点字は私たちの日常に溢れている!だけどまだ足りない…
点字。言うまでもなく、視覚に障がいを持っている方が指先の触覚を頼りに読み取ることのできる文字情報である。
私たち健常者は通常、文字は視覚から得た情報を元に読み取っている。
しかし視覚に障がいがある場合はこれが難しいので、点字で情報を把握しなければならない。
近年では様々なガジェットが私たちに使いやすいように進化してきた。
7月に流通がスタートした新紙幣も、ユニバーサルデザインを意識した作りになっているという。
ただし、UIの進化はあくまでも健常者にとっての進化に留まるケースがまだまだ多く、本当に誰もが同じコンテンツの情報を共有するには至っていない。
“分かること“の大切さを教えてくれる、点字名刺という存在
点字は視力に難のある方にとっては、大変重要な情報力を有している。
近年はアナログが軽視される時代ではあるが、あくまでそれは目が見えている人にとっての価値観によるところが大きく、視覚に障がいを有する方にとっては、点字というのはとにかく大切な情報源となる。
その点字の認知度向上と、社会貢献を合わせたサービスを提供している施設がある。
それが埼玉県越谷市にある、就労継続支援B型事業所(福祉作業所)ココロスキップ。
ココロスキップでは、名刺に点字を入れるサービス、「点字名刺プロジェクト」を2007年から継続して提供している。
この点字名刺プロジェクトとは、希望者がココロスキップに名刺を送付すると、その名刺に点字で情報を付帯するというサービスになっている。
しかも、発注を経て名刺に点字を入れる作業は、実際にココロスキップに所属する視覚障がい者の方々が担うこととなり、収益から必要経費を除いた利益の全てが作業者に還元される仕組みになっている。
個人的にもこのサービスの成り立ちが気になった筆者は今回、ココロスキップの施設長である大政マミさんにお話を聞くことができた。
点字名刺の持つインパクトと社会的な意義についても聞き及ぶことができたので、ぜひ皆さまにも共有させていただきたい。
障がいを持つ人であっても働ける、納税ができる社会を目指して立ち上げたココロスキップ
松本 ウェブサイトによりますと、点字名刺プロジェクトは2007年の9月発足となっておりますが、ご苦労も多かったと推察するところです。
まず、点字名刺プロジェクトの立ち上げ経緯と、これまでの沿革を教えてください。
大政さん「障がい者雇用を増やしていきたい」その想いから、兄と一緒に株式会社ココロスキップを立ち上げました。なぜそのような考えを持つようになったかと言いますと、私のおじは交通事故に遭い、身体と脳に大きな損傷を負い障がい者となりました。
私が中学生の頃でしたが、その時の衝撃はかなり大きく、頭の片隅にずっと「人はいつ障がいを負うかは分からない」という考えがありました。
ただ、それを仕事に結びつけようという発想はなく、大学を卒業し資格試験を目指しておりましたが、挫折してしまい、自分の将来についてどのような仕事につくべきなのか悩んでおりました。また、精神的な不調も重なりとても辛い時期でした。
そんな時、引きこもりの人や障がいのある方々の仕事を創造することによって、新しいビジネスを立ち上げようという兄の提案がありました。
兄は、一般企業に就職することは出来るのですが、人とのコミュニケーションがとても苦手で長く続けられず、生きにくさをずっと感じていました。ですが、インターネットの普及により一人でも仕事ができるようになり、収入を得られるようになりました。
その利益を、ひきこもりや障がいによって仕事が出来ず、同じように社会での生きにくさを感じている方のために還元しようと、障がい者雇用を増やして行きたいと考えるようになりました。
その想いに賛同し、自分自身も仕事についての悩みがある中で、充実した仕事をしたいという思いに障がいの有無は関係ない、障がいのある方も生き生きと輝ける場所を探したいと思っていると考えるようになりました。
兄にとっては、精神的な不調で苦しんでいる妹が、人から必要とされる立場になることによって症状が改善すればとの思いもあったようです。
2007年3月に株式会社ココロスキップを立ち上げ、初めは障がい者施設で制作された授産製品を通販で売るという事業と、点字名刺プロジェクトの2つを考えていました。
「株式会社」として始めたのは、障がいのある方が税金をもらう立場ではなく、税金を納める立場になることによって潜在的な偏見が払拭されるのではないかという理念があったからです。
点字名刺を始めようと思ったのは、障がい者雇用を増やして行こうと考えた際に、「福祉資本主義」という理念を掲げておりまして、障がいがあるからこそ価値のある商品やサービスを生み出すことによって、障がい者雇用を生み出し、そこに健常者と呼ばれる方々が関わることによって、健常者の雇用も生み出していこうと考えておりました。
点字名刺プロジェクトはまさに福祉資本主義を実現することができるプロジェクトで、視覚障がい者の方、当事者の方が点字を刻印するからこそそこに付加価値が生み出され、魅力あるサービスとなっております。
一方、「資本主義」の下では、どうしても能力や効率を求められてしまいます。そこで活躍できれば問題ないのですが、活躍できない方は仕事がなく、家にひきこもってしまうことになってしまいます。
福祉資本主義は、障がいがあるからこそ雇用が生まれるので、働く機会を提供することが出来ます。
2007年の9月に点字名刺プロジェクトをスタートさせましたが、最初はなかなか注文が来ず、初めて注文が入った日は本当に嬉しかったことを覚えています。
その後、なかなか注文数が取れず、地域の視覚障がい者の方に来ていただきお仕事をしていただいておりましたが、すぐに仕事がなくなってしまい帰りの送迎をすることも多かったです。
ですが徐々に点字サービスを経たお名刺がなくなると、再度点字刻印のご依頼をくださる常連のお客様も増え、お客様がお客様へ点字名刺の紹介をしてくださることもあり、徐々に注文数が増えていきました。