セクパワ上司のトンデモナイ反論
▼ ブスって言った?
セクパワ上司
「ちょっと待ってください!ブスは言ってません」
Xさん
「いえ、言われました。職員会議のあとに行った飲食店の中で『ブスのぶりっ子は見るにたえない』と言われました……」
―― 裁判所さん、どちらを信用しますか?
裁判所
「Xさんを信用します。ブス発言はあった、と認定します。Xさんの発言は具体的で信用性が高いからです」
セクパワ上司
「ちょっと待ってください!私の考えをお伝えします。私は【個人の努力によって差が出る】体型への発言は許されると考えていますが、さすがに【先天性のもの】である容貌に関する発言は許されないという考えの持ち主です。なので「ブス」発言などしないように心掛けているので、言ってないと思います」
裁判所
「いやいや……その考え自体不合理なのよ。【個人の努力によって差が出る】体型への発言なら許される……わけないじゃない!出ておゆき!」
この上司、単細胞ですよね。こんなことよく法廷で発言しましたよね。
セクパワ上司
「ちょっと待ってください!『おばさん』『(お)デブ』などの発言は、Xさんに精神的苦痛を与えるものではなかったんです」
―― は?どういうことですか?
セクパワ上司
「私とXさんの関係性は良好でしたし、Xさん自身が自虐的に笑いをとるキャラだったからです」
―― 関係が良好なのに訴えられてるやん。裁判所さん、いかがですか?
裁判所
「シャラップですね。上司が提出するメールなどの証拠を見たんですが、特別に関係が良好とは認定できませんね。上司と部下の通常のやりとりです。あと、仮に関係が良好であって、Xさん本人が自虐的に笑いをとっていたとしても侮辱的発言が正当化されるわけではありません!」
というわけで、侮辱発言は不法行為と判断されました。
▼ パワハラ
裁判所
「ノートPCを使っている時に上司から突然閉じられることは、部下に相当な心理的負荷を生じさせるものだから、よほどの必要性がなければ許されない。今回、そんな必要性はなかった」
裁判所
「あと、セクパワ上司はかなり感情的になっていて『てめぇの態度なんだんだよ!』という発言に結びついたと推認できるが、そんな強い口調で発言する必要性も認められない」
というわけで、パワハラ行為も不法行為と判断されました。
▼ 慰謝料額
Xさんは「適応障害になった」と主張して300万円の慰謝料を請求してましたが、裁判所はセクハラ・パワハラと適応障害との因果関係を認めず、50万円という金額になりました。
―― なぜ、50万円と認定したのでしょうか?Xさんが請求した金額は認められませんでしたが、一般的なセクハラ・パワハラの慰謝料と比較するとけっこう高い印象を受けますが。
裁判所
「セクパワ上司はXさんに対して侮辱的発言を繰り返しており、しかも!裁判における上司の態度に照らせば何ら問題意識もなく侮辱的発言をしていたと認められる。この上司は本件学校内で最も上位の地位にあったことも考慮すれば、Xさんは逃れる術のない精神的苦痛を受け続けていたといえる。さらにこの上司の発言が一因となってXさんが勤務を続けられなくなっていることなどが理由です」
上司の問題意識が低かったことも、慰謝料が増額した一因となりました。
さいごに
ブス発言については録音などの証拠がなかったようですが、裁判所はXさんを信用しました。セクパワ上司の裁判所での態度などを見て「このセクパワ上司なら言ってるよな」との判断になったのだと思います。
今回のようにうまくいくとは限らないので、セクハラ・パワハラを受けている方は録音をオススメします。録音は最強です。録音がとれなければ、セクハラ・パワハラを受けた直後、誰かにLINEをしておくのも手です。裁判所がそのLINEを証拠としてセクハラを認定した事件があります(東京地裁 R2.3.3)
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取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。法律コンテンツを作ることが専門の弁護士。
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