非常識な商品名と商品を見せないパッケージ
こうした仕様は社内で物議を醸した。しかし、仕様以上に物議を醸したといってもいいのが、商品名とパッケージデザインであった。
商品名についてはいくつか案があったものの、シンプルでしっくりくるという理由から「ゴリラのひとつかみ」を社内で提案することにした。
「ふくらはぎを連想させる言葉も考えたのですが、力強いイメージがある言葉として『ゴリラ』、聞いただけでやられそうな印象が強い言葉として『ひとつかみ』が思い浮かび合体させました」と水島さん。社内では最初、笑いが起きて「非常識」と受け止められたが、事業部長が次のように言って水島さんの背中を押した。
「常識か非常識かでいえば非常識。しかし、ドウシシャの商品は非常識で面白い商品名ほどかなり売れる傾向にある。この観点で考えれば、ひょっとしたらイケるかもしれない」
パッケージのゴリラは、水島さんが描いたラフを元にプロのイラストレーターが仕上げた。営業からは「キングコング風にして強力なパワーをイメージさせたほうがいい」といった意見が挙がったが、強そうなゴリラよりは愛着のわく優しそうなゴリラのほうがターゲットの若い女性には受け入れてもらいやすいことから、現在のタッチに落ち着いた。
水島さんが描いた「ゴリラのひとつかみ」のパッケージデザインのラフ画。右は販促用につくることにしたダンプ什器(紙箱を切り取り線に沿って切るなどしてから組み立てるとできる什器)のラフ画
パッケージには肝心の商品が登場しない。商品形状に似せた透明な窓から商品の色が確認できる程度である。
社内では「なんで商品を見せないの?」とパッケージデザインに疑問を投げかける声も挙がった。商品をパッケージに登場させなかったのは、パッと見た時に血圧計の腕帯に見えてしまうからであった。水島さんはこう明かす。
「私の中で、血圧計のようなビジュアルを見せて『欲しいと思うか?』という疑問がありました。むしろ、面白いパッケージにして『これ何だろう?』と思ってもらえたほうが絶対に興味を持ってもらえるはずなので、パッケージではあえて商品を見せないことにしました」
想像より高かった小売店からの評価
このような「ゴリラのひとつかみ」に同社は、商品化していいものかどうかの判断がつかないでいた。水島さんは商品化の可能性を探るために小売店との商談に臨み、バイヤーの反応を直接確かめることにした。
営業担当とともに商談に行ったのは5件ほどだったが、2023年9月に初めて商談に行った時から好反応が得られた。「ゴリラのひとつかみ」の説明を水島さんが始めるとバイヤーは前のめりになって説明に聞き入り、サンプルを積極的に試そうとするほど。「自社のPB(プライベートブランド)でやらせてほしい」という声も挙がった。商品化の手応えを十分に得ることができた。
小売店からの評価の高さは、水島さんの想像をはるかに超えるものだった。小売店のバイヤーを招き行なわれる同社主催の全社展示会が2024年早々に開かれた際、用意していた初回生産分だけではなく、2回目の生産分まで受注を獲得することができた。
話題が拡散しSNSでバズったことも重なり、入荷すると飛ぶように売れる状態が続いている。中には一気に2個買った人もいるほどだ。
SNSでバズった以外では、メディアを集めてドウシシャの新商品を紹介するメディア展示会での紹介やタイアップ記事の出稿で商品を広く知ってもらうことにした。ダンプ什器を用意したのも販促の一環で、忙しい小売店がすぐ売場をつくれるようにするためだった。