■連載/ヒット商品開発秘話
発熱時などに使う氷のうの冷たさを魔法瓶の技術で長時間キープし、そのうえ手軽に持ち運べるようにしたアイテムが売れている。それはピーコック魔法瓶工業が2021年5月に発売した『アイスパック』シリーズ。これまでにシリーズ累計で約20万個が出荷されている。
『アイスパック』シリーズは布製氷のうと冷たさキープホルダー、製氷用ケースで構成される「アイスパック」と、シリコーン氷のうと冷たさキープホルダーで構成される「ミニアイスパック」の2つをラインアップ。スポーツ後のアイシングや熱中症対策に使える。
一番の売れ筋である「ミニアイスパック」。幅5.8×奥行5.8×高さ17.0(cm)とカバンのすき間に収まりやすいサイズで、通勤通学時の熱中症対策に最適。カラーはブルー、ホワイト、ベージュの3色で価格は2728円(公式オンラインショップ。以下同)
最初に発売された「アイスパック」。幅7.9×奥行7.5×高さ16.9(cm)で、熱中症対策はもちろんのことスポーツ時にアイシングにも最適。カラーはブルーグリーンとアッシュホワイトの2色で価格は4378円
ゴルフ好きの社長から得た商品化のヒント
誕生の背景には、熱中症のリスクが年々拡大していることがあった。
「私たちは競争の激化やECサイトの台頭などにより、それまでの画一的な商品開発から消費者目線での商品開発にシフトし始めました。新しい変化が起きているところで使える商品をつくることを考えるようになったのですが、その際重視しているのが、強みである魔法瓶の技術が生かせることです」
このように話すのは、事業本部広報・マーケティング部 部長の木村剛治さん。 魔法瓶の技術と氷のうを組み合わせるアイデアは、同社の代表取締役社長である山中千佳さんが大のゴルフ好きであるからことから得た。木村さんは次のように話す。
「ゴルフ場では氷と氷のうをサービスで提供してくれるところが結構あります。しかし氷のうに氷を入れてもハーフまで持たず、ずっと前から社長に『何とかして』と言われてきました」
まず「アイスパック」を企画。企画したものの、類似商品はなく売れるかどうかの判断ができないことから、木村さんも自信が持てなかった。
それでも商品化することにしたのは、山中さんが商品企画を高く評価したからであった。木村さんは次のように話す。
「当社ではつくりたい商品があれば社長に直接、『つくらせてほしい』とお願いし、OKがもらえれば商品化できます。新規性などアイデアの中身で商品化するかどうかを決めます」
山中さんは「ゴルフに持って行くには小さいけど、使いたい」と評価。使いたいシーンがイメージできていたこともあり商品化にゴーサインが出た。
氷のうの素材を急きょ見直す
氷のうはオリジナルでつくったが、一般的なサイズで示すとSサイズ(直径16センチメートル)に相当する。同社で設計し、中国の協力工場で氷のうをつくれるところを探してもらい、製造をお願いした。
この氷のうを収めるのが、魔法瓶構造を採用した冷たさキープホルダー。内側と外側の間にある真空層が断熱し冷たさをキープする。保冷効果は高く、15時間近くは冷たさが持続することが実験から確認できている。
冷たさキープホルダーを使った場合と使わなかった場合での凍らせた氷のうの温度変化の比較。凍らせた氷のうを冷たさキープホルダーにセットしたままにしておくと、ヒンヤリが長時間持続することが確認できている。「ミニアイスパック」の前品番(現行品番の同等品)で検証
冷たさキープホルダーは保冷缶ホルダーとしての活用も可能。500mlのロング缶が収まる。氷のうだけで勝負できるかどうかが不安だったことから盛り込んだ。
いっぽう、山中さんからは「氷のうを凍らせて使いたい」と要望された。ゴルフの時に凍らせた氷のうを首筋に当てて使いたいからであった。水を入れた氷のうを冷たさキープホルダーに入る大きさで凍らせるために、製氷用ケースを用意することにした。
「アイスパック」の構成。左上から時計回りに保冷缶ホルダー、製氷用ケース、キャップ、氷のうとなっている
「アイスパック」は2021年2月に発売する予定で開発が順調に進んでいた。2月は夏向け商品を発売する時季。ところが、発売を目前に控えたところで問題が発生する。氷のうに使っていたポリ塩化ビニルが使えなくなったのである。
「商品の情報を営業部門に伝えた時に、ポリ塩化ビニルを使ったものは取り扱わない小売店があることを指摘されました。開発と営業の社内コミュニケーションがうまくいっていませんでした」
こう振り返る木村さん。工場から推奨されたポリエステルを使うことにした。