ゲーム開発を取り巻く環境が大きく変化しています。
かつてのようにゲームが売れなくなり、開発プロジェクトの中止や見直し、方針転換を決める企業が相次いでいるのです。
この影響を真正面から受けているのがゲームの受託開発会社。安定した収益は望めるものの、プロジェクトそのものの消失は大損害となります。リスクヘッジに向けた動きが加速しています。
ゲーム開発には受託会社の存在が欠かせない
好調を続けてきた受託大手トーセがまさかの営業損失見込み
人気スマホゲーの「サ終」は後を絶ちません。
背景には、スキマ時間を使うモバイルゲームをプレイするにはゲーム数の限界があることの他、動画配信サービスなどの台頭でスキマ時間そのものの奪い合いが起きていること、「原神」や「ブルーアーカイブ」など海外の競合タイトルにユーザーが奪われていることがあると考えられます。
国内大手のゲーム会社であるスクウェア・エニックス・ホールディングスやバンダイナムコホールディングスも開発中のプロジェクトの中止、タイトルの見直しなどの方針転換を行いました。
ゲームはタイトルの販売や宣伝を行うパブリッシャーと、開発を担うデベロッパーがあります。デベロッパーは開発に関連する一連の業務を担います。任天堂やスクウェア・エニックスのような大手企業は両方の性格を兼ね備えていますが、すべてを自社で開発するわけではなく、一部を外注するのが一般的です。
ゲームは当たり外れの要素が大きく、失敗すると数億円から数十億円規模の損失を出すことがあります。受託開発の場合は開発に特化しているために収益性が安定しており、モバイルゲームのように長期間運用するタイトルであれば、ランニングによる収益も望めるという特徴がありました。
受託開発は堅調な業績を維持する会社が多かったのです。しかし、異変が生じました。
それを象徴したのがトーセの2024年8月期通期業績の下方修正。7月4日に見通しを引き下げ、売上高を従来予想の12.5%減の48億3000万円、2000万円としていた営業利益を4億5000万円の営業損失へと一転させました。
過去15年を振り返ってもトーセが営業赤字を出したことはありません。2期連続で営業利益は8%を超えるなど、好調を維持していました。正に急転直下の赤字転落です。
※決算短信より筆者作成
トーセは下方修正の理由の一つとして、制作を進めていたゲームソフト関連の一部の案件が中止となったことを挙げています。
なお、直接関係があるのかは不明なものの、トーセの主要な取引先の一つがスクウェア・エニックス。2022年8月期は販売額が27億円で全体の48.0%、2023年8月期は17億円で30.4%を占めていました。
昨今のプロジェクトの見直しが影響した可能性は大いにあると言えるでしょう。
トーセはゲーム開発が大型化、複雑化しており、開発途中で計画の見直しが行われることを余儀なくされていることが増えていると説明。クライアント側の都合でプロジェクトが中止になった場合でも、対価の取りこぼしがないよう管理の強化を進めるとしています。
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プロジェクトの見直しなどで案件数が少なくなれば、獲得競争が激化するのは明白。
受託開発を周辺事業の一つと位置づけている会社の場合、収益機会を拡大しきることは難しいでしょう。受託開発はかつてのように、安定的な収益が見込める事業ではなくなりつつあるのかもしれません。
文/不破聡