TOPIC3:人間関係とワーク・エンゲージメントの関係性
加えて、本調査から「人間関係とワーク・エンゲージメントの関係性」も見えてきた。
■人材マネジメントに対する希望と実態が合致しているかということ以上に、人間関係がワーク・エンゲージメントに影響している可能性がある(図表7)
図表7は、人間関係に関する項目を肯定した群(「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と回答した人)と否定した群(「あてはまらない」「どちらかといえばあてはまらない」と回答した人)のワーク・エンゲージメントスコアの平均値の違いを示したデータだ。
この図表から、今の会社に、仕事とは関係のない共通の話題・趣味のことで一緒に盛り上がれる上司・同僚がいる人、キャリアについて何でも相談できる上司・同僚がいる人は、そうでない人よりも、ワーク・エンゲージメントスコアが明確に高いことが読み取れる。
図表7:上司・同僚に関する項目の肯定/否定によるワーク・エンゲージメントスコアの平均値の違い
今回の調査では回答者の給料への不満が少なくないことが明らかになった。ただ給料や機会は人事制度や組織構造に関わるため、改善するのは容易ではないことが考えられる。
一方で、それらに対する希望が叶っているかということだけがワーク・エンゲージメントを左右するわけではなく、上司・同僚などの人間関係なども、働く個人の日々の仕事のやりがいや成長・貢献実感に大きく影響するといったことがわかった。職場の人間関係であれば、経営層や人事の方ではない、現場の管理職やメンバーであっても、主体的に働きかけを行うことができるのではないだろうか。一人ひとりが、職場の士気を高める行動をとることは十分に可能なのだ。
■調査担当研究員のコメント
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所研究員兼データ活用推進グループ
大庭りり子氏
今回は、「働く人の本音調査2024」と題して、働く人はどのような人材マネジメントを求めているのか、そして、それぞれが所属する組織の人材マネジメントの実態はどうなっているのかということを軸に、それらのギャップの程度や、ギャップがどのような影響を及ぼしうるのか、ということを確認しました。
本レポートは、まず「年収」に関する結果をご紹介しています。物価や税負担の上昇が著しい昨今においては、特に満足していない方が多く、人事評価への反映においても、「給料」を重視する声が多数派となりました。
「仕事の報酬は仕事」という言葉もありますが、それは衛生要因(職場環境や給与など、仕事の不満足に関わる要因)がある程度満たされていてこそ、感じられることなのかもしれません。
また、人事評価への反映等については、個人が認識している実態も併せて確認し、どのような違いがあるのかを見ていきました。その上で、個人が認識している所属組織の実態を問いました。なお、本レポートにおいては、「『A.給料(月給や賞与の増減)』と『B.仕事の機会(希望する仕事が任されたり、異動希望が叶うこと)』のどちらのほうに、人事評価をより反映してほしいと思いますか」という設問を取り上げていますが、図表5のとおり、さまざまな問いかけをしています。その他の設問の結果に興味を持ってくださった方は、是非オープンデータをお問い合わせいただき、個別にご確認ください。
次に、ギャップが及ぼす影響のひとつとして、図表5に示したすべての項目で、希望と実態が合致している人たちは、それらが乖離している人たちと比べてワーク・エンゲージメントが高い傾向にあること
が確認できました。こういった人材マネジメントに関する事項が、働く一人ひとりが前向きに仕事に取り組めるかどうかということに強く関わっていることを改めて知ることができ、制度設計のお手伝いを
行っている当社としては、身の引き締まる思いです。
そして、このような希望と実態のギャップ以上に、上司や同僚との関係性がワーク・エンゲージメントには大きく関わっていると判明したことが、今回の分析を通じて得られたもっとも興味深い示唆でした。
制度面よりは個人の意思や努力が反映される領域であるものの、コミュニケーションを歓迎する雰囲気の醸成など、組織からの後押しも肝要です。より仕事に対して前向きな個人が増えることは、いうまでもなく、組織にとっても有益なことでしょう。今回のレポートを通じ、個と組織が互いに尽力できる職場の望ましさを提示できていれば幸いです。
<調査概要>
構成/こじへい