複雑で断片的なビジュアルコミュニケーションツールの課題
――絵が描けない人でもアーティストデザイナーになれるというのは、新しい文化の誕生という意味でも、大変期待できるものですね!未来に希望を与えるツールですが、ビジュアルコミュニケーションツールにおけるもっとも大きな業界の課題とは何でしょうか?その課題をクリアするために行わなければならないことは何ですか?
カーンさん かつてのデザインツール市場は断片的で複雑なものでした。デザイン経験のない人が使い始めるには、市場にあふれる多種多様なアプリや製品に圧倒されてしまうかもしれません。そして、それらは非常に高価であることも言うまでもありません。
私たちはこの課題を認識し、2013年にCanvaを立ち上げました。私たちのミッションは、デザインツールを単一の相互運用可能なプラットフォームに統合し、すべての人のためにデザインを民主化することです。
私たちは企業やブランドによるデザインを促進することに重点を移しており、日本のビジネスリーダーがビジュアルコミュニケーションツールに投資する際には、リアルタイムのコラボレーション、ワークフローの合理化、オールインワン機能が最優先事項であることを学びました。そのため、Canvaのような統一された相互運用可能なプラットフォームの存在がより重要になっています。
さらに、AIのような新しいテクノロジーは組織にとって課題にもなりえます。複雑なデザインツールがあふれかえっていたかつての時代と同じように、あらゆる種類のAIツールが市場に出回っており、これまでにAIツールを使用した経験がない人にとっては、順応していくのが難しい状況です。
そこで、すでに使用している製品に、AIのような新しい機能を統合することは、学習曲線に対処する1つの方法です。例えば、AIを搭載したツールスイートであるMagic Studioを立ち上げたとき、私たちは新しいAI機能を製品エクスペリエンスに深く組み込むようにしました。それにより、誰でも使えるほどシンプルで、個人のユーザーやチーム単位で大規模にコンテンツを作成するのにも必要な洗練された作りになっています。
オールインワンのコラボレーションプラットフォーム
――実際にコミュニケーションツールを開発・提供されているキャンバ社について伺います。どのようなサービスを提供しており、そのツールの特徴は何ですか?
カーンさん Canvaは、ドラッグ&ドロップのシンプルなユーザーインターフェイスを特徴とする、オールインワンのビジュアルコミュニケーションのコラボレーションプラットフォームです。10年前にCanvaを立ち上げたとき、私たちは一人ひとりにデザインする力を与えることに焦点を当てました。現在では、190カ国で1億9000万人以上の月間アクティブユーザーが利用し、日本語を含む100以上の言語に対応しています。
次の10年を迎えるにあたり、私たちは、チームや企業がコラボレーションを加速させ、大規模にオンブランドのコンテンツを作成する必要性が高まるにつれ、ビジュアルコミュニケーションに対する需要が高まっていることを目の当たりにしました。
私たちは、あらゆる組織のあらゆるチームに力を与えることが、世界にデザイン力を与えるというミッションに近づくと信じています。そこで2022年、ウェブサイト、ホワイトボード、ドキュメント、プレゼンテーションなどを含むビジュアルコミュニケーション製品スイートであるVisual Suiteを発表しました。 2023年には、Magic Studioと呼ばれるAIを搭載したツールスイートを発表し、つい先日には、複雑なセキュリティ、レポート、管理、ブランド管理を必要とする大規模組織向けに設計された新しいサブスクリプションサービスであるCanva Enterpriseを発表しました。
――現在、月間アクティブユーザーが1億9000万以上と圧倒的な強さを見せていますが、その大きな理由を教えてください。
カーンさん Canvaのユーザーコミュニティとチームが、この10年間の成長を支えてきました。Canvaでは2ステッププランという目標をかかげています。ステップ1は、世界で最も価値のある企業になること、ステップ2は、最も良いことをすることです。
現在、世界中に4,500人以上の社員がおり、全員が同じミッションに向かって働いています。常に革新を続け、コミュニティの声に耳を傾けることで、私たちはCanvaをグローバルなビジョンとローカルなマインドセットを持つ企業へと進化させることができました。
日本の学生がCanvaでプレゼンを作成する場合でも、起業家が最初のベンチャー企業を立ち上げる場合でも、Canvaには、ローカルのテンプレート、画像、イラストからホワイトボードのようなコラボレーション機能まで、お客様が必要とするものが揃っています。これにより、私たちは国際市場で急速に成長することができました。
成長のポイントはローカライゼーションに
――今現在の市場規模と、今後どの様に伸びて行くか、その可能性を教えてください。
カーンさん 世界190カ国で毎月1億9000万人以上のユーザーにご利用いただいており、全世界で250億以上のデザインがCanvaで作成されています。また、企業やチームでのCanvaの採用も急増しています。現在フォーチュン500社の95%以上がCanvaを利用しており、100万ドルの顧客契約の締結にも至りました。
また現在、世界中で65万以上の非営利団体と7000万人の教員と生徒に利用されています。日本でCanvaの教育コミュニティに参加している教員は現在3,000人を超えています。
私たちは、マーケットに沿ったキャンペーンやコンテンツ、パートナーシップを通じて、マーケットに根付いた取り組みにも注力しています。具体的に日本では、初のローカルブランドマーケティングキャンペーン である「Make It Unbelievable 」をローンチし、カンヌライオンズ2024にノミネートされました。
また、「いらすとや」やフォントメーカーのモリサワとのコンテンツ・パートナーシップを導入し、児童生徒向けのひらがな表示モードのオプションの追加などを行っています。私たちCanvaは、マーケットのニーズにマッチしたローカライゼーションに注力することで、より多くの日本のユーザーにデザインする力を与え続けることができると考えています。
――ありがとうございました。
インタビュー
Canva Japanカントリーマネージャー
カーン・シェンさん
2019年にCanvaに入社し、財務計画・分析、ビジネス提携、投資家向け広報を中心とした職務を歴任。その後、戦略・分析部門の責任者を経て、国際市場展開を拡大する部門に異動し、日本におけるCanvaの拡大をリード。Canva入社前は、モルガン・スタンレーで投資銀行家として活躍。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス&ポリティカル・サイエンスで国際経営学の理学修士号を取得。また、船乗り、パーマカルチャー・デザイナー、気候変動活動家でもある。
会社URL:https://www.canva.com/
文/柿川鮎子