということからも、GAFAMのAI開発投資が生半可ではないことがすぐにわかる。

GAFAMによる巨額のAI開発投資を「無謀」とする見方があるのも事実だ。しかし、彼らがこうした巨額投資に走るのは、かつての産業革命におけるエネルギー革新と同じように、AI開発でリードした人、会社、国が世界のビジネスを制し、安全保障の面で他国を圧倒し、世界の覇権を手にすると喝破(かっぱ)しているからかもしれない。

■最先端のAI開発が安全保障にかかわる優位性を決める決定的な要素となる可能性

安全保障にかかわる生々しい話をするのは気が引けるが、既にAIを活用した高度で自律的な兵器が、ウクライナやガザ地区などで実戦投入されていると報じられている。

ドローンなどの無人兵器への搭載、戦闘機など通常兵器の運用の高度化、そして、膨大なデータの解析を通じた戦略の立案・決定にかかわるなど、最先端のAI開発が安全保障にかかわる優位性を決める決定的な要素となる可能性が高まっている。

こうした背景もあってか、ロシアのプーチン大統領は軍事用途のAI開発は「1940年代半ばから1950年代の旧ソ連の原爆やミサイル開発と同レベル」と発言したほか、中国の習近平主席も人民解放軍との会合で「AIの軍事利用を強化する」と発言したと報じられている。

そして米国防総省は、AIが搭載された自律的な防衛システムの大規模な配備をすすめていて、2025年にはインド太平洋地域に無人機や無人艇が配備されると報じられている。

現在、米政府はAI開発に欠かせない最先端の半導体や同製造装置について、中国への輸出を厳しく制限しているが、ここにきて規制対象を拡大するなど、対中輸出規制を強化する動きが伝えられている。

また、世界で流通する先端半導体のほとんどを受託製造する台湾のTSMCは、金門海峡を挟み中国本土と至近距離にある台湾から、製造拠点を日本、米国、欧州などに分散させる動きを強めている。

こうした一連の動きは経済的な理由もさることながら、米国を中心とする西側諸国の安全保障戦略の一環として行なわれており、極東地域の地政学リスクを踏まえた動きと言えそうだ。

そう考えると、GAFAMを筆頭にあまたのベンチャー企業まで巻き込んだ米国のAI開発は、かつてのアポロ計画(民間用途ならロケット、軍事用途ならミサイル)がそうであったように、安全保障に直結する国家プロジェクトであり、引くに引けない世界の覇権争いの「最前線」なのかもしれない。

このため、AI開発は今後加速こそすれ、減速することは考えにくい。そんな「どうにもとまらない」AI開発をリードする関連企業は、エヌビディアや他のAI関連企業のこれまでの実績が示す通り、これからも「桁違いの利益」をたたき出す可能性がありそうだ。

AIという「魔性の杖」

「破壊的なイノベーション」といわれるAIの「破壊的」たる所以は、その副作用の大きさにある。

欧州議会はその報告書の中で、AIが労働生産性の向上などを通じて経済成長に貢献すると同時に、
(1)富と情報を独占する超巨大企業の出現、
(2)先進国と新興国の格差の固定化と拡大、
(3)ITスキルを持たない人の雇用の不安定化、そして
(4)貧富の拡大と税収減、といった諸問題への懸念を表明している。

■AI革命の加速で修羅場と化す私たちの世界

社会における所得の不平等さを測る代表的な指標に「ジニ係数」がある。米国ではこの「ジニ係数」がこれまで一貫して上昇傾向にあって、社会の安定を損なう「しきい値」とされる40を上回って推移している。

例えば、「ジニ係数の50超え」が常態化しているコロンビアでは(図表3)、格差の拡大と分断が進んだ結果、政情不安が広がるとともに、治安は極めて厳しい状況にある。

このため、日本政府はコロンビア全土にレベル1以上の「渡航注意」を、そして一部地域にはレベル3の「渡航中止勧告」を出している。

今後のAI革命の加速により、米国内外での「格差の拡大」や「分断」が更に進むことになると、たとえAI開発で勝利したとしても、それに伴う副作用が社会全体に重くのしかかってくることとなるかもしれない。

莫大な富の偏在、情報の独占、そして圧倒的な軍事力をもたらす、まさに「魔性の杖」ともいうべきAIは、わたしたちの世界に様々な軋轢をもたらす可能性が否定できない。

このため、AI開発はその弊害を懸念した政治的な動きによる規制や揺り戻しといった「うねり」に見舞われつつ、長期的には大きな成長を遂げていくと考えておいた方がいいだろう。

■ネット株に学ぶ、今後のAI関連株の展望

そう考えると、今後のAI投資はかつてのインターネット関連株がそうであったように、ビジネスモデル、テクノロジー、企業がたとえ「本物」であったとしても、スピード最優先で先走ることが常のマーケットにあっては、「バブルと背中合わせ」の状態にあって、株価の大きな上下動から逃れることは難しいように思われる。

1997年5月に上場したアマゾンは、1990年代後半のネットバブルに乗り、99年12月には上場初値の約75.3倍に上昇した。

しかし、バブル崩壊後は大きく値を下げ、2001年10月にはバブル期の最高値の20分の1に暴落。このため、一時は蚊帳の外に置かれた感さえあったアマゾン株だが、本業の好調が改めて評価されるようになると株価は反転を始め、実に9年越しでバブル期の高値を更新する。

その後は、扱い品目の拡大、海外展開、動画配信、クラウドサービスの展開などを通じてプラットフォーマーとしての確固たる地位を築き、今年7月8日にはバブル後安値の731倍、初値の2683倍まで上昇している(図表4)。

■AI関連株の今後についても波乱万丈の展開は免れないと想定

ちなみに、バブル後の安値を脱してからの長期上昇相場にあっても、2008年のリーマンショックや2022年のハイテク株の調整局面などでは、株価はあっという間に半値以下に下落している。

こうしたハイテク株の値動きを見るにつけ、AI関連株の今後についても波乱万丈の展開は免れないと想定できる。

仮に、短期的な株価の値動きに気を取られていたら、こうしたハイテク株の驚異的な上昇相場の恩恵にあずかることは難しかったのではないか。

というのも、長い目で見ればわかりやすい大きな上昇トレンドに見えても、その過程では心躍るような上昇や、ぞっとするような下げがちりばめられていて、とても心穏やかに投資を続けることが難しいからだ。

こうした経験に学ぶなら、AI関連株を投資対象として考える際は、短期売買ではなく腰の据わった長期投資を念頭にして検討することに徹するべきだろう。

例えば、短期的な値動きに心を乱されにくい「積立投資」のような手法を使い投資の時間分散を図り、大きな振れ幅を許容しつつ心穏やかに資産形成を続ける「鷹揚(おうよう)な姿勢」こそが大切と言えそうだ。

まとめとして

トルストイは著作「イワンの馬鹿」の中で、イワンの兄弟たちが悪魔からもらった魔法の道具で手に入れた黄金や軍隊を使って国王の座を手にした後、己の強欲さゆえに身を亡ぼす姿をシニカルに描いている。

現代の「魔性の杖」ともいうべきAIは、開発競争で勝利した者に莫大な富、圧倒的な軍事力、そして世界の覇権すらもたらす可能性がある。

しかし、その副作用の大きさもあって、AI関連株の先行きは波乱万丈なものとなるのではないか。このため、AIという「投資テーマ」に注目するのであれば、物語の最後には全てを手に入れた「お人好しのイワン」のように、目先にとらわれない「おおらかな投資姿勢」こそが大切なのかもしれない。

◎個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

関連情報
http://www.smd-am.co.jp

構成/清水眞希

 

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