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「世界を節水する」水ですすぐだけで汚れを落とせる食器を開発したデザイン会社の思い

2024.08.08

水ですすぐだけで汚れを落とせる『メリオールデザイン』の食器。発売するのは東大阪のデザイン会社 DG TAKANO。同社は国内大手レストランチェーンの約80%が導入しているという節水ノズル『Bubble 90』も開発している。食器メーカーではなくデザイン会社がなぜお皿を? 疑問を解きたくて申し込んだ取材に応じてくれたのが、社長の高野雅彰さん。相次ぐワクワクするような発言から「世界中の水不足を救う」という壮大な構想へと展開していった60分インタビューをまとめました!

DG TAKANO代表取締役 高野雅彰さん 

編集部 連日の猛暑。忙しいビジネスパーソンもしっかり食事をとって体力維持に努めたいものですが、食事が終わってからの食器洗いは面倒。洗剤もスポンジも使わず、水ですすぐだけでいい。しかも除菌もできるメリオールの皿、画期的過ぎます。

高野さん 朝食の後、使った皿をシンクに入れたまま仕事に出かけるという方もいるのではないでしょうか。そんな忙しい方から、このメリオールの皿は朝食にぴったり、と言われています。疲れて帰宅した日は、シンクの中の汚れたままの皿を見てうんざりしていたけど、メリオールを使うようになって、それがなくなった、という声も。

編集部 清潔感のある白いシンプルなお皿です。なぜ、それが可能なのでしょう。

高野さん 世界で初めての特殊な「表面改質技術」によるものです。

編集部 表面にコーティングがしてあるということ?

高野さん コーティングではなく、表面自体を変えてあるので「表面改質」という言い方をしています。皿の表面にナノレベルの芝生を生やしているようなイメージです。このナノレベルの芝生を介して水が皿と汚れの間に入り込み、汚れを浮かび上がらせ、流し落としてしまう。汚れも残さず取り除き、除菌されたことになるのです。

汚れと食器に間に水が入り込むことで、汚れが浮かびあがり、落ちにくい油汚れも洗剤無しで落とすことができる。

ブラックライトでの実験。ラー油を垂らしたメリオール(左)と他社製(右)を水で7秒すすいで比較。メリオールは油膜がきれいに除かれている。画像提供:DG TAKANO

編集部 発売は昨年5月ですが、これまで、どういった方が購入なさっていますか。

高野さん ご自宅用はもちろん、結婚祝いなどのプレゼントだったり、一人暮らしをしているお子様のために親御さんが買って送られたり。逆のパターンで、離れて暮らすご高齢のご両親に送るという方もいらっしゃいます。

面白いケースもたくさんあって。例えば、料理と食後の食器洗いをご夫婦で役割分担をしていて、食器洗いを担当している男性がメリオールを注文してくださった。食器洗いを手短に済ませたかったようです(笑)。そんな風に、今まで食器を買ったこともないような方もお求めくださっているようなので、新たな市場を作ったんだな、という手応えも感じています。

朝食の後片付けも、水ですすぐだけなので手早く済ますことができる。忙しいビジネスパーソンからも高評価。写真提供:DG TAKANO

「誰かの困りごとを解決すればお金になる」が発想の元

編集部 高野さん率いるDG TAKANOは、蛇口に取り付けるだけで水の使用量を最大95%削減するという節水ノズル Bubble 90を発売する会社として、レストランや居酒屋などの飲食店チェーン業界では知る人ぞ知る存在。これに対し、水ですすぐだけのこのメリオールの皿は「B to C」の商品なので、わたしたちにも身近になりました。ぜひとも、DG TAKANO誕生のヒストリーをお聞かせください。

高野さん 私は東大阪の町工場の三代目として生まれました。うちは金属の精密加工ができる工場で、二代目の父は業務用ガスコンロのコックを作っていました。子供の頃には工場で遊んだりもしていましたが、中学に入ると同時にバブルがはじけて、周りでは技術力のある会社もどんどん廃業していった。そういうのを見ていて、家業を継ぎたくないと思うようになったのです。だからといって、僕が働きたいと思う会社は一社もなかった。だったら、働きたいと思う会社を自分で作るしかない、と。何をするかは決めていませんでしたが、社長になることたけは決めていました。

大学を卒業して、いきなり起業というわけにはいきませんから、ITベンシャー系の会社に入りました。これからは何をするにもITの知識はいるとも思ったからです。

編集部 そこで何の事業をするかを考えていたわけですね。

高野さん ビジネスって基本的に、誰かの困りごとを解決すればお金になるもので、困っている人が多ければ多いほど、また、困りごとが深ければ深いほど、それを解決したらお金になる。そうシンプルに考え、じゃあ世界は何に困っているのかを調べました。貧困問題など、いろいろありました。これはひとりでは無理、これも無理、と消去しながら見ていく困りごとの中で、世界的な水不足の問題があることがわかりました。それで、水を作ることはできないけれど、“節水する側”としてなら何かできるのでは、と。

で、いよいよ起業することになった時、父親が「何かやるんなら手伝うよ」と言ってくれたんです。それで、もしかしたら工場の技術を使えるかもと思いました。

編集部  お父さまから技術を学ぶことにしたのですか?

高野さん いえ。たまたま工場に1台、使っていない機械があったんです。プログラムを組めばどんな形のものでも金属を削ることができ、ヨーロッパでは人工関節の製造にも使われているかなり高価な複合旋盤械。父はガスの部品を作るために買ったのですが、使うのがめちゃくちゃ難しくて、放ったらかしにしてあったのです。じゃ、この機械を使って節水ノズルを作ろう、と。ところが、その機械のメーカーの営業の人からは、独学だったら3年かかっても無理、と言われてしまったんです。そんなに待っていられません!

僕は、大学は経済学部ですが頭は理系。プログラムとかは高校までの物理の知識をフル稼働して、1年でBubble 90を完成させました。

蛇口から出る水の玉を飛ばして汚れを直撃

編集部 まさにスタートアップのスピード感です。Bubble 90はどういった機能を持つのか、また、どういう発想で生まれたのかを教えてください。

高野さん ふつう蛇口をひねったら水の塊が柱となって落ちてきます。皿を洗うとき、落ちてきた最初の水は汚れに直撃しますが、それ以降の水のほとんどは、皿の上にできた水の膜の上を滑って流れていってしまう。滑っていった水は、ちゃんと洗浄に使われていないのです。

これって、下水にお金を捨てているのと同じじゃないか。すごくもったいない。それで、洗浄力を維持、もしくは洗浄力を上げつつ節水する。そのためにはどうしたらいいのか、と考えました。蛇口から出る水を水の玉にして飛ばして汚れを直撃する。最後の一滴まで直撃させることができれば、無駄な水は使わないことになり、節水と洗浄を両立させられるはず。

こうして完成したのが、蛇口に接続するノズル Bubble 90です。ほとんどの蛇口にシームレスに取り付けることができ、しかも、電気など、他のエネルギーを使うこともありません。

水の玉にして飛ばして汚れを直撃する

編集部 専門家の評価はどうだったのでしょう。

高野さん 東京大学の水の先生に見ていただいたり、いくつかの大企業にもテストをしてもらいました。評価はとても高かったです。2009年には名だたる企業を抑えて『”超”モノづくり部門大賞』でグランプリを獲得したのですが、受賞理由として「世界の水資源の有効活用に貢献できる」「日本人にしか作れなかっただろう」という評価をいただきました。

編集部 では、そこからは順調に?

高野さん 5年間売れませんでした。いろいろな企業に営業に行きましたが、日本は水不足でもないし、環境のためにお金をつかう会社はなかったんです。当時は大企業でさえそうでした。「日本って、こんなに環境に興味がないんだ」とショックを受けました。借金も莫大になり、ほんとうに苦労しました。

編集部 今では大ヒット商品です。そこから盛り返すことができたのは、なぜでしょう。

高野さん 飲食店を経営している方に、気に入らなかったら引き上げるので使ってみてください、とお願いしたんです。彼は持っていた数十店舗の内の1店舗で使ってくれた。そうしたら、2カ月後にその店の水道代が激減。全店舗で使いたいと言ってくれたんです。それで営業先をレストランチェーンなどの飲食店業界に方向転換。そうしたら、売上げが伸びていって、首の皮一枚の倒産寸前状態から立ち直りました。

編集部 それまでは社員を抱えて大変だったのですね。

高野さん いえ、2010年にDG TAKANOを起業しましたが、最初の5年間は僕1人でした。現在は25名の優秀なメンバーがいてくれますが。

「デザイン思考」だからこそ洗浄ノズルの次は食器へ

編集部 「世界を節水する」と謳うDG TAKANOですが、社名のDGとは?

高野さん 「デザイナーズ ギルド」のDGです。

日本で、一般的にデザインというと、いいデザインだねというように外見的なフォルムをつくる「意匠」のことと思われています。でも、本来は設計、企画や構想、目的といった意味なんです。つまり、デザイナーはコンセプトや戦略を立てる人。デザイナーは、自分がやりたいことがあって、それに必要な人を集めます。スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのような人がデザイナーです。

僕は、日本では珍しいデザイナーだと思っています。各方面のプロフェッショナルたちを集めて、ギルドのような協力体となる組織をつくりたいと思い、『DG TAKANO』とネーミングしました。

編集部 それって最近ビジネス・シーンでよく使われる「デザイン思考」ではないのでしょうか。

高野さん そうです。でも僕が起業したときは、そんな言葉もない時代でした。周りから「夢みたいなことを」って、よく言われました。

編集部  では、デザイン会社のDG TAKANOがBubble 90の次にメルオールデザインの食器を作ったのはなぜでしょう。

高野さん 日本人の物作りの視点だと、自分たちの技術をもって何を作ろうかという思考になります。なので、蛇口に付けるノズルを開発して作ったら、次は、そのセットとしてシンクを作ろうと思うでしょう。でも、デザイン会社の場合は‥‥、何の課題を解決させようとしているのですか? 水不足の問題を解決するために節水ノズルを作ったのですね。では、その相方は? 洗われる側のお皿です、と考えていくのです。

その発想で、次は汚れが簡単に落ちるお皿にしようと8年前くらいには決めていました。

DG TAKANO代表取締役 高野雅彰さん

編集部 開発は苦労されたのでしょうか?

高野さん とても大変でした。まずは協力してくれる会社を見つけなければいけない。一緒に共同で開発しませんか、と誘っても、売れるか売れないが分からないので、ほとんどの会社から断られる。やっとA社を見つけてゼロからの開発を始めても、7合目まで行ったところで、これはダメだと判断せざるを得ないこともある。そうすると、別のB社を探して、またゼロからのスタートをするけど、またダメで…。その繰り返しで、なかなか一直線にゴールまでは行けませんでした。でも、7合目までいったA社との開発は、今回は使えなかったけれど別のタイミングで使えるかもしれません。

編集部 ゼロに戻ってしまったわけではないのですね。そういえば、この6月15日から、「メリオールデザインシート」というものが発売されてます。

高野さん 汚れ落ちの機能を新品のように復活させるためのシートです。ウェットティッシュのようなシートで、最近、メリオールデザインの食器の汚れが落ちにくくなったかな、と感じたら、さっと拭いて乾かすだけ。

本来は メリオールデザインの食器のために開発したのですが、テストをしてみたら、他の陶磁器の食器でも8割程度の割合で性能が確認できました。全てではありませんが、ご自宅にある食器にもメリオールのような効果が期待できるのです。

画像提供:DG TAKANO

さっとふくだけでメリオールデザインの食器の汚れ落ち機能を回復できるシート。お皿2枚用とお皿4枚用を販売。

実は、2月に能登半島地震で被災した方が、「水が自由に使えない避難生活の中で少ない水で汚れが落ちるメリオールデザインの食器が役立っている」、とSNSで発信してくださったのです。断水の中、食事には紙皿を使うのでゴミが増えるばかり。そんな中でメリオールデザインの食器は、ペットボトルで約12cmの水でカレーなどの油汚れも落とせた、というのです。

なので、このメリオールデザインシートで普段使っているお皿にも確実にメリオールの機能を付加させることができるようになれば、災害時などの水不足の備えに、このシートの「備蓄」を薦められるかもしれないな、と考えています。

サウジアラビアで始める世界の環境問題を解決するインフラ計画

編集部  発売してからの展開が、どんどん広がっています。

高野さん そうなんです。4月の中旬にはイタリアのミラノサローネ(世界最大級の家具・インテリアの見本市)に出展したのですが、ブースに来てくれたミラノ在住の医師の方が、環境にすごくいい、と興味を持ってくださいました。日本に戻りしばらくしてから、その方から長いメールが届きました。そこには、息子さんがアレルギーを持っているのだけど、メリオールの食器を使っていたら息子さんの飲む薬の量が減った、と書いてあったのです。洗剤を使わないことが関係しているのかもしれない、と。

アレルギーで制限された人生を送っている人はたくさんいます。節水を目的に開発したメリオールの食器ですが、もしかしたら「予防医療」にも効果を発揮するのかもしれません。

編集部 これから可能性の広がることも山のようにあるわけですね。最後に、デザイナー高野さん率いる『DG TAKANO』が直近でやろうとしていることが具体的にあったら、お訊かせいただけますでしょうか。

DG TAKANO代表取締役 高野雅彰さん

高野さん サウジアラビアの財閥企業と合弁会社をつくる話が進んでいます。

サウジアラビアは今、国を挙げての大改革中で、世界中から最新の技術を集めて、砂漠地帯に世界一エコな街を作る計画があります。そこで僕らも、この国の水問題に取り組んでいているのです。

DG TAKANOが提案しているのが、Bubble 90を組み込んだ世界一の水有効活用システムを備えたシンク。それは、食器を洗った後の台所排水や、食べ残しなどをシンクから直結したパイプでバイオタンクに流して、肥料や飼料に再生する。その肥料で野菜を作ったり、植物を育てれば、砂漠の緑化にも繋がります。環境問題って水不足だけでなく、食料問題とかエネルギー問題もつながっています。これを全部まとめて解決できるシンク、これをサウジアラビアでテストすることが目前の目標になっています。

編集部 世界の水不足を救う、そして、世界の環境問題を解決するということですね。見守らせていただきます。そして、新しい成果について、またインタビューをさせてください。

高野雅彰さん
たかの・まさあき。DG TAKANO代表取締役 1978年大阪府東大阪市生まれ。神戸大学経済学部を卒業後、IT企業に就職し3年で独立。高い節水率と洗浄力を兼ね備えた節水ノズル「Bubble90」を開発し、2009年「”超”モノづくり部品大賞」でグランプリ受賞。2010年に社会課題や環境問題等を解決するデザイン会社 「DG TAKANO」を設立。2022年「サウジ・日本ビジョン2030ビジネスフォーラム」に日本代表企業として招待され、世界の水不足の解決に取組んでいる。2023年に、洗剤を使用せず、水ですすぐだけで汚れや細菌を落とす食器meliordesign(メリオールデザイン)を開発し、日経クロストレンド「マーケター・オブ・ザ・イヤー2023」優秀賞、2023年度省エネ大賞<製品・ビジネスモデル部門>において、「審査委員会特別賞」を受賞。 経済産業省J-Startup企業、日経ビジネス『世界を動かす日本人50』、ForbesJAPAN「ChatGPT後の日本の勝ち方10」等に選出されている。

●関連情報
https://meliordesign.com
https://dgtakano.co.jp

NEWS!

最大節水率95%の業務用ノズル『バブル90』を家庭用にアレンジした蛇口が今年の1月に発表されました。詳しくは、こちら

画像提供:DG TAKANO

取材・文/堀けいこ 撮影/小平尚典

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