会社代表者のプライバシーに配慮するため、2024年10月1日から、代表取締役等の住所の一部を非表示とすることができるようになります。株式会社の登記簿に自分の住所が記載されていることが気になる代表者の方は、改正のポイントを理解した上で、2024年10月以降に非表示措置の申出をご検討ください。
1. 現行制度では、代表取締役等の住所が番地まで記載されている
現行の商業登記規則では、株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人(=代表取締役等)の住所が、会社の登記簿謄本に番地まですべて記載されることになっています。
株式会社の登記簿謄本は、法務局やウェブ上(登記・供託オンライン申請システム)で申請して手数料を支払えば、誰でも取得することができます。
したがって、代表取締役等の住所についても、株式会社の登記簿謄本を取得すれば番地まで確認できる状態です。
現行制度における上記の取り扱いは、代表取締役等のプライバシー情報の開示を強制する側面があるため、問題視されていました。
2. 【2024年10月施行】代表取締役等住所非表示措置とは
2024年10月1日から改正商業登記規則が施行され、代表取締役等の住所の一部を非表示とする措置(=代表取締役等住所非表示措置)を申し出ることができるようになります。
同改正は、代表取締役等のプライバシー保護に配慮したものです。
2-1. 代表取締役等住所非表示措置の内容
代表取締役等住所非表示措置を申し出た場合、株式会社の登記簿事項証明書または登記事項要約書において、代表取締役等の住所のうち行政区画(都道府県と市町村または特別区)以外の部分が不記載となります。
たとえば、代表取締役等の住所が東京23区内にある場合は、「東京都○○区」と表示されるようになります。
代表取締役等の住所が神奈川県横浜市内にある場合は、「神奈川県横浜市」と表示されるようになります(政令指定都市内の区は表示されません)。
2-2. 代表取締役等住所非表示措置の申出方法
代表取締役等住所非表示措置は、以下のいずれかの登記を申請する際に限り申し出ることができます。実際には、住所変更登記と併せて申し出るケースが多くなるものと思われます。
・株式会社の設立の登記
・本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新所在地における登記
・代表取締役または代表執行役の就任または住所変更による変更の登記
・清算人の登記
・代表清算人の就任または住所変更による変更の登記
上記の各登記および代表取締役等住所非表示措置の申請先(申出先)は、株式会社の本店所在地を管轄する法務局または地方法務局です。
2-3. 代表取締役等住所非表示措置を申し出る際の添付書類
代表取締役等住所非表示措置の申出に当たっては、申出書に加えて、以下の添付書類を提出する必要があります。
(1)上場会社の場合
・株式上場を証明する書面
(2)上場会社以外の株式会社の場合
(a)以下のいずれかの書面
・代理人である弁護士または司法書士が、本店所在地において会社が実在することを確認した旨を記載した書面
・会社を受取人とする書面が、本店所在地宛に配達証明郵便等で送付されたことを証する書面
(b)住民票の写しなど
(c)会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面(弁護士または司法書士による確認書面など)
2-4. 登記簿の原本には、引き続きすべての住所が記載される
代表取締役等住所非表示措置を申し出た場合でも、株式会社の登記簿の原本には、引き続き代表取締役等の住所がすべて記載されます。
代表取締役等住所非表示措置は、あくまでも登記簿事項証明書または登記事項要約書における住所表示を省略するものに過ぎないためです。
したがって、代表取締役等住所非表示措置を申し出たとしても、その後に代表取締役等の住所に変更が生じた場合は、変更発生後2週間以内に住所変更登記の手続きを行わなければなりません。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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