■連載/ヒット商品開発秘話
力強いイメージのある動物といえばゴリラ。そんなゴリラの握力は500kgだと言われている。
ゴリラみたいな力強さで体のケアができると話題なのが、ドウシシャが2024年2月に発売した『ゴリラのハイパワー』シリーズ。強力なポンプが小さなエアバッグにエアをぐんぐん送り込むことで、ゴリラのような力強さを実現した。
第1弾で発売されたのは、ふくらはぎに巻いて使う「ゴリラのひとつかみ」。これまでに10万台以上を受注している。6月には足裏をケアする第2弾の「ゴリラのひとつき」も発売。こちらも現在販売好調で、すでに5万台以上を受注している。
ふくらはぎケア家電「ゴリラのひとつかみ」。カラーはピンク、パープル、グレーの3色で価格は5500円(公式オンラインストア「ドウシシャ マルシェ」)
足裏ケア家電「ゴリラのひとつき」。カラーはピンク、パープル、グレーの3色で価格は5500円(公式オンラインストア「ドウシシャ マルシェ」)
失敗から得られた痛気持ちいい感覚
同社では以前から健康家電を手がけていたが、これまで若い女性にリーチできていなかった。この課題解決のために開発したのが『ゴリラのハイパワー』シリーズである。
開発を担当したのは、家電事業部家電商品ディビジョンの水島英恵さん。2023年4月に現在の部署に配属になり『ゴリラのハイパワー』シリーズの開発を担当することになった時に決まっていたのは、ふくらはぎのケアを目的にした商品をつくることだけ。ブランド名や商品名は、この時点では決まっていなかった。
「最初からハイパワーな設定で考えていたわけではありませんでした」と水島さん。5000円程度で販売できる原価を元につくってもらった最初のサンプルは小ぶりで、エアの圧力も大きさに応じたものだった。
このサンプルに対し水島さんは、通常の大きさのものと同程度の圧力がかかる設定にするよう変更を求めた。求めに応じてできたサンプルを試しに使ったところ、次のような手応えを得ることができた。
「最初は『痛っ』って思ったのですが、ちょっと我慢すると痛気持ちいい感覚になり、使い終わると足がスッキリしました。健康家電のことを何もわかっていない私の失敗からこうなってしまったものの、商品としては魅力があり面白いと思えました。ただ、普通に売ってもお客様には商品の良さが伝わらないので、手に取ってもらうために商品名とパッケージデザインにこだわることにしました」
低価格を実現して試し買いを促す
パワーが強力な点以外に目新しさはなく、他社の同カテゴリー品と比べて全般的にシンプルだ。用意されているのは片足分だけ。本体に専用のACアダプターをつないで使う。
「ゴリラのひとつかみ」本体。エアの圧力は+-ボタンを押して調整。強・中・弱の3段階調整が可能だ。強だと電源ボタンが赤、中だと緑、弱だと青に光る
シンプルなのは、ターゲットとした若い女性に手に取ってもらうため低価格にこだわったからであった。ベンチマークしたのは競合品ではなく着圧レギンスであった。水島さんは次のように明かす。
「私自身、足をケアする健康家電を購入したいと思ったことがありませんでした。周りに聞いても、足のケアでは着圧のレギンスを使っている人がいるくらいです。ふくらはぎをケアする家電を使うと気持ちよくなることが知られていないので、多機能なものをつくるよりは試しに買って使ってもらえることが大事だと考えました。着圧レギンスは数千円で買えるので、試し買いしやすいギリギリの価格として5000円程度で販売することは譲れないポイントでした」