■連載/ヒット商品開発秘話
日本列島は7月に入り猛暑に直面した。まだ梅雨が明けていない7月7日の静岡市で最高気温40℃を記録。うんざりすると同時に梅雨明け後が思いやられた。
猛暑対策のさらなる強化が欠かせなくなった2024年夏。男性も外出する時は日傘をさすことを真剣に考えるべき時が来たといってもいい。
日傘といえば女性が使うイメージが強い中、男性向け日傘として売上を伸ばしているのが、ワールドパーティーが2021年3月に発売した晴雨兼用傘『Wpc. IZA(ダブリュピーシーイーザ)』である。
『Wpc. IZA』は、男性を意識したデザインと機能を採用。1モデル1万本売れればヒットと言われる傘業界で、2024年7月時点の販売数がシリーズ累計100万本を超えている。
現在6アイテム販売中の傘の中で一番の売れ筋が、たたむと手のひらサイズになる「コンパクト」。カラーは写真のオフホワイトのほか、ベージュ、グレー、ネイビー、ブラック、ブラウン(限定)を揃えている。価格は3630円(Wpc.公式オンラインストア。以下同)
求められる機能が女性向けと異なる男性向け日傘
企画立案したのは発売の半年ほど前。背景には、メンズコスメの充実、環境省による日傘の推奨、メンズ向け日傘がなかった、という3点があった。開発を担当した執行役員営業本部長Wpc. 事業部長の角谷圭一朗氏は「めちゃくちゃ早くつくりました」と振り返り、こう続ける。
「頭の中では以前から男性向け日傘を構想していましたが、市場ができていないので売上が見込めませんでした。しかし、自分たちで市場をつくっていこうと決意してからは、スピード感を持って開発を進めることにしました。当社は春夏と秋冬の年2回、新商品を発売しています。春夏向けは2月や3月に新商品を発売しているので、最初から3月に発売することを決めていました」
ワールドパーティー
執行役員営業本部長Wpc. 事業部長
角谷圭一朗氏
男性向けの日傘はデザイン以外に女性向けと異なる点があるのか? 角谷氏によれば、男性向けは女性向けのように日焼けや美白よりも暑さ対策が重要になるという。これは同社のアンケート調査から明らかになったことであった。
「男性向けは女性向けのように日焼け対策や美白訴求よりも熱中症対策のために熱をカットして涼しくなることを訴求できる機能が求められていました」
遮光率100%を実現する高度な品質管理
暑さ対策として必須と位置づけたのが光と熱のカット。カギを握ったのは生地裏面へのポリウレタン樹脂のコーティングだった。薄く何層もコーティングし物理的に光と熱をシャットアウトする。生地表面の色が淡ければ淡いほどコーティングを重ねていくという。
これにより『Wpc. IZA』は遮光率100%、UVカット率100%、UPF50+を実現した。UPFとは繊維製品の紫外線遮蔽性能を示す紫外線保護指数のことで、UPF50+は最高値に当たる。
『Wpc. IZA』の遮熱効果。人工太陽照明灯を30分間、『Wpc. IZA』と一般的な日傘に照射し30分間の温度変化を測定したところ、『Wpc. IZA』は一般的な日傘より約31.9℃温度上昇を抑えることが確認できた
製造に当たっては高度な品質管理が要求される。そのため遮光率100%を堂々と謳うことが可能な生地をつくることができるところは非常に限られている。角谷氏は次のように話す。
「遮光率100%を謳える、安定した品質を保つための技術や品質管理体制が整っている会社は少ないです。つくる人によって品質のバラつきが発生しやすく、遮光率100%と謳っていても実際はそうでないことも結構あります」
ポリウレタン樹脂を薄くムラなく塗り、乾かした後にまた塗ることを繰り返す。作業自体は難しくないが、乾燥時間はその日の天気に応じて変わるので技術者の経験に頼ることころが大きい。その上、傘の生地は1000メートル単位でつくるので品質のバラつきが生じやすいところがあった。
しかし傘業界の中でも多くの傘をつくっている同社は、高い技術と豊富な経験を有している人材が豊富で、日本と中国の両方で厳格な品質管理体制を構築。商品の品質担保に自信があり、遮光率100%と言い切ることができた。